第46話 寂しさ

◇アルフィリア視点◇


 夏休みが終わって、早乙女家はまた多忙な日々へと戻っていた。

 朝から優さんは学校へ。

 そして愛さんたちはお仕事へ向かい、今家の中には私だけだ。

 当たり前だが、この家の人たちは決して暇ではない。

 仕事もあれば、個人的な用事もあるだろうし、暇ができたとしても自分のやりたいことに時間を費やしたいものだ。

 それなのに私のことも考えてくれているのだから、本当に頭が上がらない。

 ここ最近忙しそうにしている早乙女家の人たちを見て、改めてそう思わされる。

 いまのところ手段ははっきりしていないが、私もいずれ仕事を探して、少しでもこの家に貢献できれば……と思うばかりだ。


 忙しいといえば、ここ数日の優さんは特に忙しそうにしていた。

 どうやら学校の方で、ぶんかさいじっこういいん?なる役職に選ばれてしまったらしく、その関係で帰りも遅くなることが多く、帰って来たとしてもかなり疲れた顔をして帰ってくるので少し心配だ。


 ―—それになんだかいつもより少し寂しい。


 一人のときに寂しさを覚えることは多々あったが、ここ最近は優さんも疲れて帰ってきて、あまり一緒の時間を過ごせていないからかいつもより寂しさを強く感じる。


 もっと簡単に自分の気持ちを言葉にすると……。


「構ってくれなくて寂しい……なんて言えないですよね。……はぁ」


 いざ口にすると、自分の心の弱さを自覚させられたような気持ちになり、ため息が零れる。

 昔では考えられないような気持ちだ。

 優さんたちのおかげで、いままでが異常だったのだと今では理解しているけど、それでも自分の心に戸惑ってしまう。

 

「……ダメダメ!家事に集中しないと」


 考えれば考えるほど寂しさが大きくなっていくので、余計な思考は一旦捨てて、いまやるべき仕事い専念することにした。





 ひと通り家事を終え、あいにくの天気で出かけることもできないので、使わせてもらっている部屋でのんびり過ごしていると、あっという間に夕方になった。

 時刻は17時半ごろ、そろそろ夕飯の用意をしなくてはいけない時間だ。

 布団に寝転がっていた身体を起こし、軽く伸びをしてから下に降りる。


 キッチンに入り、エプロンを身に着けてさっそく夕飯の支度を始める。

 この時間になっても、優さんはまだ帰って来てない。

 今日も遅くなるのだろうか……なんて料理しながら考えていると、玄関のほうから扉が開く音とともに「ただいま~」という声がする。

 私は一旦火を止めてから、玄関のほうへ向かう。


「おかえりなさい、優さん」

「ああ、ただいま。アルフィリア」


 たったこれだけのやりとりなのに、胸の奥につっかえていたものが取れたかのように心が軽くなる。

 優さんや愛さん、希さんたちは一緒にいて、安心できる人なのだと再確認する。


「……あれ?それ、なんですか?」


 優さんが手に持っている袋に視線が行く。

 

「これか?これはケーキだ」

「ケーキ?ご自分で食べるんですか?」

「いや?アルフィリアに買ってきた」

「……えっ?」


 どうして私にケーキを……?

 この世界では、今日は何か特別な日なのだろうか?


「……最近なんか、アルフィリアが寂しそうにしてて、ほったらかしにしている気がしたから……その、なんというかお詫びというか……」

「~~~~~ッ!!」

 

 もしかして寂しそうにしているの顔に出ていた!?

 だとしたらとても恥ずかしいことこの上ない……。

 恥ずかしさのあまり、優さんに背を向けてしまった。

 聖女だった頃はポーカーフェイスには自信があったのに……。


「だ、大丈夫か……?」

「……いつから、気づいてたんですか?」

「えっ?」

「いつから私が寂しそうにしているって気づいたんですか?」

「えっと……俺が学校の帰り遅くなったときくらいから、かな……?」

「はぅ……!」


 思いっきり最初からバレていたようだ。

 もう恥ずかしくて穴があったら入りたい……。

 

 私が恥ずかしさで悶々としていると、また家の扉が開いた。


「ただいま……って、玄関でなにをやってるんだい?二人共」

「いや、アルフィリアにケーキ買ってきたらこんなことに……」

「あら?優もなの?」

「俺も……ってことは、母さんたちも?」

「ええ。アルフィリアちゃんに寂しい思いをさせてるんじゃないかって思ったから、今日一緒にみんなで食べようと思ってたんだけれど……」

「はぅ……!」


 優さんにだけではなく、愛さんたちにまでバレていたと知り、余計に恥ずかしさが増していく。

 今後は絶対、バレたくない感情は表に出さないように訓練をしなくては……。

 

「……余計なこと考えてないか?アルフィリア」

「そ、そんなことありませんよ!」


 図星を突かれて思わず慌てて誤魔化す。

 でもこんな反応じゃ、かえって怪しいだろう。

 さっそく隠せていない……。

 

「まあまあ、みんな。玄関に固まっていても仕方ないよ」

「そ、そうですね!すみません、お疲れなのに」

「気にしなくていいわよ~。さっ!パパっと夕飯の支度しちゃいましょうか」

「あ、私がやります!やりかけですし……」

「いいのよ~。たまには一緒に作りましょう」


 そういって、愛さんは一旦荷物をリビングに置いてからキッチンへと向かっていったので、私は慌てて追いかけた。


 なんだかこんなに賑やかなのは少し久しぶりな気がする。

 でも、この賑やかさが私に安心感を与えてくれている。

 さきほどまで心を埋め尽くしていた寂しさも、いまはどこにもない。

 

 どれだけ昔は大丈夫だったからと寂しさを取り繕っても、私はこの人たちと一緒にいることがたまらなく好きで、きっともう孤独になんて戻れない。

 きっと一人でいるときは寂しさを覚えるだろうけど、こうして一緒に過ごせる時間は必ず来る。

 だから、寂しさに負けないように私も頑張るんだ。

 

 そんなことを考えながら、愛さんと一緒に夕飯を作っていくのだった……。

 


 ケーキは夕飯の後にみんなでおいしくいただきました――。

 

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