第13話 ホブゴブリン
街道に散らばる死骸に喰らいつく化物は見た目はゴブリンと似ていたが、これまでレアが遭遇したどのゴブリンよりも巨体で恐ろしい風貌をしていた。体長は2メートル近く有り、筋骨隆々とした体型で血走った目をしていた。
(な、何だあいつ!?どう見ても普通のゴブリンじゃないぞ!!)
声を漏らさないように気を付けながらレアは解析を発動させ、巨漢のゴブリンの正体を探る。そして視界に表示された画面を見て戦慄した。。
――ホブゴブリン――
種族:ゴブリン(上位種)
性別:雄
状態:飢餓
能力:悪食――口にした物を全て栄養として取り込む
超回復――肉体の回復能力が強化される
――――――――
化物の正体が「ホブゴブリン」と呼ばれる魔物だと判明し、種族に記されている「上位種」という文字を見てレアは冷や汗を流す。昼間に遭遇したゴブリンは「通常種」と表示されていたはずであり、恐らくはホブゴブリンは通常種よりも厄介な存在なのは間違いなかった。
通常種のゴブリンの倍近くの身長とプロレスラーを思わせる体躯を誇り、何故か同族であるはずのゴブリンの死骸を黙々と口にしていた。レアはホブゴブリンに気付かれる前に逃げようとしたが、唐突にホブゴブリンは鼻を鳴らす。
「グギィッ……!?」
「っ……!?」
ホブゴブリンはゴブリンよりも嗅覚も優れているのか、臭いを嗅ぎつけて振り返った。見つかってしまったレアは身体を硬直させ、ホブゴブリンは醜悪な笑みを浮かべて雄たけびを上げる。
「グギィイイイッ!!」
「嘘だろおいっ!?」
ホブゴブリンに見つかったレアは反射的に駆け出そうとしたが、ホブゴブリンはその場を跳躍するとレアの身体を跳び越えて彼の逃げ道を塞ぐ。
「グギャッ!!」
「うわっ!?」
巨体でありながら通常種のゴブリンを遥かに上回る運動能力でホブゴブリンは先回りし、まるで人間のように小馬鹿にした笑みを浮かべる。そのホブゴブリンの態度にレアは苛立ち、ホルスターに収納していた拳銃を抜いた。
「く、喰らえっ!!」
「グギィッ!?」
レアが拳銃を構えた瞬間、ホブゴブリンは本能で危険を察知したのか顔面を両腕で庇う。拳銃の発砲音が街中に響き渡り、全ての弾丸はホブゴブリンの肉体に確かに当たった。だが、全ての弾丸を撃ち尽くしたというのにホブゴブリンは倒れなかった。
「そ、そんな……」
「グギギギッ……!!」
ホブゴブリンに当たったはずの弾丸は皮膚に食い込んだが貫通には至らず、大した損傷を与えられないどころかホブゴブリンを怒らせる始末だった。まるで鋼鉄並の頑強な肉体にレアは心底恐怖した。
通常種のゴブリンならば拳銃でも急所を捉えれば倒すことはできたが、上位種のホブゴブリンには通じないことにレアは絶望する。まだ日本刀はあるが弾丸も通じない相手に刃物など通用するとは思えず、ゆっくりと後退る。
(拳銃が効かないなんて……いや、落ち着け!!こいつのステータス画面を改竄すればいいだけだ!!)
拳銃が通じないのであればステータス画面に表示された状態の項目を「死亡」に書き換えればいいだけの話であり、この方法ならば如何に化物であろうと確実に殺せるはずだった。レアは解析を再度発動してホブゴブリンのステータス画面を開こうとした時、背後からゴブリンの鳴き声が響く。
「ギギィッ!!」
「うわっ!?」
先ほどの拳銃の発砲音を聞いて駆けつけてきたのか、いつの間にかホブゴブリンだけではなくゴブリンも接近していた。ゴブリンはレアの背中に飛び掛かり、地面に押し倒す。
「ギィイッ!!」
「ぐえっ!?くそ、離せっ!?」
「グギギッ……」
ゴブリンに押し倒されたレアを見てホブゴブリンは鼻を鳴らし、そのまま彼の頭を踏み潰そうと足を上げる。このままでは殺されると思ったレアは隠し持っていた電灯を取り出し、自分を押し倒したゴブリンの顔面に光を当てる。
「喰らえっ!!」
「ギャアアッ!?」
「グギィッ!?」
暗闇の中でいきなり強い光を浴びたゴブリンは悲鳴をあげ、レアの背中から転げ落ちた。その隙を逃さずにレアは起き上がると、ホブゴブリンは誤って転倒したゴブリンを踏み潰す。
「ギィアアッ!?」
「グギィイッ……」
「はあっ、はあっ……舐めんなよ!!」
奇策で窮地を脱したレアは今度こそホブゴブリンのステータス画面を開き、状態の項目を「死亡」へと書き換えようとした。だが、ホブゴブリンはレアの不審な行動を目にして警戒したのか彼の身体を掴み取る。
「グギギィッ!!」
「ぐあああっ!?」
ホブゴブリンに胴体を掴まれたレアは万力のような握力で握りしめられ、意識が飛びそうになった。しかし、既に彼の指先はステータス画面に触れており、ホブゴブリンに絞殺される前に画面が更新された。その直後、ホブゴブリンの瞳から生気が失われ、レアを掴んでいた腕から力が抜ける。
間一髪でホブゴブリンから解放されたレアは地面に寝転がり、心臓の鼓動が収まらない。危うく死にかけたことに恐怖する一方、こんな化物を倒したことに興奮していた。
「は、ははっ……ざまあみろ」
緊張の糸が切れてレアはしばらく動けなかったが、勝利の余韻に浸る。この世界に来てから初めてレアは充実感を得ていた――
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