第47話 変化

◇優視点◇

 

 現在うちのクラスは、二日後に控えた文化祭の出し物である喫茶店の準備で大忙しだった。

 

「誰か絵具買ってきてくれー!赤と黄色!」

「こっちも手が離せないわよ!」

「早乙女頼めるかー!」

「あとこの布と同じものもおねがーい!」

「あ、ついでに何かパンとか片手間に食べれるものー!」

「こっちもー!」

「絵具と布と軽食だな。行ってくる」

「あ、私も一緒に行くよ。一人で持つの大変だろうし」

「悪いな白瀬、助かる」

「私も実行委員だからね」


 と、こんな感じで教室のあちこちから注文が飛んでくるほどだ。


 ここ一週間はずっとこんな調子で放課後にみんなで準備を進めている。

 最近分かったことだが、どうやらこのクラスはこういったイベントごとには手を抜かないタイプの集まりのようで、喫茶店をやると決まるや否や、接客の練習や飾りつけに留まらず、衣装なども自分たちで作ることになったりと、力の入れ具合がすごかった。


 高校の文化祭でここまで力を入れる必要はないのでは?と思っていたのだが、桐山曰く……『このメンツで文化祭やれるのは今年だけだし、それにやっぱ後悔が残るような中途半端なものよりも、大変だったけど楽しかったよなーって言える文化祭にしたいだろ?だからみんなやり残しがないように気合入れてるんじゃね?』と真剣な顔で言っていた。

 聞いたときはそういうもんかと聞き流していたが、今なら少しだけその意味が分かるような気がする。

 もし頑張らなかったら、楽しい文化祭にならなかっただろうし、あのときこうしていれば……という後悔もしたくはない。

 少なくとも今の俺は、そういう風に考えられるくらいには変われたのだろう。


「……なにかいいことでもあった?」

「えっ?どうしたんだ急に」


 一緒に買い出しに向かっている白瀬に突然そんなことを聞かれる。


「だって早乙女君、笑ってたから」

「そうか?」


 自分が変われていると実感できていると分かって自然と笑みが零れていたらしい。

 見られていたのは少しこそばゆい。


「それで、なにかいいことでもあったの?」

「大したことじゃない。俺も変われたかもなって考えてただけだ」

「変われたって?」

「こうして文化祭楽しみだって、みんなと一緒に全力で取り組みたいって思えるようになったのは大きな変化だってことだ」

「なるほどねー。けどそれって変われたっていうよりも、その気持ちを思い出してきたっていうほうが正しいと思うな」

「えっ?」


 白瀬から思わぬ指摘をされる。

 変われたというよりは思い出してきた……?


「もちろんなにかしら早乙女君の中で心境の変化はあったと思うけど、元々君はこういったイベントとかは誰かと一緒に楽しめる人だったと思うな。困っている誰かに寄り添える君が、昔から人を拒絶していたとは思えないから」

「…………」

「ってごめんね?私の憶測にすぎないのに、いろいろ勝手に喋っちゃって」

「いや、白瀬の言っていることは的を射ているかもな」


 白瀬の言う通り、たしかに昔の俺はクラス対抗のイベントには全力で取り組んでいたし、みんなに頼ってもらえるような奴であろうと努力もして、勝ったときも負けた時もクラスメイト達と喜んだり、悔しがったりできた。

 これが憧れから来るものだったとしても、自分がそういう人でありたいという気持ちに嘘偽りはなかった。

 だから昔のそういう気持ちを思い出した、という白瀬の指摘は案外正しいのかもしれない。

 そのきっかけ……誰かの為に何かをする、したいと思う気持ちを思い出させてくれたのは……。


「……またなにか嬉しいことでも思い出してた?」

「また顔に出てたか?」

「そりゃあもう、まるで恋する乙女のような」

「誰が乙女だ」

「恋するは否定しないんだ……ということは思い浮かべていたのは女の子かな?」

「…………」


 全く持ってその通りなので何も言えなくて、言葉に詰まる。

 この沈黙は白瀬にとって、肯定と捉えられてもおかしくはないわけで……。


「えっ!?ほんとうにそうなの!?私の知ってる子!?」

「違うから!ほんと!」


 白瀬は理解するや否や、食い気味に聞いてくる。

 言っては悪いが非常に面倒くさい女子モードに入っているな白瀬……。


「柚原さんとか?それとも……」

「あーもうこの話は終わり!ほら、クラスのやつら待たせると悪いから早く買いだし済ませに行くぞ」

「えー……」


 強引に話を終わらせたことで、白瀬は不服そうに頬を膨らませる。

 そんな彼女に構うことなく、俺は少し先行して前を歩く。

 

 こういった話題はテンション上がるという、白瀬の意外な一面を見ることになってしまうとは思わなかった。 

 いや女子は恋バナが好きだと聞くし、もしかしたら案外普通の反応なのかもしれないが、相手する身からすれば疲れることこの上ないと思った。

 二菜はあまり恋バナをしなかったので、こういったテンションにはなかなか慣れない。

 これもクラスの人たちと関わることで得た経験と言うことで覚えておくことにして、早いところ買い出しを済ませるのだった――。

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異世界の聖女様が迷い込んだのは、なんと俺の家でした。~一緒に暮らすうちに溺愛されるようになりました。~ 小笠木 詞喪(おがさき しも) @takomasa0308

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