第7話 合格即初任務

 エルミードはもはや相討ちという選択肢もなくなり、大人しく剣技を披露し続ける。


「見事でおじゃ! 合格でおじゃ!」


 ラドラが笑いながら叫ぶ。

 その様子に、エルミードは思わず伝説の国・シセンにいるジャイアントパンダなる動物が笹で遊んでいる様子を思い起こした。


「よ、よろしいのですか?」

 驚いたのはサラーヴィーだ。

 やはり疑っていたのだろう。ラドラに何やら耳打ちをしている。

(こうなると、あいつの目が光っている間は動きにくいな……)


「エルミード・タトル、そなたには麿の部隊で働いてもらうぞよ」

「ははっ、ありがたき幸せでございます」


 ここに来た目的が達成された。

 しかし、その達成感は、キングダム王国に来る時に想像していた半分にも満たない。


「早速でおじゃるが、タトルに仕事をしてもらいたいでおじゃ」

「ははっ。何なりと」

「ラドラ様!」

 サラーヴィーは尚も食い下がっているが、ラドラが諭すように言う。

「サラーヴィーよ、そなたの忠義を疑うところはないでおじゃ。しかし、そなたは他の者の忠誠心も信じてやるべきでおじゃ」

「は、ははっ……」

 サラーヴィーはやむなく引き下がったが、ギロッと睨みつけてくる。

 間違いなく、エルミードを疑っている。


「南の方、エンパイア帝国との国境付近で山賊共が活発に動いているのでおじゃ。中々腕の立つ者もおるようで、討伐に苦労しているとの報告が来ているのでおじゃ。故にお主のような者を必要としていたのでおじゃ。サラーヴィーと共に退治に出てほしいのでおじゃ」


(何だと!?)

 エルミードは愕然となった。

(この饅頭、もしや俺の正体を知っていて……)


 エルミードが驚いた内実はこうであった。

 盗賊に資金を出していたのは、実はエンパイア帝国だったのである。

 国境付近の王国地域を弱体化させようと、盗賊達に武器や金を渡して活動させていたのだ。それを行っているのはエルミードの兄、第二皇子のガルドンであった。


 そこにエルミードが行くとなると、同士討ちのようなものだ。


 エルミードは再び背筋に冷たいものを感じた。

 ラドラは自分のことを知っていて、敢えてこのような任務を押し付け、ボロを出させようとしているのではないか。

(このデブ、やはりルドルの孫だけのことあって、単なるデブではなかったのか)


 どうすべきか。

 断れば、サラーヴィーが「大将軍様の頼みを断るとは、やはりこいつは怪しい!」と尻尾を掴んだかのごとく叫ぶだろう。

 それは避けたい。

「ははっ、このエルミード・タトル、大将軍様の依頼を必ず果たすべく、この命を賭けて臨みたいと思います」


 ラドラは大いに笑った。


「ホホホホホ、良きこと、良きこと! そなたとサラーヴィーがおれば、必ずや盗賊ともを討伐できようぞ!」

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