第11話試験合格と就職決定で卒業による本当のお別れ

 敏子さんが実際にボイラー二級の、東京出張試験を受験された次の週の月曜日に、またいつものように部門トレーニングが終わった後で、俺と敏子さんは施設の閉館まで勉強しようと思っていたのだが、敏子さんが今回実施されたボイラー二級の試験に対して、敏子さんは俺に対してなにかを言いたそうだったので、俺はこの日は勉強することは諦めて、その『なにか』を徹底的に聞く側に回った。


「それにしてもひどい出題だったわね。過去問なんてまったく役に立たなくて、まるで過去問偏重で過去問をひたすら繰り返し勉強してきた受験生は、容赦なく叩き潰すって出題だったわよ。逆にテキストを徹底的に繰り返し勉強していた受験生は、少しは希望の光が見えたのではないかな? いずれにしても今回がダメだったら、今年はもう出張試験はないから、今度受験するならば千葉の五井まで行かないといけないから、いろいろと計画が狂ってしまうね。今回の試験で絶対に奇跡が起きて、なんとかして合格をしてくれていないと……」 


 まさか言葉で出てきた内容が、試験問題への『文句』だったとは、さすがに想像出来なかったので、俺は敏子さんをなんとか落ち着かせて、

「まあまあやれる限りはやり尽くしたのですから、また別の資格の勉強でもして、また一緒にこの時間にこうやって勉強しましょうよ! きっと大丈夫ですよ! 正しい努力をした人は勉強の神様は、決して裏切ったりはしませんよ!」


 話しぶりと声の抑揚から、ずいぶんと今回の試験の出題に対して、怒りたっぷりというご様子ではあったが、問題冊子と解答用紙はすでに回収されてしまっているため、あとはまな板の鯉だという状態に、なにか変化はもたらされなかったし、俺も敏子さんに対しては、そこまでを言うのが精一杯だった。


それから二か月後に敏子さんの予想を見事に良い方向で裏切って、ボイラー二級の試験合格と、無事に希望していた熱供給の会社に内定が決まって、就職による就労移行支援からの卒業を、敏子さんから知らされることになった。


「あんな出題内容で、どうして私が無事に合格出来たのかが、いまだに理解不能だよね」

 などと試験問題への不平不満を、敏子さんはずっとぼやいていたので、俺は敏子さんに、

「いやいや戸澤さん『運も実力の内』ですよ!」

 そうアドバイスをしたものの、敏子さんは合格した結果に対して、終始ご納得がいかない様子ではあったが、俺はその知らせを聞いて、正直とても嬉しかったし、また敏子さんのたゆまない努力に敬意を表し、そしてまだまだ自分も負けてはいられないぞと、自分を奮い立たせて、今も就職という来るべき日がやって来るまで、日々の清掃の部門トレーニングと、そして数学検定準二級を合格するために、数学の勉強を続けている。

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明日一緒に勉強しましょう 荒井祐一 @arabon

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