第5話 ディヴァインドラゴン

 四天王の1人が”神殺し”イスフィート・マウレティーであることが分かった。

 もっとも、エルミードにはそれを踏まえて知りたいことがある。


「貴方ほどの方が、どうしてここにいるのですか?」

 というか、何故わざわざ棺桶の中で誰かを待つ必要があるのかということも含めてツッコミたいことだらけである。


 イスフィートは大仰に腕を組み、エルミードを見下ろす。

「うむ。この任務は、余が出向かなければならない任務であったのでな」

「まあ、そうでしょうね……」

 誰もが出来る簡単な任務なら行かないだろう。

 いや、誰でも出来る任務だから、暇つぶしに棺桶やら雷やら用意している可能性もゼロではないが。


「だが、予想以上の困難な任務であった。さすがの余も苦労している」

「そんなに大変なんですか。一体何なんですか?」

「ディヴァインドラゴンのヘラ」

「ディヴァインドラゴン!?」


 エルミードもその存在は聞いたことがある。

 世界に12体しかいないという神の竜。

 噂によると光速で動くことができ、一回で二回攻撃どころか、一秒間に一億発の攻撃を放つことができるともいう恐るべき存在だ。


「……それがどうかしたのですか?」

「この50年ほど眠っていたらしいが、最近目覚めてヒステリーを起こして暴れている」

「ヒステリー?」

「うむ……」

 イスフィートの秀麗な容貌が歪んだ。

「本人……いや本龍か。本龍に聞く限りだと、50数年前にルドルと婚約したらしい。にも関わらず、目が覚めたらルドルは死んでいたうえに別の女との間に子がいて、孫までいることに怒っているようだ」

「それは……大変ですな」

 聞くだけでも恐ろしそうな情景だ。

 その場にいなくて良かった。エルミードは心底そう思った。

「うむ、ヘラが悔しがって地団太踏むだけでも結構な地震になって、近くの村々が崩れ去り、負傷者が多数発生する。そうしたものの救護にあたるため、余ともう一人の四天王・死神ルヴィナが動いている」

「なるほど」

 エルミードは頷いた。


 救護活動に死神を動員するのはおかしくネ?

 神殺しと死神って仲良くできるのか?


 内心ではそんなことを思ったが、突っ込むのをやめることにした。



「とすると、説得はラドラ様でないと難しいのでしょうか?」

 相手はラドラの祖父の不義に怒っているらしいから、部外者にはどうしようもない。

 ラドラが魅力的かというと、大いに疑問があるが、祖父のことを好きだったのなら、あのパンダのような外見が良いと思うかもしれない。


「そこは何とも言えないが、このままではじり貧だ。現在は2人で何とかしているが、ヘラが長期にわたって暴れ続けると難しくなっていくる。貴公には現状をラドラ閣下に伝え、何とかしてもらいたい」

「何とかですか……」


 できるのか、あいつに?


 という言葉しか浮かばない。


 しかし、ディヴァインドラゴンが本気で暴れ出すと厄介だ。

 王国が滅ぶのは構わないが、そのクラスが暴れ続けると帝国まで滅んでしまう。


(何とかするしかないか……)


 不本意であっても協力するしかない。

 エルミードはそう思った。

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英雄の孫、麿(まろ)につき 川野遥 @kawanohate

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