第14話 過酷な現実
――ホブゴブリンを倒してから翌日の朝、目覚めたレアはため息を吐き出す。目を覚ませば元の世界に帰っているのではないかと期待したが、残念ながら現実は甘くなかった。
「はあっ、やっぱり夢じゃないのか……まあいい、落ち込んでいても仕方ない」
気を取り直してレアはステータス画面を開き、ホブゴブリンを倒したことで自分のレベルが上がっているのかを確認する。昨日は教会に戻るのに必死で確認する暇もなかったが、予想通りにレベルは上昇していた。
――霧崎レア――
職業:無し
性別:男性
レベル:15
SP:5
――能力値――
体力:104
筋力:104
魔力:15
――技能――
翻訳――この世界の言語・文章を日本語に変換し、全て理解できる
脱出――肉体が拘束された状態から抜け出す
解析――対象が生物ならばステータス画面、物体の場合は詳細を確認できる
苦痛耐性――肉体の苦痛に対する耐性を得られる
超回復――肉体の回復能力が強化される
――異能――
文字変換――あらゆる文字を変換できる。文字の追加、削除は行えない
――――――――
「よし、上がった!!しかも一気に5レベルも上昇してる!!」
ゴブリンの上位種であるホブゴブリンを倒したことでレベルが大幅に上昇しており、あと1レベル上げればSPを消費して新たな技能が習得できる。技能の中には戦闘に役立ちそうな物もいくつかあり、それらを覚えれば今後の魔物狩りも捗る。
(レベルを上げても能力値はやっぱり1ずつしか上がってないな……まあいい、嘆いていても仕方ないか)
昨日までのレアならば能力値の上昇率に不満を抱いていたかもしれないが、文字変換の能力を使いこなしていくうちに焦りも抱かなくなる。ホブゴブリンのような化物が相手でも自分の能力が通じたことに自信を抱く。
(それにしても昨日は本当にやばかったな。拳銃が効かない魔物もいると分かった以上、今の武器だけじゃ不安だな)
ホブゴブリンには拳銃の弾丸は殆ど通じず、もしも同じような化物に遭遇した場合に備えてレアは新しい武器を制作することにした。
「マシンガンとかライフルとか作れるかな?それともダイナマイトとか……いや、どれも素人が扱える代物じゃないよな」
拳銃に関してもレアは完璧に使いこなしているとはいえず、そもそも銃器の類は弾丸をいちいち作り出さなければならないのが面倒だった。爆発物の類も下手に扱うと自爆の恐れもあり、それを考えると気軽に近代兵器は作れない。そもそも武器を作り出すにしても同じ文字数の道具を見つけ出さなければならない。
今のレアの手持ちの武器は「日本刀」「拳銃」の二つだけであり、どちらも完璧に使いこなしているとはいえない。だが、未収得の技能の中にこの二つの武器を扱う際に役立つと思われる能力に目星があった。
『剣術――刀剣を扱う技術の向上』
『命中――標的に確実に命中させる』
「この二つを覚えられれば強くなれるかも……でも、SPが足りないんだよな」
既にレアは五つの技能を習得しており、新しい技能を習得する度に消費するSPが増えていた。今の流れだと二つの技能を覚えるためにはレベルを「23」まで上げなければならないが、昨日はレベル10に上がってからゴブリンを数匹ほど倒したがレベルは上がらなかった。
恐らくはゲームのように魔物を倒せばレベルが上がるのは間違いないが、ゴブリン程度の相手では倒しても碌な経験値は手に入らない。ホブゴブリンのような強い魔物を積極的に狙って倒していけばレベルの上昇率も高まるが、ホブゴブリンとまた遭遇した場合、今度こそ殺される可能性もあった。
(あんな化物とはできれば二度と戦いたくはないな……)
色々と面倒になったレアは難しく考えるのを止め、文字変換の能力で適当な乗り物を作り出して街からの脱出を考える。
「自動車やバイクは運転できる自信はないし、自転車は乗り慣れてるけど流石に体力がきつそうだし……スクーターならそんなに運転も難しくなさそうだし、何とかなるかもしれない」
レアは街から脱出するために必要な道具を探しに行こうと教会を出ると、何処からか悲鳴が響き渡る。
――ぎゃあああああっ!!
悲鳴を耳にしたレアは間違いなく人間の男性の声だと気が付き、この街に転移してから初めて聞いた人間の声にレアは驚愕した。悲鳴が聞こえた方角に視線を向けると、教会に向かって誰かが走ってきた。
教会に向かってくる人間の正体は青色の鎧を装備した青年であり、彼の背後にはゴブリンの大群が迫っていた。レアは魔物に追われる青年を見て呆気に取られるが、ようやく会えた人間を見捨てる訳にはいかずに拳銃を抜いて駆け出す。
「早くこっちに!!」
「た、助け……うわあああっ!!」
「ギギィッ!!」
「ギィイッ!!」
青年もレアに気が付いて助けを求めるが、体力の限界を迎えたのか途中で転んでしまい、即座に大量のゴブリンが群がる。ゴブリンの群れは青年を押し倒すと一斉に噛みつき、それを見たレアは助けようとしたが間に合わなかった。
「あがぁああああっ……!?」
青年の断末魔の悲鳴が虚しく響き渡り、生きたままゴブリンに喰われる彼の姿を見てレアは愕然とした。ようやく見つけた人間が目の前で無惨に食い殺される光景にレアは何もできなかった。
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