第6話なんで今頃になって数学の勉強を?

「ところで原田さん、ちょっとお聞きしたいことがあるのですが……」

 敏子さんが急にそう聞いてきたので「どうしましたでしょうか?」と、俺は敏子さんに聞き返してみたら敏子さんは、

「原田さんはどうして、今頃になって数学の勉強のやり直しなんて、やっているのかな? ってちょっと気になりましてね」


 いきなりそう敏子さんが聞いてきたので俺は、

「戸澤さんは『数学検定』って試験があるのを、ご存じでしょうか?」

 そしたら敏子さんは当たり前のように「ごめんなさい知らないです」と答えてきたので、俺は、

「英語には『英検』があって、漢字には『漢検』って、それぞれ試験がありますよね? それらの試験よりかはかなりマイナーな検定試験にはなるのですが、数学にもそういった試験が、実はあったりするのですよ」


 それを聞いた敏子さんは、少しびっくりした表情を一瞬だけ見せた後で俺に、

「ちなみにその『数学検定』の試験は、今原田さんは何級の合格を目指して、日々勉強を頑張ってやっていらっしゃるのでしょうか?」

 ずいぶんストレートな質問だな……。と俺は思ったがそこは素直に、

「一応高校卒業程度とされています問題の難易度の『準二級』の合格を、今のところ目指しています。中学卒業程度の『三級』は大学に通っていた頃に、受験して無事に合格をしていますから」


「えっ? 原田さんって大学へ行っていたのですか?」と、敏子さんが『大学』というキーワードに食いついてきたので、

「はい。二年間だけ通っていました。もともとが数学が好きなまま高校を卒業しましたから、大学も目指すは数学科だなと思いました。とは言っても実際に入学した大学は、たしかに希望通りの数学科のある大学でしたが、数学科のある大学では一番ランクの低い大学でしたけれども……」


 すると敏子さんは「もしかして大学はご卒業されたのですか?」と聞いてきたので俺は率直に、

「いえ実は大学は、卒業が出来なかったのです。理由としましては、まず父親のリストラがありましだ。そうしましたら今度はそれが原因で、両親が離婚してしまいましてね。そうなると大学の方は授業料が払えなくなって、また教育ローンや奨学金といった救済措置の手は打てずに、とうとう大学には通えなくなってしまいまして、結局大学は二年生の時に、中退を余儀なくされました」

「それは悪い出来事を聞いちゃったね。ごめんなさい」と、敏子さんは謝ってきたので、俺はすかさず「いえいえ大丈夫ですよ。気にしないでください!」と、フォローを入れた。


 敏子さんはそれを聞いて、こう聞いてきた。

「例えばその『数学検定』の何級合格って、履歴書に書けたりするのですか?」

 敏子さんからそれを聞かれた俺は、こう答えた。

『ちゃんとした検定試験ですので、履歴書に書くことは可能みたいです。ただ英検や漢検と同様に、準一級は合格していないと履歴書に書くのは、恥ずかしいのではないかな? と思っています。特に数学検定なんて一握りの人の、なかなか一般には知られていないマイナーな試験ですから、なおさらその制約は厳しいと思います」


 俺は敏子さんにこう言った。 

「試験合格はもちろんのことですが、数学の勉強をやっていますと、問題を解くことに楽しめていた大学受験生だったあの頃に、まるでタイムスリップをしたみたいで、正直楽しいのですよ」

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