第26話 キャンピングカー

――コボルトを倒してからしばらくすると夜明けを迎え、馬車の荷物を整理していたレアにリリスは声をかける。



「朝食は私が作りますよ。昨日はいい食材が手に入りましたからね」

「食材って……もしかしてコボルトの事?」

「文句を言っちゃ駄目ですよ。魔物の肉は普通の動物よりも栄養があるんですからね」

「ええっ……」



昨夜にレアが倒したコボルトの死骸を解体し、肉と野草を煮込んだ鍋料理を披露する。最初は食べる事を躊躇したレアだが、折角の好意を無下にするわけにはいかずい食事を行う。幸いというべきかリリスの作り出した料理は美味しく、コボルトの肉は硬かったが中々美味しかった。



「へえ……結構美味しいね」

「ふっふっふっ、料理の腕だけは自信がありますからね。魔物の肉は調理が難しいですが上手くできれば美味しく食べられるんですよ」



食事を行いながらレアは自分のステータス画面に視線を向け、コボルトを倒したことでまたもやレベルが上昇していた。




――霧崎レア――


職業:無し


性別:男性


レベル:20


SP:4



――能力値――


体力:109


筋力:109


魔力:20



――技能――


翻訳――この世界の言語・文章を日本語に変換し、全て理解できる

脱出――肉体が拘束された状態から抜け出す

解析――対象が生物ならばステータス画面、物体の場合は詳細を確認できる

苦痛耐性――肉体の苦痛に対する耐性を得られる

超回復――肉体の回復能力が強化される

命中――標的に確実に命中させる



――異能――


文字変換――あらゆる文字を変換できる。文字の追加、削除は行えない



――――――――




リリスの話によればコボルトは昼間の間はゴブリンと同程度の危険性しかないが、満月の晩にだけ肉体が異常に強化される能力を持つ。そして肉体が強化されている間に倒すと得られる「経験値」も多いらしく、レベルが遂に「20」まで上がっていた。



「そういえばリリスのレベルは幾つなの?」

「むっ、いきなりレベルを尋ねるなんてデリカシーがないですよ」

「え?そういうもんなの?」

「当然じゃないですか、レベルも個人情報なんですからね。まあ、レアさんにはお世話になってますし答えてあげても良いですけど……私のレベルは28です。治癒魔術師にしては結構高いんですよ」

「え?リリスの年齢じゃなくて?」

「ぶち殺しますよ!!私はまだ15才です!!」

「え!?俺とタメなの!?」



リリスの言葉にレアは驚き、てっきり彼女の年齢は18才ぐらいだと思い込んでいたが、まさかの同い年だった。リリスは怒りながら飯を喰らうと、不意に彼女はレアの荷物がまとめられた袋に視線を向ける。



「そういえばレアさんの持っていた「すまーとふぉン」あれはどういう道具なんですか?」

「え?今更?えっと……俺のスマートフォンは本当なら遠い所に存在する人間と連絡を行ったり、ネット……いや、どういえばいいかな。調べたい物を一瞬で調べられる道具……かな。あ、複雑な計算を一瞬で行える機能もあるし、ライト……じゃなくて光を照らすこともできるよ」

「へえっ、それは便利ですね」

「まあ、充電が切れたら終わりなんだけどね」



スマートフォンを取り出したレアが機能を説明するとリリスはこの世界に存在しない道具なのでリリスは興味津々だった。だが、スマートフォンの電池が切れれば使い物にならず、そのために普段は電源を切っている。今は使えないことを伝えるとリリスは残念そうな表情を浮かべて今度は馬車に視線を向けた。



「でも困りましたね。馬がいなくなった以上はここから徒歩で移動するしかないんですけど……レアさんの能力で馬とかも作り出せませんか?」

「う〜ん、生き物は作れるか分からないけど……もっと早い乗り物なら用意できるかもしれない」



文字変換の能力を使用すれば新しい馬を作り出せることもできるかもしれないが、無惨にコボルトに殺された馬達のことを思い出してしばらくは忘れられそうに無かった。そこでレアは広大な草原を見てある決心を抱く。


平坦な道のりが続く場所ならば事故を起こす可能性も低く、それに夜でも移動できる乗り物となるとレアの心当たりは一つしかない。上手く成功するかは賭けになるが、レアは荷物の中から最適な道具を探す。



「よし、これでいいか」



収納魔法を発動させてレアが取り出したのは狙撃銃の「弾丸」であり、こちらは新しく制作した「弾倉」に入っていた代物だった。スナイパーライフルが弾切れを起こした時に備えてレアは適当な道具を利用して弾倉の予備を作り出し、その中に補充されていた弾丸を一発抜き取って解析を発動させた。



『弾丸――スナイパーライフルの弾丸 状態:普通』

「これをこうして……どうだ!?」

『車両――超大型のキャンピングカー 状態:新型』



適当な文章に改竄した後にレアは弾丸を地面に放り投げると、これまで一番の輝きと形の変形を行う。やがてレア達の前に出現したのは大型のキャンピングカーだった。唐突に現れた巨大な金属の塊にリリスは度肝を抜く。



「うわ、何ですかこれはっ!?」

「自動車……と言っても分からないかな?」

「え、自動車?それってもしかして鉄で作り上げられた乗り物のことですか?」

「え?知ってるの!?」

「噂だけは聞いたことがありますよ。だけどこの地方では流通していない乗物ですから私も見るのは初めてですが……」



リリスによれば「自動車」という名前の乗り物はこの世界にもあるらしいが、帝国では造られていない乗り物らしく、彼女も見たことはないという。レアは自動車を作れるだけの科学力がこの世界にもあることに驚くが、それならば自動車に乗ってるところを他の人間に見られても怪しまれることはないと安堵する。



「よし、じゃあ乗ってみようか」

「あ、じゃあ……お邪魔しま~す」



扉には鍵の類は掛けられておらず、リリスを中に入れるとレアは内部を確認して十分に過ごし易い環境である事を確認する。毛布付きの寝台も存在し、キッチンや冷蔵庫、果てにはトイレとシャワーまで完備されていた。ご丁寧にも充電もガソリンも満タンの状態だった。


車内は二人で過ごすには十分なスペースであり、馬車よりも快適に過ごせるのは間違いないが肝心な運転の方法を調べなければならない。レアは運転席に乗り込むと、リリスは珍しそうにあちこち置かれている器具を確認する。



「うわ、凄いですねこの中……ちょっとした家じゃないですか」

「俺も驚いてるよ……さてと、どう動かせばいいのやら」

「え!?これ本当に動くんですか!?」



運転席に座ったレアはシートベルトを装着してハンドルを握る。ここからが重要であり、自分が本当に車を運転出来るのか不安を抱く。



「さてと……ここからどうやって動かすんだろう」

「え?レアさんは自動車を運転するんですか?」

「乗ったのは初めてじゃないけど、自分で運転したことはないよ……ちょっと待っててね」



運転席に乗り込んだレアはハンドルとブレーキ、更にアクセルやハンドブレーキの類を確かめ、まずはエンジンを発動させる。既に鍵穴には車の鍵が差し込まれており、一先ずはエンジンを掛ける事には成功する。



「よし……後はハンドブレーキを外して……うわっ!?」

「あ、動き出しましたね」



慣れない車の操作に戸惑いながらも自動車が動き出し、障害物が少ない草原で会った事が幸いし、レアは戸惑いながらもハンドルを操作してまずは操作に慣れる。まさか異世界で無免許運転を体験する日が訪れるとは予測できず、しばらくの間は車の停止方法が分からずに草原を走り回っていたが、何とか手探りで停止方法に気付くと車体を停車させることに成功した。



「ふうっ、何とか止まった。一応は発進と停止の方法は分かったけど、ここが草原じゃなかったら絶対に事故になっていたな」

「良く分かりませんけど、何だか面白そうですね。私にも運転させてくれませんか?」

「え?いや、けど……」

「大丈夫ですよ。さっきのレアさんの手順は見ていましたから」

「……まあ、そこまで言うのなら」



リリスの提案にレアは半信半疑で彼女に運転席を譲り、一応は周囲には障害物になりそうな物はない事を確かめてから彼女を運転席に座らせる。宣言通りにレアの運転を観察して運転の手順は覚えたらしく、即座にエンジンをかけて車を動かす。



「おっ、おっ……これは面白いですね!!簡単に動きますよっ!!」

「えっ……」

「なるほど、こうやって速度を加速させたり、減速する事が出来るんですね。あ、こうすれば後ろにも移動できますよ!!」

「そ、そうだね」



あっさりとレアが手探りで発見した車の発進と停止の方法を実行し、更に彼がまだ試していないバック走行まで実行する。現実世界の人間のレアよりも簡単に車の操作方法を掴んだ彼女は嬉しそうに自動車を発進させる。



「あ、見てください!!なんか前の硝子に取り付けられている黒いのが動き出しましたよ!!あ、ここを押したら扉の鍵がかかったみたいです!!」

「へ、へえっ……そうなんだ」



次々と車の機能を操作するリリスにレアは引き攣った笑みを浮かべるしかなく、仕方ないので運転は彼女に任せて自分は大人しく寝台の方に移動して身体を休ませる事にした。

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