第9話 国境にて

 三日後、エルミードの姿はエンパイア帝国との国境に近い辺境の村サイハテにあった。


「おぉ、ラドラ様の近衛隊じゃ!」

「ありがたや、これで我々は救われる……」


 やってきた近衛隊を見た村民達が涙を流しながら、手を合わせている。


(ラドラは頼りにならないのではないか……)


 エルミードはそう思うが、横にサラーヴィーがいるので口には出せない。


「それにしても、何と神々しいお姿じゃ」

 と、仮面をつけた近衛隊を見て感動している。


(王国民の美的感覚は全く理解できん……)


 面をつけた集団が移動している様子は、単純に不気味極まりない。

 下手すると盗賊団より恐ろしいかもしれない。

 しかし、これもサラーヴィーが近くにいるので口にはできない。


「タトルよ、とりあえず詳細を聞いてこい」

「分かりました」


 サラーヴィーの指示を受け、エルミードは聞き込みを開始した。


「ここは国境から50キロはあるはずだが、こんなところまで盗賊達は襲ってきているのか?」

「へぇ……そうでございますだ。奴らは朝昼晩と村々を荒し、最近は王国も帝国も問わず襲っているようでございますだ」

「……何? 王国も帝国も問わず?」


 エルミードの表情が険しくなった。

(こちらが聞いている話と全く違うではないか。一体どういうことだ?)

 盗賊団に帝国が支援を出し、王国の村を襲わせているというのがエルミードが知っている話である。

 帝国の街や村まで襲っているとなれば、全く話が変わってくる。


(とはいえ、王国軍にいる私が、帝国側に調べに行くわけにもいかないからな)

 気にはなるが、調べようがない。

 そうでなくても、サラーヴィーは自分を疑っているフシがある。これ以上、不審なところを見せるわけにはいかないだろう。


 何とかまとめて調べることができないか。


「!」


 以前、両国の国境近くに小高い山があったことを思いだした。その山の頂上まで行けば、両方の地域を見渡すことができるし、盗賊団の動きを見ることもできるはずだ。

(よし、そこに行こう)


 夜を待ち、頂上に上り早朝に確認して帰ろう。

 そう考えて、その日はサイハテで部隊と夜を過ごすことになった。


 翌朝、誰も起きていない時間帯に一人起床し、山に向かおうとした。

 村を出たところで、村民と会う。

「あんれま~、こんな朝早くから偵察だべか? ありがたや、ありがたや!」

 と大声で拝みだされた。


 たちまち、村の家から村民達が出て来て、「偵察ご苦労さまです」、「お勤めご苦労様です」と大声で感謝される。


「いや、その……」

 どう対処したらいいか迷っていると、一番やってきてほしくない男がやってきた。

「何だかうるさいと思ったら、おまえか。どうしたのだ、こんな早朝から?」

 サラーヴィーが眠たそうに目をこすりながらやってきた。

 こうなると、変なことを説明するわけにもいかない。


「サラーヴィー将軍、実はこの先、帝国領との国境近くに山があることを思いだしました。そこから両国の状況やら盗賊団の動きがつかめるかもしれません」

「ほう……」

 サラーヴィーは真顔になった。

「それは中々に良い情報だ。でかしたぞ、タトル」

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