追放されたけど別に復讐なんて考えてないのに勝手に国が自滅していく！？

第27話 硬貨

「あ、そうだ……リリス、お金は持ってる？」

「え？どうしたんですか急に？」

「いや、ちょっと試したい事があって……それと通貨の単位も教えてくれない？」

「別にいですけど……そういう常識的な事まで忘れてたんですか？」

リリスは運転を中断してレナの元に向かい、彼女は収納魔法を発動して財布と思われる小袋を取り出す。彼女は中身から複数の硬貨を取り出し、最初にこの世界には現実世界のように「紙幣」の概念が存在しない事を説明する。

「まず、この銅貨と呼ばれる鉄製の硬貨が一番値打ちが低いです」

「銅貨……」

最初に渡されたのは銅製の硬貨を渡され、外見も大きさも１０円玉と酷似しているが、こちらの世界ではそれなりに価値があるらしく、一般の間では最も使用される事が多い硬貨と判明する。

「続いてこちらが鉄貨です。鉄製の硬貨です」

「鉄貨……」

今度は鉄製の小さな硬貨であり、大きさは銅貨とほぼ同じぐらいだが銅貨よりも少し重い。

「次は銀貨ですね。純銀製ではないですが、結構綺麗ですよ」

「本当だ」

次の銀貨は「五百円硬貨」を想像させる大きさの銀貨を渡され、リリスの話を聞く限りでは貴族が最も多用する効果だと判明する。

「最後はこの金貨ですね。本当はもっと価値の高い通貨も存在するんですけど、私が持っているのはこの４つだけです」

「おお、金貨だ……本物の金で出来てる」

最後にリリスに渡されたのは純金製の硬貨であり、大きさは銀貨と同程度だが価値は全ての通貨の中でも２番目に位置するほど高く、彼女の説明からレアはこれまでの通貨の価値を現実世界で換算するとこのような結果になった。

―――通貨―――

・銅貨――１００円

・鉄貨――１０００円

・銀貨――１万円

・金貨――１０万円

――――――――

一般人が多用するのは鉄貨と銅貨であり、あまり銀貨や金貨の類は使用する事はない。逆に貴族などの上流階級の人間は銀貨や金貨を多用する傾向が存在し、リリスも普段の生活では鉄貨と銅貨しか使用しないらしい。

「これが世界共通の通貨です。昔は色々な国で様々な通貨が存在したそうですけど、数百年前から現在の通貨に統合されました」

「という事はこの通貨以外に通貨は存在しないの？」

「いいえ、紙幣が三種類あります。一番価値が低い紙幣は銅貨の１００分の１です」

「なるほど……紙幣の方が硬貨よりも価値が低いのか」

地球とは異なり、こちらの世界では硬貨と紙幣の価値が逆転していた。リリスから見せて貰ったお金を確認し、教会で発見した銅貨はあまり価値が高くないことにレアは残念に思う。

「う〜ん……ちょっと眠くなったから、俺は寝させてもらうよ」

「え、寝るって……はっ！？こんな密室に連れ込んで私に何をする気ですか！？」

「普通に寝るだけだよっ！！」

寝台は１つしかないが２人で眠るには十分なスペースが存在するが、流石に一緒に寝る訳にはいかないのでレアはソファの方で眠り、リリスは毛布を被って仮眠を取る。特にレアは碌に眠れなかったのですぐに眠りについた――

――しばらくするとレアは目を覚まし、寝台で眠っているリリスよりも早く起きてしまった。彼女は自分よりも長く寝ているはずなのに呑気に涎を垂らしながら夢を見ていた。

「うへへっ……姉ちゃん、いい乳してるじゃないですかっ……」

「おっさんかお前はっ」

「あふんっ」

奇妙な寝言を漏らすリリスの頭をレアは軽く小突くと、彼女は眠たそうに顔を上げて大きな欠伸を行う。

「ふああっ……あ、おはようございます……今日の朝ご飯はサンドイッチでいいですよ」

「おはよう、そして朝から図々しいな……というか朝食はさっき食べただろ」

レアは窓ガラス越しに外の様子を窺い、特に魔物らしき姿は見えないがリリスの話では大抵の魔物は昼行性であり、夜は大人しかった魔物達も行動を開始する時間帯を迎えた事になる。魔物に見つかる前に移動するためにレアは運転席に乗り込もうとした。

「よし、じゃあ出発しようか」

「あ、運転なら私がしますよ。だいたい昨日の運転で操作方法は分かりましたし、街への方角が分かりますから……」

「……じゃあ、任せる」

意を決して運転席に座り込もうとしたレアをリリスが制止し、彼よりも早々に運転方法を掴んだ彼女が申し出る。元々は自分の世界のしかも自分が作り出した乗物にも関わらずに他の人間に運転を任せる事にレアは複雑な気持ちを抱くが、彼女に運転を任せる間に色々と整理したい物があるのを思い出す。

「何か起きたらすぐに教えろよ」

「はいはい……それにしてもちょっと暑いですね。あ、ここを押せば冷たい風が吹きますよ！！」

「お前、本当は車を乗ったの初めてなのかっ！？」

会話の際中にクーラーの存在さえも気付いたリリスにレアは本当に車の運転の初心者なのかと突っ込みを入れるが、仕方なく彼女に運転を任せて自分は先に朝食の準備を行う。冷蔵庫も配備されている事は有難く、これならば作り出した食料や飲み物も保管できるようになった。

サンドイッチを所望されたのでレアは適当な道具で「パン」を作り出し、他にもベーコンやトマトやチーズといった食材も文字変換で生み出す。嬉しいことにキャンピングカーには冷蔵庫も搭載されていたので作った食材も無駄にせずに保管することができた。

「電子レンジまであるのは助かるな。こんなことならもっと早く作れば良かった……いや、建物の中じゃ無理か」

廃墟街でキャンピングカーなど作り出せば目立ってしまい、しかも大きすぎるので教会の敷地内でも収まらない。もしもリリスと出会って外に出ていなければこんな快適な生活を送ることはできなかった。そう考えるとレアはリリスの出会いは悪いことではないように思え、彼女のためにサンドイッチを用意する。

「はい、できたよ」

「ありがとうございます。あれ、これトマト入ってますか？私嫌いなので抜いて下さいよ」

「…………」

リリスに感謝しようかと思ったが、生意気な彼女の態度にレアは考えを改めたくなった。仕方がないので言われた通りにトマト除いてからサンドイッチを渡す。