第10話 拳銃
「やっと落ち着いたな……でも、これからどうしよう」
文字変換と解析の能力を上手く活用すれば食料と水は確保できたが、他にも問題は山積みである。まずは魔物に襲われた場合に備えて身を守る武器や防具を入手する必要があり、こちらも食料と同様に文字変換の能力を利用すれば制作できると思われた。
一番の問題はレアは自分が何処に居るのかも分からないという状況であり、この世界に召喚されたばかりのレアは地理も理解できていない。もしかしたらレアが召喚された帝都から世界の反対側に転移した可能性もある。
「一先ずはここから抜け出す方法を考えないと……まずは使えそうな道具を色々と探してみるか」
当面の目標はゴブリンが巣食う街からの脱出であり、こちらの教会に誰かが暮らしていた痕跡が残っていたことから希望はあった。教会内を探索してレアは色々な道具を集めて広間に戻る。道具の中には刃が錆び付いた短剣も含まれていた。
「刃物が見つかったのは良かったけど、この刃じゃ役に立ちそうにないな……」
『ナイフ――鉄製の短剣 状態:劣化』
文字変換の能力を利用すれば錆びを落とすこともできそうだが、不意にレアはあることを思いつく。実際にできるかどうか試すために文章を書き替える。
「えっと、三文字だから……これでどうかな」
『日本刀――金属製の刀 状態:名刀』
文字数と文章に気を付けながらレアは文字変換の能力を発動させると、短剣が光り輝いて一瞬にして本物の日本刀へと変化した。
「うわっ!?ほ、本当に日本刀に変わった……ご丁寧に鞘まで装着してある」
短剣を日本刀に変化させたレアは鞘から抜き放ち、その場で素振りを行う。筋力の数値を上げていたお陰か思っていたよりも重く感じなかった。
「せいっ!!はあっ!!」
日本刀を振り回しながらレアは周囲を見渡し、適当な大きさの椅子に目掛けて振り下ろす。状態の項目に「名刀」と書き込んでいたお陰か、日本刀の切れ味は凄まじく椅子を一刀両断した。
「うわっ!?なんだこの切れ味!?」
自分が仕出かした事とはいえ、真っ二つに切れた椅子を見てレアは冷や汗を流す。確かに冗談半分で状態の項目に「名刀」と記したが、いくらなんでも切れ味が凄すぎた。
色々と考えた結果、レアは日本刀を鞘に納めて別の武器も作り出すことにした。解析と文字変換の能力を扱えば大抵の物は作り出せるため、今度は遠距離から攻撃ができる武器を考える。
「拳銃とか作り出せないかな……そもそもこの世界に銃が存在するのかは分からないけど」
本物の拳銃を扱った事はないが、もしも作り出せれば日本刀よりも心強い味方になる。レアは拳銃を作り出すために集めた道具の中か適当な物を選ぶ。
「お、これがいいかも」
レアが選んだのはこの世界の通貨と思われる「銅貨」だった。この銅貨は落ちていたのを偶然拾った物であり、恐らくは先住者の落とし物だと思われた。銅貨の表面には見たこともない老人の顔が刻まれており、価値はどれくらいなのかは不明だがとりあえずは銅貨を利用して武器を作り出す。
『銅貨――銅製の通貨 状態:普通』
「ちょっと勿体ない気がするけど、まだ何枚か余ってるしな。一枚ぐらいはいいかな……」
銅貨の詳細画面にレアは指先を構え、文字変換の能力を発動させて説明文を改竄した。
『拳銃――ハンドガン 状態:新品』
「どうだっ!?」
説明文に具体的な拳銃の種類(?)を書き込むと、成功したのかレアの手元に存在した銅貨が光り輝き、やがてリボルバー式の拳銃が手元に現れる。
「おおっ、成功した!?」
拳銃に作り替えるのは成功し、弾丸もちゃんと装填されていた。本物の拳銃を手にするのは初めてなのでレアは緊張しながらも、魔物との戦闘に利用できるか確かめるために試し撃ちする必要があった――
――拳銃の発砲音を聞きつけてゴブリンが駆けつける事態を想定し、教会は安全だとは思うが一応は用心して別の場所に移動して実験を行うことにした。
「これぐらい離れれば大丈夫かな……」
教会から50メートル程離れた廃墟に移動したレアは周囲を確認し、ゴブリンがいないことを確かめる。幸運なことにここまでの道中でゴブリンと遭遇することはなく、遂に拳銃を撃つ準備を整える。安全装置を外した後、引金に指を構える。
「的はどうしようかな……あ、あれにするか」
拳銃の試し撃ちのためにレアは廃墟の中に置かれていた大きな鏡を見つける。鏡に映し出された自分自身を的にするために拳銃を構えた
「鏡の自分を撃つなんて変な気分だな……」
震える腕で拳銃を構えたレアは鏡に狙いを定め、最初は5メートル程離れた位置で拳銃を向ける。銃の反動はどの程度なのか確かめる必要があり、外れても構わないので彼は発砲する。
「ここっ!!」
狙いを定めて銃を発砲した瞬間、彼の身体に軽い衝撃が走り、鏡に亀裂が走った。拳銃の弾丸は鏡に映し出されたレアの頭の上に命中し、狙いは外れたが鏡を割ることには成功した。
「おっ、おおっ……思ったよりもすんなり撃てたな。筋力を強化していたお陰かな?」
能力値を上昇していたお陰なのか予想に反して銃の反動による影響は感じず、エアガンを撃ちこむのとさほど変わらなかった。但し、エアガンと違って本物の拳銃は発砲音が大きすぎるのが難点だが、狙い通りに弾丸を当てれるようになればゴブリンとの戦闘でも役立ちそうだった。
拳銃に装填されていた弾丸の数は六発であり、その内の一発はもう使ってしまった。新しい弾丸を補充する場合は文字変換の能力で造り出さなればならない。
「この弾丸は解析できるのかな?」
『弾丸――ハンドガン専用の銃弾 状態:普通』
「お、できた」
拳銃と弾丸は別物として扱われるらしく、弾倉から取り出した弾丸は解析の能力で詳細画面を開くことができた。取り出した弾丸を見てレアはあることを思いつく。
「待てよ?そういえば一度文字変換した文章はもう書き換えることはできないけど、この弾丸はどうなんだ?」
拳銃自体は銅貨を変換させた物であるため、もう文字変換の能力は通じない。だが、拳銃に変異した際に装填されていた弾丸は拳銃とは別物として取り扱われるのか確かめようとした時、廃墟の外からゴブリンの鳴き声が響く。
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