第4話 大将軍の護衛隊長

 初めて目にしたラドルの姿に、エルミード・タトルは茫然と口を開いていた。


(こ、このデブがラドラ……? そんな馬鹿な……)


 昨日見たルドルの銅像とは似ても似つかぬ姿である。もちろん、祖父と孫だから似ていなくても不思議はないが、この体形では満足に動くこともままならないはずだ。


(この場で俺が斬りかかれば、すぐに殺せるんじゃないか?)


 いっそ、そうしてしまおうか。エルミードは剣の柄へと手を伸ばす。


 だが、握ったところで翻意した。


(……これは何かの罠かもしれない。このデブを殺すのはいつでもできる。すぐに結論づけず、しばらく様子を見た方が良さそうだ)


 大きく深呼吸したところで、輿の隣を歩いていた男が目線を険しくした。身長は190センチを超えており、均整の取れた分厚い体をしている。一見して武器を持っていないが、この男ならその手足だけでも十分に凶器となりうる。


 その男がラドラに近づき、跪く。


「……大将軍様、今しがた、強い殺気を感じました」


 ラドラが「ギョギョッ!?」と目を丸くする。


「殺気? どういうことでおじゃっ!?」

「ひょっとしたら、この志願者の中に刺客がまぎれているのかもしれませぬ!」

「刺客!? 怖いでおじゃ!」


(チッ、しまった……)


 エルミードは内心で舌打ちをした。先ほど剣を握ろうとした時に、無意識のうちに殺気を放っていたのだろう。それを感じ取られたに違いない。


「大将軍様! 私の目で、一人一人確認したいのですが、よろしいでしょうか?」


 長身の男は乗り出すようにラドラに許可を求めた。今にも殴りかからんばかりの勢いでラドラが目を丸く見開いている。


「うむぅ……サラーヴィーがそこまで言うのなら、仕方ないでおじゃ。皆の者、不愉快かもしれんが許してたもれ」


 ラドラはエルミードを含めた志願者全員に断りを入れて、サラーヴィーに「許す。調べるでおじゃ」と指示を出した。


「ありがとうございます。それでは調べさせていただきます。皆の者、顔を上げい!」


 サラーヴィーの叫び声に志願者はビクッと反応して、全員顔をあげた。

 もちろん、エルミードも従うしかない。


 サラーヴィーはその長躯をいからせて近づいてくる。


 エルミードは背筋に冷たいものを感じた。


(これはまずいことになったな。バレたら、討ち取られることを覚悟であのデブを殺すしかないか。しかし、あのデブが本当にラドラなのか?)


 大英雄ルドルに匹敵し、ゴッド教国の神巫女ソフィアと仲が良いという話から想像される姿とは、似ても似つかない。


 つい一時間前なら、相討ちも悪くない選択肢として受け入れただろう。


 今はそうではない。


(仮にそうだとしたら、俺はあんな奴のために死ぬことになるのか……?)

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