第16話 ゴブリンメイジ

(拳銃の弾が効かない!?こいつもあの化物と同じなのか!?)



レアは屋根の上に立つゴブリンに解析を発動させてステータス画面をを確認する。すると予想通りに昨日に倒した「ホブゴブリン」と同様に普通のゴブリンではない事が発覚した。




――ゴブリンメイジ――


種族:ゴブリン(亜種)


性別:雌


状態:飢餓


能力:火属性――火属性の魔法に適応

   悪食――口にした物を全て栄養として取り込む



――――――――――




ホブゴブリンは「上位種」と表示されていたが、こちらのゴブリンメイジは「亜種」と表示されていることからホブゴブリンとは違う生物だと確定する。問題なのは能力の項目に記されている「火属性」であり、説明文によれば魔物でありながら魔法の力を使えるらしい。


魔法がこの世界に存在することは召喚された日にバルトやダマランが使用する姿を見たことはあるが、まさか魔物まで魔法が使えるとは夢にも思わなかった。ゴブリンメイジは杖を構えて執拗にレアに火球を繰り出そうとした。



「マギィイイ……!!」

「……もう終わりだ」



ゴブリンメイジが次の火球を放つ前にレアは視界に表示された画面に指を向け、状態の項目を「死亡」と書き換えた。その直後にゴブリンメイジは糸が切れた人形のように倒れ込み、屋根の上から落ちてきた。レアはゴブリンメイジに近付いて死んでいることを確認する。



「死んだか……ん?この杖は何だろう?」



落ちた際にゴブリンメイジが手にしていた杖が折れてしまい、先端部に取り付けられていた赤色の宝石がレアの元に転がり込む。気になったレアは解析の能力を発動させた。



『魔石――火属性の魔力を宿す鉱石 状態:魔力残量(小)』

「魔石?魔力?よく分からないけど、この魔石と杖を使って魔法を使ってたのか?杖の方はもう壊れてるけど……」



落ちた拍子に折れた杖は使い物にはならず、レアは魔石という名前の宝石に視線を向け、とりあえずは貰っておくことにした。そして改めて焼死体の元へ戻り、両手を組んで祈りを捧げる。焼死体となった以上は運び出すこともできず、装備品も焼けてしまったので残念ながら死体は放置するしかなかった。



「お~いっ!!誰か居ませんかっ!?」



他に生きている人間がいるのならば今度こそ助けたいと思ったレアは、危険を承知で大声を上げて生きている人間を探す。当然だが周囲に存在するゴブリンが彼の声を耳にして現れる可能性もあるが、もうこれ以上に人の死体を見たない彼は必死に生存者に呼びかける。



「誰かぁっ!!返事をして下さいっ!!俺は人間ですっ!!」



叫び声を上げながらレアは歩き回り、街道を走り続けると彼の耳元に人間らしき声が聞こえてきた。




――だれ……けてぇっ……!!




間違いなく、人間の女性らしき声が彼の耳に届き、即座にレアは声のした方角に走り出す。今度こそ生きた人間と遭遇するため、そして危機的状況に陥っていたら助け出すため、彼は急いで駆け抜ける。


声が聞えた方角にレアは全速力で駆け抜けると、金髪の女性が大柄のゴブリンに襲われており、即座にレアは女性を襲っているのが「ホブゴブリン」だと気付く。



「いやぁあああっ!!私の貞操がゴブリンなんかに奪われちゃいますぅっ!?」

「グギィイイッ!!」



レアはホブゴブリンの注意を引くために拳銃を空へ向けて発砲した。すると発砲音を耳にしたホブゴブリンは驚いた表情でレアの方に顔を向け、そんなホブゴブリンにレアは日本刀を構える。



「この化物!!その人から離れろっ!!」

「グギィッ!?」

「えっ……!?」



レアの存在に気付いたホブゴブリンは女性から退き、傍に置いていた棍棒を取り出す。ホブゴブリンが武器を持っていることにレアは驚くが、既に彼は解析を発動してホブゴブリンのステータス画面を開いていた。



「終わりだ」

「グギャアッ!?」

「わっ!?な、何ですか急に!?」



ホブゴブリンが襲い掛かる前にレアは状態の項目を「死亡」に書き換え、心臓発作でも起こしたかのようにホブゴブリンは倒れて動かなくなった。女性は何が起きたのか訳が分からなかったが、レアは今回は助けられたことに安堵する。



「ひいいっ!!助かりました、貴方は命の恩人です!!」

「うわっ……も、もう大丈夫ですよ」



自分の腰に抱き着いてきた女性にレアは安心させ、久しぶりに生きた人間と会話できたことで心も落ち着き、女性を立ち上がらせる。



「大丈夫ですか?」

「あ、はい……いきなり抱きついてすいません、本当に助かりました」



女性の方も冷静さを取り戻したのか自分を助けてくれたレアに頭を下げ、まずはお互いの事情を聞く前に場所の移動を行う。騒動を聞きつけて他の魔物が訪れる前に避難する必要があり、レアは女性を連れて教会に向かう。



「こっちに来てください。魔物が襲ってこない安全な場所がありますから」

「本当ですか?それは助かります……あ、でも実は私の他に何人か仲間がいるんですけど……」

「えっと……ここに訪れるまでに4人の死体を発見しました。多分、それが……」

「ああ……やっぱり、私以外は皆死んじゃったんですね」



レアの言葉を聞いた女性は軽くため息を吐き出し、あまり悲しそうな雰囲気ではない彼女にレアは違和感を覚えるが、一応はお互いの軽い自己紹介を行う。



「俺の名前はレアです」

「あ、私は……リリスと言います。先ほどは助けてくれてありがとうございました」



リリスと名乗る女性は正確には「少女」という表現が正しく、年齢に関してはレアよりも1、2歳年上の年齢に見えた。金髪の髪の毛を腰元まで伸ばしており、エメラルドを想像させる眼に端正な顔立ちの少女だった。体型に関しては全体的に痩せており、無駄な肉は一切ないスレンダーな体付きだった。


レアが気になったのはリリスの格好であり、彼女は白色のローブと白色の水晶玉のような物体が取り付けられた杖を握りしめていた。水晶玉に関しては先ほどレアが遭遇したゴブリンメイジが持っていた「魔石」と呼ばれる物体と似通っており、本人に尋ねてみる。



「あの……それは何ですか?」

「え?どれですか?」

「その持っている杖に付いている宝石みたいの……」

「え?これの事ですか?これは聖属性の魔石ですよ……え、もしかして知らないんですか?」



レアの質問にリリスは首を傾げ、彼女の反応か察するに「魔石」とはこちらの世界の人間ならば誰もが知っている存在である可能性が高く、適当に言い訳を行う。



「えっと……すいません。俺、実はこの街に訪れる前の記憶が曖昧なんです。記憶喪失……かもしれません」

「記憶喪失?大丈夫なんですか?」

「はい……多分、ここに来る前に頭を打ったと思うんです。傷は治ったんですけど……」

「そうなんですか……まあ、それなら納得です。魔石を知らない人間がいるはずないですもんね」



我ながら苦しい言い訳だとレアは思ったが、リリスはあっさりと納得したように頷き、上手く誤魔化せたことに安堵する。質問のついでに彼女から色々と尋ねる。



「魔石というのは何ですか?確か……魔法を補助する効果がある道具でしたっけ?」

「そうですね。概ねはその認識で間違いではないです。正確には威力の強化以外に魔力の消費を抑えたり、種類によっては所持しているだけで魔力を回復させる効果がある物も存在しますよ」

「へえ……」

「私は治癒魔導士なので聖属性の魔石しか扱えませんけど、これを使えば回復魔法を扱えますよ。まあ、今は魔力切れで使えないんですけど……」

「治癒魔導士?」

「回復や浄化に特化した魔法使いです。最もレベル10の私だと初級の回復魔法しか扱えないんですけど……」

「そうなんですか……あの、もしかして回復魔法は治癒魔導士しか覚えられないんですか?」

「そうですよ?普通の魔術師はそもそも回復魔法を覚えられませんが……」



リリスの説明を聞きながらレアはこの世界の魔法の知識を初めて知っていく。




※魔術師は覚える魔法の数が多く、魔導士は扱える魔法の効果が高いです。

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