第29話 サンドワーム
「はわっ!?」
「あいてっ!?」
シートベルトをしていなかったレアは車が急に止まったせいで頭を打ってしまい、痛みを堪えながらリリスに文句を言う。
「いたたっ……リリス、急に止まるなよ!!」
「そんなことを言ってる場合ですか!?前、前を見てください!!」
「前って……うわぁっ!?」
リリスが前方を指差したのでレアは視線を向けると、車の前に巨大生物が地面から現れる。全身が土気色のミミズのような化物の登場にレアとリリスは口元を抑える。
(な、何だこいつ……巨大ミミズ!?)
(しっ!!大きな音を立てないでください!!こいつはサンドワームです!!)
(サンドワーム!?)
車の前に現れたのはサンドワームと呼ばれる魔物だとリリスは説明し、地面から抜け出すとレア達の乗った車に口元を近づける。サンドワームには眼球は存在せず、レアが双眼鏡で外の景色を確認するために開いた窓から異臭が漂う。その臭いにレアとリリスは吐き気を催す。
(うええっ……何だこの臭い!?)
(うぷっ……絶対に音を立てないでください。サンドワームは目が見えませんけど、物凄く聴覚が優れてるんです。もしも下手に音を立てたら獲物として認識されて食い殺されますよ)
(そんなやばい奴なの!?)
サンドワームは非常に恐ろしい魔物でレア達の前に現れた個体は全長10メートルを超えていた。全身から悪臭を漂わせ、こんなことならば窓を閉めておくべきだったとレアは後悔する。
視覚はなくとも他の感覚で周囲の状況を把握できるのか、サンドワームはレア達が乗り込んだ車を見下ろす。その気になれば車を丸呑みできる程に大きく、必死にレアとリリスは大声をあげないように囁く。
(ちょっと、どうすればいいのこれ!?)
(私に言われても知りませんよ!!こういう時こそレアさんの能力で何とかしてくださいよ!?)
(なんとかと言われても……)
試しにレアは解析を発動しようとしたが、何故かサンドワームには上手く通じない。窓越しでは発動しないのか、あるいは敵の全体像を捉えていないのかは不明だがレアは困り果てる。
(何で画面が開かないんだ!?いや、それよりもこの臭いはまずい……だんだんときつくなってきた)
臭いに耐え切れずにレアとリリスは吐きそうになるが、こんなところで吐いてしまえば確実にサンドワームに気付かれてしまう。サンドワームは車に口元を近づけると、普通のミミズと違って巨大な口と鋭利な牙が生え揃えていた。
(やばい!?丸呑みされたら確実に死ぬ!!いったいどうすれば……)
(ううっ、もう限界です……そ、そうだ!!餌を与えれば満足して帰るかもしれません!!)
(餌!?)
(サンドワームは雑食ですからなんでも食べるんです!!とにかく、ありったけの餌を外に放り出してサンドワームの注意を反らしましょう!!)
(わ、分かった!!)
リリスはサンドワームの生態を思い出し、彼女は車内の食料を全てかき集めて一つの袋にまとめる。それを開け開かれた窓から放り投げると、サンドワームは車から出てきた袋に気付いて顔を近づける。
「ギュロロロッ……!?」
「「っ……!?」」
サンドワームは鳴き声を上げて袋に口元を近づけると、それを見てレアとリリスは冷や汗を流す。食料が入った袋をサンドワームは吸い込むと、美味しそうに租借する。
「ギュロロッ♪」
「「…………」」
レアとリリスはサンドワームが喜んでいる姿に安堵するが、その直後にサンドワームは車をじっと覗き込む。嫌な予感を抱いたレアとリリスは車の扉に移動すると、案の定というべきかサンドワームは巨大な口を開いて車に嚙り付く。
「ギュロロッ!!」
「危ないっ!?」
「わああっ!?」
車を飲み込む勢いで突っ込んできたサンドワームにレアはリリスを抱えて車から飛び出し、二人は間一髪で飲み込まれることは回避した。サンドワームは車を徐々に飲み込み、その様子を見てレアはリリスの手を掴んで走る。
「い、今のうちに逃げよう……」
「さ、賛成です……食事に夢中の間に逃げましょう」
大きなお音を立てないように気を付けながらレアとリリスはサンドワームから離れ、サンドワームが車を全て飲み込むまでの間に逃げ出す。幸いにもサンドワームは二人の存在に気づかず、車を飲み終えると満腹になったのか地中へと戻った――
――サンドワームに車を飲み込まれたレア達は徒歩で街がある方向に向かい、身に着けていた物以外は全て失ってしまった。リリスはなんとか杖と地図とコンパスは持ち帰れたが、レアの場合は殆どの荷物を失う。
「ううっ……俺の手持ちはこれだけか」
「しょうがありませんよ、生きているだけで奇跡なんですから」
身に着けていた装備品以外をレアは全て失ってしまい、日本刀も学生手帳を利用して作り出した
文字変換の能力を利用すれば新しいのを作り出すこともできるが、色々と持って来た道具も全て失ってしまったために今すぐに作り出すことはできない。しかし、車のお陰で予定よりも大分早くに街に辿り着けそうであり、リリスは地図を確認して街がある方角を確認する。
「あと少しで街に到着できますからね。それに今思えばあんな目立つ乗り物で帰ったら大騒ぎになってましたよ」
「まあ、確かにそうか……」
この世界には自動車は存在する国もあるが、帝国では自動車は普及されていないのでレア達がキャンピングカーに乗って街に向かっていたら注目を浴びていた可能性もある。レアとしては目立つ行動は避けたく、下手に注目を浴びれば帝都の人間に気付かれる恐れもあった。
(ダマランはきっと俺を殺したと思ってるはずだ。あいつにだけは俺が生きていることを気付かれないようにしないと……)
異界人を殺せば災難が見舞われるという伝承のお陰でレアはダマランに直接的に殺されることはなかったが、ダマランは転移魔法を利用してレアを別の地に飛ばし、彼を野垂れ死にさせようとした。もしも文字変換の能力がなければレアは今頃は死んでいた可能性もあった。
ここがまだ帝国の領土であるのならばレアは目立つ行動を避けなければならず、大臣であるダマランに気付かれないように注意する。その一方でようやく人が暮らす街に辿り着けることにレアは期待する。
(街に到着したらゆっくり休もう。リリスに金を借りて宿に泊まって暖かい風呂に浸かりたい……)
召喚されてから碌な生活を送っていないのでレアはまだ見ぬ街に期待を膨らませるが、前を歩いていたリリスが声をあげる。
「あ、見えてきましたよ!!あそこがセカンの街で……えっ?」
「どうかした……なんだあれ!?」
リリスが指差した方向には城壁で取り囲まれた街が存在したが、何故か街の方から大量の黒煙が舞い上がっていた。それを見てレアとリリスは顔を見合わせ、急いで街へと向かう――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます