第15話 ゴブリンの魔法使い

「離れろっ!!」

「イギャッ!?」

「ギィッ!?」



男性の死体に喰らい付くゴブリンにレアは拳銃を発砲し、次々とゴブリンを撃ち抜く。弾丸を撃ち尽くすと日本刀を抜いてゴブリン達に切りかかる。



「うおおっ!!」

「ギャアッ!?」

「ギャウッ!?」



怒りのままにレアは剣を振り払い、ゴブリンを切りつけていく。思いもよらぬ攻撃を受けたゴブリンの群れは慌てて逃げ出し、それを見送ったレアは男性の死体に近付いて膝を付く。



「ごめんなさい……助けられなくて」



死んでしまった男性にレアは謝罪し、拳を地面に叩きつける。もう少し早く行動していれば助けられた可能性があっただけに悔しく思う。死亡した男性は放っておいたら死肉や血の臭いを嗅ぎつけて再びゴブリンの大群が現れる可能性があり、せめて死体とはいえ教会に運び出そうとした時に違和感を抱く。。


死体にはゴブリンに噛みつかれた跡だけではなく、火傷と思われる傷跡が残っていた。しかも火傷は熱がこもっていることから最近に傷を負ったとしか考えられない。



「この火傷の跡は……そもそもこの人は何者なんだろう?」



男性は鎧を着こんではいるがレアが召喚された「バルカン帝国」の兵士や将軍が着用していた鎧とは種類が異なり、こちらの男性の鎧は青銅で構成されていた。武器は身に付けておらず、ゴブリンから逃げる際に落としてしまったと思われた。



「これは……財布かな?」



男性の腰に括り付けられた巾着袋を発見し、中身を確認するとレアが教会で発見した「銅貨」と同じ物がいくつか入っていた。他にも鉄製の硬貨も入っており、銅貨の時と同じく見た事もない人物の顔が刻まれていた。



「とりあえず、ここに置いていこう……」



レアは死体から荷物を漁ることに抵抗感を抱き、男性の死体は一旦教会の敷地に移動させた。時間があれば埋葬してやりたいと思うが、気になることがあった。



「もしかしたら他の人間も居るかも知れない。探してみよう」



この男性が単独で廃墟に入り込んだとは限らず、他にも人間が街にいるかもしれないと思ってレアは出かける準備を行う。教会に戻って予備の弾丸を補充すると出発した――






――レアは男性が逃げてきた方向に向かって移動すると、焦げ臭い臭いを嗅ぎつける。臭いを辿って移動すると街道に人間の死体らしき物体を発見した。こちらの死体は全身が焼け焦げており、数は三つ存在した。死体には黒煙が舞い上がっていることから殺されてからそれほど時間は立ってないと思われた。



「い、いったい誰がこんな酷いことを……」



ゴブリンが死体を焼いたとは考えにくく、わざわざ餌となる人間の死体をゴブリンが焼却するとは考えにくい。レアは死体の様子を確認し、人間の肉が焼けた臭いに顔を顰めながらも何か手掛かりが残されていないのかを調べる。



「ん?これはこの人たちの物か?」



死体の傍に武器らしき物が落ちている事に気付き、レアは元は男性と思われる死体の傍に落ちていた短剣を拾い上げる。普通の短剣ではないのか、刃の部分には紫色の液体が塗り付けられており、下手に触れるのは危険と判断した彼は柄の部分を握りしめながら刃を観察する。



「そうだ、解析を使えば分かるかも」

『短剣――鉄製の短剣 状態:血液付着』

「血液?これが?」



紫色の液体の正体が「血液」だと判明した事でレアは驚きを隠せず、どう見ても人間の血液とは思えないが解析の説明文では血液と表示されていた。考えられる事は人間ではない生物の血液、即ち魔物の血だと思われた。


念のために短剣を回収するとレアは周囲を警戒しながらも他の死体を調べる。だが、生憎と短剣以外には特にめぼしい物は存在せず、仕方ないので死体に両手を合わせて引き返す事にした。今回は死体を持ち運ぶ余裕はなく、一先ずは避難を優先する。



「この短剣は持っていこう。何かに使えるかもしれないし……」



死体の所有物を勝手に持っていく事に罪悪感は覚えたが、どしても短剣に付着した血液が気にかかり、レアはその場を離れようとした時に奇怪な鳴き声が響き渡る。




――ウギィイイイイッ!!




ホブゴブリンと似たような声音の咆哮が左側の建物から放たれ、同時に謎の熱風がレアの身体に襲い掛かる。驚いた彼は視線を向けると、そこには自分に向けて近付いてくる球体状の炎の塊が近づいてくる事に気付く。



「うわぁっ!?」



自分に近付いてくる30センチ程の「火球」に対し、咄嗟にレアは横に移動して回避する。速度自体は時速100キロ程度であり、身体能力が大幅に上昇している彼にとっては避けられない速度ではないが、避けた先にも別の火球が接近していた。



「何なんだよっ!?」



複数の火球がレアの元に放たれ、彼はその場を飛んで地面に転がり込みながら回避を行うと、爆発音が次々と響き渡る。回避した火球が次々と別の建物や地面に衝突した瞬間に爆発したらしく、慌ててレアは火球が放たれた方向に視線を向けると、そこには廃墟の屋根の上からレアを見下ろす存在が居た。



「ウギギギッ……!!」

「な、何だこいつ!?」



屋根の上に存在したのは灰色のローブを着こんだゴブリンが存在し、その手元には赤色の宝石を取り付けた杖が握りしめられていた。身に纏っているローブは元々は人間の物だったのか、身長が小さいゴブリンとはサイズが合っていない。



「ウギィイイッ!!」

「うわっ!?」



唐突に現れたゴブリンは杖を掲げた瞬間、杖の先端の宝石が光り輝き、次々と小さな炎の塊が生み出される。その光景を確認したレアは先ほどから攻撃をしていたのは屋根の上のゴブリンだと気づき、それを見たレアは拳銃を構える。



「この野郎っ!!」

「ギィアッ!?」



相手が「火球」を放つ前に拳銃を連発し、一発だけゴブリンの右足に的中した。だが、ホブゴブリンと同様に普通のゴブリンよりも頑丈な肉体を持つのか、ローブを纏ったゴブリンに致命傷は与えられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る