第4話 〜人間が馳せる想い〜

 「一体、私はどこに向かってるんだ??」

 「あれ? コロ起きたの? 今からちょっと病院に行くからじっとしててね」

 子分だけではなく、ご主人達も一緒のようだった。


 どこかに到着したようだ。

 私はカゴから出され、二人の知らない人間に体のあちこちをさわられた。

 普段ご主人達や子分が私を触るような感じではなく、私の体の隅々を触り異常がないか確認しているような感じだった。


 「いい子だ! 偉いぞ。もう少しじっとしててくれよ?」

 私の体にかすかな痛みが走った。しかし、すぐにその痛みは引いていった。


 「よし! これでとりあえずは終わりだ。頑張ったな」

 先程とは違った触り方で、私は人間に撫でられた。


 再びカゴの中に私は入り、大人しく待つことに。

 隣ではご主人達と子分、そして先程の人間が何やら話しているようだった。


 話が終わったのか子分が私のカゴを持って再び車に乗って移動して家に帰った。

 「お家に到着したよコロ! 出ておいで」

 カゴのドアが開かれやっと落ち着いく事が出来た。伸びをしながら私は欠伸をした。


 私は食事もしないで横になり眠りについた。



 ドカッ!!


 痛い……お腹に突然鈍い痛みが走り、痛みで目を覚ました。

 「バカ犬、こんな所で寝てんじゃねえよ!」

 目を開いて見上げると、子分に何かされたようだった。

 さらに子分は足で私の顔面を前蹴りしてきた。


 痛い! 痛いよ……。

 この日から毎日、毎日、人格が変わったかのように子分からいじめられるようになった。


 ご主人達はいつもと変わらない。子分の態度だけが変わってしまった。

 子分は、ご主人達の前では私の事をいじめるような事はしなかった。

 でも二人きりになると私の事を目の敵のようにいじめてくるようになった。


 家に子分が帰ってくると私の事を毎日毎日蹴ったり叩いてきたりした。

 しっぽを持って持ち上げられ、宙ぶらりんにされたりもした。


 「バカ犬! 起きろよ!」

 お腹の辺りを何度も蹴られ、さらにしっぽを持たれた。


 「痛い痛い! しっぽ取れちゃうよ!」

 「うるさいバカ犬!!」

 子分に体を叩かれた。


 「痛い痛い……」

 私は子分の足を噛んだ。子分が手を離す。


 「いったーー! 何すんのよ! このバカ犬!」

 子分が私の顔を強くぶった。


 私は何がどうしたのか? 子分に何があったのか分からなかった……。

 どうして子分が私にこんな事をするのか全く分からなかった……。


 外に連れて行ってくれる事もあったが、いつもと変わってしまった。

 今までの半分以下の距離しか子分は外を連れて行ってくれなかった。


 そして、子分と私が大好きだったボール遊びもしなくなった。

 ボールを持つと子分は、私の体を目掛けて思いっ切り投げてきた。


 私は避けたりするのだが、避けると子分は怒って再びボールを強く私に当ててくるのだった。

 避けると怒るから私は痛いけど我慢してボールに当たる事にした。

 

 「避けんじゃねぇぞ!! コロ!!」


 子分との毎日は突如として、暴力的な日常へと変わっていった。

 若かったら反抗も出来たかもしれないが、今の私には反抗出来る若さと体力がなかった。


 だんだんと起きている時間よりも寝ている時間の方が長くなる日々を私は自覚していく。


 そんな私に腹が立つのか、子分は私をいじめてくる。

 いじめは日に日にエスカレートしていった。



 強い光が突然目に入り、僕は目を覚ました。

 「ん〜眩しいな〜、眠れないよ〜、ここはドコ〜」


 「コロー!! コロー!!」

 僕は誰かに抱きつかれた。一体誰だ? ああ……でも何だか心地よい懐かしい匂いがする。

 僕に抱きつく人間は声を出しながら泣いているようだった。


 何だよ……。

 俺の子分はまた泣いてるのか? しょうがない奴だな。大きくなってもずっと泣き虫だな!

 仕方ないな。俺が元気付けてやるか。

 俺は舌を使って子分の涙を拭った。



 「コロごめんね……いっぱい虐めたから痛かったでしょ? いっぱい虐めたから私の事嫌いになったでしょ? 人間の事を嫌いになったでしょ? いっぱい恨んだでしょ?」


 「だから……だからお願いだから幽霊になって私に会いに来てよ! 化け物でも妖怪でも何だっていい! 私の前に現れてよ! それでずっと私と一緒に居てよコロ!」


 子分はまた何か嫌な事があって泣いてるのだろうか?

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」

 大粒の涙が私の体を濡らす。


 ああ……そうかぁ……優子は私の為に泣いてくれているのか。

 いつも自分の事ばっかで泣いていたあの優子が。


 私の方が、私こそが優子に感謝して泣きたいくらいだ……。


 優子のおかげで私の世界の毎日は、虹色に輝いて見えていたよ……ありが―― 。

 「いやぁぁぁ!! コロ死んじゃいやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 コロは優子の胸の中で息を引き取った。

 優子はしばらくコロを抱いたまま動こうとはしなかった。



 その、優子の前にコロが現れることはなかった。優子は長い間塞ぎ込んでいたけれど、コロとの想い出が消えたわけでは決してない。

 優子の中にコロは生き続けている。コロとの想い出を胸に優子は前を向き始めた。


 高校では優子が部活で目指していた金賞を見事勝ち取る事が出来た。

 そして以前の男とは違って気の優しい男性と、お付き合いもした。


 優子は充実した高校生活を送った。だけど優子がコロを忘れる事は決してなかった。その生活の中に、その隣にはいつもコロが居てほしいと優子は思っていた。



 高校卒業後の優子は、獣医学部に受験をして見事合格、その後は獣医になったという。

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子分と犬と人間と僕 yuraaaaaaa @yuraaaaaaa

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