第28話 快適な旅

「残りはそこに置いといてくれませんか?今は運転の方に集中したいので……ひゃっぽう!!」

「ハイテンションだな……」



サンドイッチを乗せた皿を置いてレアは窓から外の様子を伺い、あることを思いつく。廃墟街から持ち帰ってきた道具の中から三文字の物を取り出す。それを文字変換の能力で「双眼鏡」へと変貌させた。



「よし、これさえあれば敵の接近も気づけるぞ」



双眼鏡を手にしたレアは窓から乗り出して外の景色を確認する。双眼鏡のお陰で遠方にいる動物や魔物の確認を行い、移動中も警戒を行う。昨日のように一角狼の群れなどに追い掛け回されるのは御免であり、周囲を確認して魔物姿を探す。


車が出てからしばらくの間はレアは真面目に双眼鏡で監視を行うが、それもだんだんと飽きてきた。何処まで走っても延々と草原が広がっており、流石に目が疲れてきたレアは双眼鏡を下ろして肩を鳴らす。



「ふうっ……こうして見ると本当に異世界だな。こんな草原なんて日本だと有り得ない光景だな」

「ニホン?」

「何でもないよ。それより、街までどれくらい時間掛かる?」

「そうですね、この乗物ならすぐに辿り着けそうですよ。多分、昼前には到着すると思います」

「そんなに早く着くのか……まあ、馬車と自動車だとそんな物か」



馬車と自動車では速度に大きな差が存在するため、リリスの予測では昼を迎える前に村に辿り着けるという。彼女を無事に村に送り届けた後はレアは「異世界転移」の能力を使用して元の世界に戻れないのかを試すつもりだったが、もしも戻れない場合に陥った時の事を考えて先に今日の宿泊場所を確保する必要もある。



「次の街には宿屋とかある?」

「それはありますよ。でもレアさんはお金を持っているんですか?何なら私が貸しますよ……利子は付けますけど」

「おいこら、一応は命の恩人だぞ」

「冗談ですよ。ですけど、私もそんなにお金に余裕があるわけではないので……」

「お金はどうにかするから心配しないでいい。それより、街の事を色々と教えて欲しい」

「いいですけど……」



街に辿り着く前にレアはリリスから情報を聞き出し、自分が街に辿り着いた時にどのような行動を取るかを考える。この世界の常識さえも知らない彼は慎重にこちらの世界の情報を聞き出し、この世界の人間に怪しまれないように気を配る必要があった。



「運転の方はどんな感じ?」

「だいぶ慣れましたね。だいたいの機能は理解しましたし、この調子なら予定よりも早く着くかもしれません」

「そっか……あ、でも燃料が付きそうだったらすぐに言ってね」

「燃料?なんですかそれ?」

「そうか、そこから説明しないといけないのか……」



キャンピングカーは走り始めたばかりなのでガソリンはまだ大丈夫だったが、走り続ければいずれは尽きてしまう。ガソリンやバッテリーに関しては文字変換の能力で造り出せるだろうが、もしも故障した場合はレアは直すことはできない。


文字変換を行った場合、一度変更した文字は二度と書き換えることはできない。ガソリンやバッテリーが切れても補充ぐらいはできるが、もしも車自体が故障した場合はレアではどうすることもできない。但し、この世界に自動車を製造する技術があるのならば故障を直せる人間はいる可能性はあった。


ちなみにリリスが運転中の間、レアはキャンピングカーの一通りの機能の確認を行い、シャワーや冷蔵庫の類は今のところは問題なく扱えるがいずれは使えなくなる可能性が高く、街に入る前に元の狙撃銃の「弾丸」に戻す必要があった。



「あ、そういえばリリス……街には居る時に許可とか必要?」

「その点は大丈夫ですよ。私が事情を説明しますから街に入る事は問題ないです」

「普通の人間は街には居る時はどうするの?」

「まずは兵士の取り調べを受けます。身分証を所持している人間は兵士に提出を行い、犯罪履歴等を調べられます。冒険者の場合はギルドカードを提示すればすんなりと通してくれますよ。もしも身分証を失くした場合は通行料を支払わないといけませんね。ちなみに身分証の発光には必ず身元保証人が必要です」

「この世界にも身分証の概念はあるのか……」



街に到着次第にレアは自分の身分証を作り出す必要があるらしく、身分を証明する人間の協力も必要不可欠となる。命を救ってくれた恩があるので街に入るときはリリスが彼の通行料を代わりに支払ってくれるらしく、その後は彼女は先に今回の街の調査の報告を自分の上の人間に行わなければならず、冒険者ギルドと呼ばれる建物に向かう必要がある。



「冒険者は必ず冒険者ギルドに所属する必要があります。私の場合はこの街の冒険者ギルドの支部に所属しているので先に調査の報告をしないといけません。報告が終了次第、レアさんの身分証の発行をしましょうか」

「身分証の発行は何処でするの?」

「それも冒険者ギルドで行えます。まあ、身分証と言っても実際は簡単な質疑応答とそれなりに高い料金を支払えば簡単に手に入りますから安心して下さい。特にこんな田舎だと小難しい手続きなんて殆ど省略されますから」

「ええっ……」



リリスの話によれば身分証は簡単に入手するらしく、無事に身分証を入手できたら今度はレアの働く場所を探す必要がある事を告げる。彼女はレアが金銭の類を持っていないと考えているが、レアの能力ならお金も作り出せるだろうが、無暗に金を生み出したらこの世界の経済に大きな影響を与えかねないので注意する必要があった。



(元の世界に戻る方法が見つかるまではこっちで真面目に働いて生活するしかないか)



彼女を無事に街に送り届けたら自分は元の世界に戻る事を決意したレアは助手席に座り、到着までの間はリリスと雑談でも行おうとすると急に車が急停止した。

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