第30話 街の様子

――街に辿り着いたレアとリリスは最初に見た光景は破壊された街並みだった。街から上がっていた黒煙は建物が火事で燃えていたらしく、建物の殆どは焼け崩れていた。その光景にレアとリリスは愕然とした。



「酷い……」

「そ、そんな……こんなの廃墟街の方がまだマシじゃないですか」



変わり果てた街の光景に流石のリリスも膝を崩し、そんな彼女にレアはなんと声をかければいいか分からなかった。この街で暮らしていたリリスの気持ちを考えるとレアも胸が苦しくなる。



「……大丈夫?」

「ううっ……もうちょっと待ってください」



リリスはレアに抱きつき、目の前の現実から目を背ける。しかし、いくら目を反らしても街が滅びた事実は変わらず、冷静になった彼女は辛そうな表情を浮かべながら提案する。



「……とにかく、今は生き残っている人を探しましょう」

「そうだね。でも、いったい何が起きたんだろう」

「分かりません。でも、今はとにかく生きている人を探しましょう」



生存者を捜索するためにレアとリリスは街の中を探索し、焼け崩れた建物の中や街道を調べていくうちにある疑問を抱く。これだけの大規模な火災が発生したというのに何故か人間の死体は異様なまでに少なかった。そして生存者の姿も全く見当たらない。


街には少なくとも数千人の住民が暮らしていたはずだが、その割には死体の数は異様なまでに少なく、生存者が一人も見つからないことにレアとリリスは疑問を抱く。考えられるとしたら生き残った住民は既に街を離れて避難したか、あるいは別の可能性も考えられた。



「幾ら何でもおかしいですよ。こんなに探してるのに人が一人も見つからないなんて……」

「もう避難が終わったんじゃないの?」

「避難……そうだ!!冒険者ギルドへ向かいましょう!!もしかしたら生き残った人達が避難してるかもしれません!!」

「冒険者ギルド?」



リリスが所属する冒険者ギルドの建物は緊急事態が陥った場合、避難所として利用されるという。他に行く当てもないのでレアはリリスの案内でギルドが存在する場所へ向かうと、街の中で一番巨大な建造物に辿り着く。



「ここが冒険者ギルドですよ!!」

「こ、これが冒険者ギルド?俺の通っていた学校の校舎と大差ないな……」

「校舎?何の話ですか?」



冒険者ギルドが経営する建物はレアの早々以上に大きく、確かにこれほど大きい建物ならば避難所として利用されるのも納得できる。建物は焼け焦げた箇所もあるが倒壊は免れており、中に入ろうとすると扉には鍵が掛けられていた。



「あれ?開きませんね……いつもはギルドの扉は開放されてるんですけど」

「鍵が掛かっているということは中に誰か居るのかな?」

「そうですね、お〜い!!リリスです!!この街の女性冒険者の中では一番若くて可愛い人気者が帰ってきましたよ〜!!」

「それ、自分で言ってて恥ずかしくないのか……」



どんどんと扉を叩きながらリリスは中に居るはずの人間に話しかけるが、鍵が開く様子はない。そのことにじれったく思ったリリスは鍵穴を覗き込み、彼女は懐を探って針金を取り出す。



「仕方ありませんね、私の開錠の技能で扉を開けましょう」

「開錠って……もしかしてピッキング!?そんな特技まであったの!?」

「ふふふ、宝箱を開けるために覚えた技能がこんな形で役に立つとは思いませんでした」



リリスは慣れた手つきで鍵穴に針金を差し込み、しばらく手元を動かすと鍵が開く音がなる。扉を開くと中は真っ暗であり、灯りが欲しいと思ったレアはスマートフォンを取り出す。



「そうだ、これを使おう」

「それは……前に見たことがありますね。それは無事だったんですね、でも前に使えないとか言ってませんでした?」

「大丈夫、さっき充電してたから」



キャンピングカーを作り出した時にレアはスマートフォンの充電も行い、ライト機能を利用して建物の中を照らす。その瞬間、レア達は信じられない光景を目にした。



「こ、これは……!?」

「な、何だよこれ!?」



ギルドの建物内は激しく荒らされており、まるで戦闘が行われた様な痕跡が残っていた。床や壁に刃物で切りつけたような跡が残っており、破壊された机や椅子も散らばっていた。


この建物の中で誰かが争ったのは間違いなく、血の跡もあちこちに残っていた。それなのに生きている人間も死体も見かけられず、いったいどうなっているのかとレアは疑問を抱くとリリスは床を指差す。



「レアさん!!ここを照らして下さい!!」

「どうしたの!?」

「……何かを引きずった跡があります」



リリスの言う通りにレアは床を照らすと、確かに床のあちこちに人間を引きずったような痕跡が残っていた。それらを辿ると扉に向かっており、誰かが建物に隠れていた人間を引きずって連れて行ったとしか考えられない。床には引っ搔き傷もあり、どうやら必死に連れて行かれないように抵抗を試みた人間もいたらしい。



「まさか、誘拐された?」

「そうとしか考えられません。でも、いったい誰がこんな真似を……危ない!?」

「えっ!?」



レアの背後を見てリリスは声をあげると、後方から物音を耳にしたレアは振り返る。そこには自分よりも身長が高い傷だらけの女性が立っており、その手には剣が握りしめられていた。



「うおらぁっ!!」

「うわぁっ!?」

「ひいいっ!?」



女性が剣を振り下ろす寸前にレアとリリスは左右に分かれると、剣が床板に食い込む。いきなり攻撃を仕掛けてきた女性にレアは拳銃を構えて怒鳴りつける。



「だ、誰だ!?」

「はあっ、はあっ……あんたらこそ、誰だい!?」

「えっ!?その声は……もしかしてバルさんですか!?」

「バル?」



リリスは女性の声を聞いて驚いた表情を浮かべ、一方で女性の方は膝を付いた。先ほどの一撃で体力を使い果たしたのか、彼女は白目を剥いて床に倒れ込む。


いきなり攻撃を仕掛けたと思ったら勝手に倒れた女性にレアは戸惑うが、リリスは彼女が全身に怪我を負っていることを知る。



「大変です!!酷い怪我をしてます!!早く治さないと……」

「リリス、この人は……」

「私の先輩の冒険者です!!」

「ううっ……」



倒れた女性はリリスの先輩で「バル」という名前の冒険者らしく、彼女の治療のためにリリスは回復魔法を施す。呪文を唱えると杖先から光が放たれ、それを浴びたバルの怪我が時間を巻き戻すように治っていく。



「ヒール!!」

「ぐぅうっ……」

「……怪我は治ったみたいだけど、顔色が悪い」

「はあっ、はあっ……か、回復魔法で直せるのは傷口だけです。失った血液まではどうすることもできません」



治療を受ける前に全身の怪我で大量の血を失っていたバルの顔色は悪く、それを見てレアはなんとかできないのか考える。そこで一番最初に思いついたのは「解析」だった。



(そうだ、ダマランの時のようにこの人のステータスを改竄すれば……)



レアは倒れているバルを見ながら解析を発動した瞬間、彼女のステータス画面が視界に表示された。それを見てレアは驚愕した。




――バル=テン――


職業:戦士


性別:女


状態:貧血


レベル:58


SP:3



―――――――――




バルはダマランよりもレベルが高いと判明し、状態の項目を見てリリスの予想通りに「貧血」を引き起こしていた。レアはそれを見て迷わずに文字変換の能力で「貧血」を「健康」と書き換えた。



「これでどうだ!?」

「え?なにを……わっ!?」

「ぶはぁっ!?」



画面が更新された瞬間、意識を失っていたはずのバルは目を覚ます。顔色もすっかり元通りに戻っており、怪我も完璧に消えていた。

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