第4話 神殺しのイスフィート

 雷による煙が完全に晴れた。

 棺の中から出てきた男は身長190半ばくらいだろうか。

 いや、特徴的なターバンの上についている神像で高く見えているようで、本人は180半ばくらいのようである。それでもエルミードよりは10センチ近く高いが。目立つのはその長身とターバンではない。

(何という美男子なのだ)

 男は完璧な美の極致と言ってもよいほどの美男子であった。そこに禍々しさのようなものを感じるほどである。ただし、そう思ったのは登場の仕方の雰囲気によるところもあるのかもしれない。

「貴方が大将軍閣下の四天王ですか?」

 どうにか気を落ち着かせてエルミードが尋ねると、男はまたも低い声で答える。

「いかにも。余こそラドラ様が四天王の1人・イスフィート・マウレティーである」

(イスフィート……? どこかで聞いたような?)

 と少し考えて、驚くべき結論に達し、エルミードは二、三歩後ずさる。

「ま、まさか!? あの、神殺しゴッドスレイヤーのイスフィート……!?」


 エンパイア帝国は技術や科学に対する信奉が深く、神について深く考えることはない。もちろん、王国や教国からやってきた司祭などが神の理を説いていることもあるし、中には信仰に目覚める者もいるが、ごくごく少数派である。

 それゆえ、エルミードも神の教えを真剣に考えたことはない。何となく「良いことがあるといいなぁ」という時に神に助けを求めるくらいだ。

 そんな信仰には薄い意識しかないエルミードでも神殺しの噂は聞いたことがある。


 教国には主神の他、様々なものを司る神がいて、その数は万に及ぶと言う。

 教国の司祭はそうした神の全てを尊重し、信仰を尊ぶはずであるが、イスフィートは何を思ったのか、そのうちの1人を殺してしまい、教国から追われることになったらしい。信仰心の薄いエンパイア帝国でも「神を殺した」とまで行くと、驚きをもって受け止められた。

 それゆえについた称号が『神殺し』である。


(ラドラは神巫女ソフィアと懇意なだけではなく、神殺しを従えているのか? 一体、奴にはどんな力があるというのだ?)


 凄い奴なのかと何とか強そうなものを想像しようとするが、とてもできない。

 何度思い出しても、パンダのような風貌を思い出すだけである。


「いかにも。そのような呼ばれ方は名誉ではないが、この大陸においてそう呼ばれる者は余以外にはいないだろう」

「……一体、何故そのようなことを?」

「三度念話をしても出なかったのだ」

「……はい?」

「余が三度も念話をかけたのに、呼びかけに応えなかったのだ。そんな奴には当然罰を下すべきではないか?」

「……」

 エルミードは思った。

 イスフィート、見た目はとてつもない美形であるが、帝国の若者風に言うならばとんでもない体育系な気質の男らしい。




作者注:大体お気づきかと思いますが、基本的に名前は適当か、作者の別作品からの流用です。ちなみに流用元のイスフィートはここまで体育会系ではありません(笑)

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