第16話 接近
「君たち二人を相手にしてはさすがに私も手が足りないと思ったので、増やさせてもらったよ」
「増やすにも限度があるでしょ!」
地下道に潜伏させていたというトーマスの手は百とか二百とかその程度の数ではない。
続々と吹き出してくる手の大群に対して、クリアは特大の火球を放ったが、潮が引くように手の大群が連動して動き、火球が当たる部分だけに器用に穴を作って避けてしまう。
「多勢に無勢、ですねっ」
カレンが襲い掛かってくる手の攻撃を軽快な動きで避け、クリアは自分の周囲を覆い包むようにして障壁を張り、全方位からの攻撃を防ぐ。
「姫様。奴が」
「……うわー、そういうことするー?」
手の数が多いのならば無理やりかち割って本体を狙えばいいのではと思い始めた矢先、肝心の本体であるトーマスは手で形作った大きな椅子に腰を下ろし、宙に浮いていった。その姿すらも手の川に阻まれて見えなくなる。
「くそー。これならどうだ。炎の網」
網状に広げた炎を鞭のようにしならせて大群に向かわせる。熱に反応しているのか、やはり避けるような動きは見せるが、直線的な火球に比べて、網をしならせた動きはかわすのが難しく、何十個かの手を撃墜することには成功する。
しかし――。
「数がっ、多くてっ、どうにもなりませんねっ!」
無数に迫ってくる手を動き回りながら地道に破壊していっているカレンの言う通り、焼け石に水。
全く効果がないとは言わないが、相手の手の上限がいくつなのかわからなければ、きりがない。
「やっぱり本体を狙うしかない、と思うんだけど……」
クリアは手の川の向こうに隠されたトーマスの本体がいるであろう方向を見やる。
生憎と、ようやくさっき名称を知ったこの魔法という技術でさえ、空を飛ぶ手段はないように思える。
もしかしたらあるのかもしれないが、ほとんどの記憶を失っている今のクリアでは、感覚的に使える手段は限られる。
覚えていないことを無理やりやろうとしても上手くいくはずがない。
体に馴染んだいくつかの魔法だけがクリアに取れる最大にして最善な攻撃方法なのだ。
「カレンも空は飛べないよね?」
「無理です!」
「……だよね」
ダメ元で聞いたところ、やけくそ気味な大声が返ってきて、ちょっとびっくりするクリア。
「こうなると、地道にぷちぷち潰すしていくだけとかしか方法が思い浮かばないんだけど」
今なお吹き出し続けてはクリアたちを囲む輪に追加されていっている彼の手を見れば、すべての手を潰すまでにどれだけの時間がかかるかわからない。
それまでにクリアの魔力が持つか、カレンの体力が持つかという話だ。
特にクリア。
彼女が魔力を枯渇させてしまえば、そこら辺にいる少女と変わりはしない。
たとえその時点でカレンがまだ動けたとしても、クリアが人質にされてしまえばそれ以上、動くことができなくなる。
だから、クリアの魔力が尽きる前に、何らかの打開策を打ち出さなくてはならないのだが。
「もう手が多すぎて周りも見えないし……」
障壁を幾度となく攻撃し続ける無数の手に阻まれて視界はすこぶる悪かった。
幸い、一つ一つの攻撃自体はそれほどヘビーなものではないので、カレンの魔力をいただいたような形のクリアにとっては、簡単に防げる攻撃ではあった。
「まあ、でも、塵も積もればだし」
一つ一つは小さくても無数に連続して途切れることなく攻撃を加えられれば、障壁だって無限ではない。
障壁は魔力を供給し続けていれば消えることはないが、一定時間に供給できる魔力量には限りがあり、それ以上のダメージを与えれば跡形もなく消え去ってしまう。
すぐに張り直すことは可能だが、クリアが魔力を練る時間が必要となる。そのわずかな隙に集中的に攻撃されればまずいことになる。
文字通り、これだけ手数が多ければ、一瞬の油断が命取りになりかねない。
本体を狙うか、手をすべて潰すか。
選択肢は二つしかなく、そのどちらも難しいと来ている。
もはや逃げることさえ叶いそうにない。
「炎の網炎の網炎の網炎の網炎の網炎の網炎の網炎の網炎の網!」
今のクリアでも同時に展開できる魔法は、障壁も合わせて十が限界だ。それぞれに性質付与まですると、頭の中がパンクしそうなほどに。
何とか形成した炎の網を別々の方向に放り投げ、できるだけ多くの手を餌食にしようとするが、やはりいくつかは落とせても、数えきれないほどの手をすべて消し飛ばすことはできない。
「……カレン!」
「はい、姫様!」
呼ぶと彼女はすぐに答え、クリアの下に走り寄ってくる。
クリアは自分と彼女の周囲に雷の網を網目を細かくして張り巡らし、一時的な防御壁にした。
「ちょっと作戦タイム! カレンも障壁に入って!」
言うや否や障壁を解除し、体を滑り込ませてきたカレンを合わせて、広めに障壁を張る。
間一髪のところで無理やり雷の網を突破してきた手が障壁に弾かれる。すぐさま、障壁の周りを手が取り囲んだ。
だが、これまでのように攻撃してくるのではなく、障壁の近くで静止するのみに留まる。
「攻撃が止みましたけど、どういう意図でしょうか?」
「さあ、何か考えがあるんだろうけど、それよりも今はこっちがどうするかだよ。どうしたらいい? ボクらだいぶ追い詰められてるんだけど」
一人で考えるよりかは二人で相談した方がいい知恵が回る。
カレンだけを頼りにするわけではなく、自分でも考えているが、何らかのとっかかりを求めて、クリアはそう聞いた。
カレンは改めてこちらを取り囲む無数の手を見据え、落ち着いた声音で答えた。
「一点突破するしかありませんね。相手の数は多いですが、薄く張り巡らせているだけ。熱を自動的に避けるプログラムも為されているようですし、貫通すること自体は難しくないはずです。問題はどうやって空中にいる敵に攻撃を届かせるかですね」
「そもそもあの手はどうやって浮いているわけ?」
「そうですね。あれだけの数を一人の人間が自由自在に操作するのは不可能だと思いますので、ある程度は自動操縦なんだと思いますが。攻撃を受けてみた感じ、あの一個一個の手にはそれほど質量はありませんでした。おそらくは軽量な素材を使って全体を軽くして、なおかつ空気より軽いガスでも注入して浮力を得ているんでしょうか。小さな飛行船というところです。て言っても姫様にはわかりませんか。まあ、要するにガスで浮かして、小型のプロペラか何かで推進力を得ているといったところですかね。それをAIの力を借りて、ある程度は自分の意思も使ってコントロールしているのだと思いますよ」
「うん。まあ、なんとなくはわかった」
魔法というものが一般的だったであろう世界から来たクリアには、知識記憶というものはあってもせいぜいが重火器発明以前の文明で止まっている。完全に理解するというのがそもそも無理だった。
「噴出孔を塞ぐというのはどうですか。姫様の障壁ならあるいは」
「……やってみる?」
半ば結果はわかっていたし、おそらくはカレンもわかっていただろうが、ダメ元でやってみる。
地面に開いた直径五メートルの穴を塞ぐように障壁を張ると、しばらくの間、手の噴出は止まった。
ごんごんと障壁に当たり続けている状態が続いたかと思うと、すぐにそことは別の管理施設側面辺りから手が吹き出し始めた。
「だよね」
「地下道の入口が一つしかないわけがありませんでしたね」
わかっていたが、やってみて何の成果もないと心にくるものがある。
「だけど、障壁か……」
「何かアイデアでも思いつきました?」
「まあ、少し。だけど、だいぶカレン頼りだし、うまくいくかわからないけど」
「言ってみてください」
「使い続けて何となくわかってきたけど、魔法ってさ、魔力を伝達し続けられる距離には限りがあるんだよね。大体限界三メートルってところかな。それ以上を超えると魔法を維持し続けるための魔力を注ぐこともできなくなって、残った魔力が尽きれば消えてしまう。でも、投射するだけなら結構、遠距離でもいける。さっき施設全体を包んだように。それを維持し続けることはできないけど。例えるなら、ただボールを投げるのと、狙った場所にボールを当てるぐらいの違い。魔力というボールをただ遠くに投射するのは簡単でも、すでに展開した魔法に狙って投げるのは難しい。この認識で合ってる?」
「そうですね。わたしの知識もおおむねそれが正しいと言っています」
「よかった。じゃあ、こっからが作戦でね。障壁を足場に使いたいんだよね」
「なるほど」
それだけで得心がいったと頷くカレンに、一応は考えたことを話す。
「障壁は物体の進入を拒むものだから、空中に展開すれば足場に使える。そして、投射するだけなら結構、遠くまで届くから、あいつの本体のいる空中までカレンが上っていくだけの足場は作れるはず。そして、カレンがあいつを仕留めるか、あるいは地面に落としてもらって今度こそ逃がさないよう拘束する」
「はい。突破口は見えましたね。問題があるとすれば」
「投射した魔法の正確性」
「はい。それと、空中の敵の攻撃に対してどう対処するか、ですね」
「うん。だから、そこはカレン頼りになっちゃうんだよね。足場は可視光も通さない黒塗りでいくつもりだけど、とっさの事態に対応できるくらい正確にカレンの求める位置に足場を置けるかはわからない。下手をすればカレンが墜落する」
「ま、死にはしないでしょう、サイボーグなんで。ただ私が動けなくなれば勝利もまた遠のく。一撃で決める必要がありますね」
「うん。代案ある? あるなら、まずはそっちを試すのも手」
「……ありませんね。というか、もう考えている暇もなさそうです」
障壁に込めていた魔力がぐっと減っていくのを感じた。何事かと周りを窺ってみれば、先ほど障壁の周囲で周りを囲っていたはずの手が今度は障壁に張り付いて障壁を押しつぶすように手の平を押し付けている。
しかも、そのさらに上にも別の手が。さらにその上にも別の手がといった具合に障壁を押しつぶそうとしていて、いくら一体一体の質量が軽いといってもこれだけの物量でこられたらいずれ障壁が押しつぶされるのは目に見えていた。
「やりますか。姫様、周りの排除できます?」
「任せて」
言うや否やクリアは九重の炎で周りを焼き払った。押しつぶす動きに終始していたらしい手たちは回避が間に合わず、そのほとんどが黒ずみになって地面に落下する。消耗を避けるように、取り囲んでいた手が包囲を緩めたところで、障壁を解除し、カレンを外へ。
再度、自分の周りに障壁を張り巡らしたクリアは、トーマスの魔力を感知した方角へ向けて、特大の火球を放つ。再び、波が引いていくように、手たちが空に穴を開けるが、そこがねらい目。階段状に障壁を展開し、カレンの足場とする。
「行って!」
クリアが声を上げると、カレンが動いた。サイボーグならではの人間離れしたスピードで、空を駆け上がっていく。
それに追いすがるように手も追随していくが、カレンのスピードには及ばない。囲みを抜けて、手の輪の外に出たところで、穴が埋まった。
ここから先はカレン次第。クリアの視界はすこぶる悪く、囲みの上はわずかにしかうかがえない。火球で視界を空けるにも、特大の火球を放つにはある程度の集中がいる。足場を展開しながらでは難しい。
せめてカレンの助けになるよう、クリアはトーマスの魔力を感知した方角とカレンの位置との間に足場を展開する。
※
※
※
下を見下ろすと、人間の手の形をした無数の物体がうじゃうじゃとひしめいていて、かなり気持ち悪かったが、そんなものを気にしている場合ではない。
カレンは気を引き締めて、トーマスのいる方向を見つめた。
空中に浮く、多数の手によって形作られた椅子に腰を下ろした彼がその機械じみた目をカレンに向けた。
彼との間に、地上から投射されたクリアの手による障壁が展開される。可視化するために太陽光も通さないマットブラックの色合いをしたそれが、トーマスの下にたどり着くための大切な足掛かりだ。
カレンは足場の一つに跳躍し、その瞬間に無数の手が彼女に殺到する。それを避けるために次の足場に跳ぼうとして、残ったすべての足場に攻撃が殺到した。
「……!」
まずいと思った瞬間、さらに九つの障壁が新たに追加される。
クリアがさらに障壁を追加したらしい。
同時に展開できるのは九つでも、維持することを考えないでいいのであれば魔力の続く限り障壁はいくらでも追加することができる。
ためらいもなく、カレンはそのうちの一つに飛び移り、また手が殺到する。
それを避けるための足場を探し、足場に攻撃が殺到する。そして、さらにクリアが足場を追加する。
「――」
それからは同じことの連続だった。
トーマスの方もカレンを自分に近づけたら危ないとわかっているのか、彼へ近づくための足場には容赦なく攻撃を加えてくる。
さらに、移動先を絞らせないために定期的に高度を変えたり、上下左右にとにかく動く。
そのたびにクリアもその方向に向けて障壁を展開しているのだが、速度的には追いついていない。
展開するのと壊されるのとではほとんど変わらないスピードだった。クリアも展開速度の方を重視しているので、障壁自体の強度はだいぶ低く設定せざるを得ないようだ。
結果として、カレンはほとんどトーマスに対する距離を詰められず、同じような距離を保ったまま空中の危うい足場の間を行き来するしかない。
再びの膠着状態。
だが、それは先ほどよりも危うい、容易に崩れてしまう偏った天秤でしかなかった。
ただ好機が訪れるのを見据えて、カレンはひたすらに動く。彼女に取れる手段は少ない。
せいぜい今できるのはクリアが障壁を展開する瞬間を見逃さず、少しでも速く次の障壁に飛び移り、トーマスとの距離を詰めることだけだ。
現状を打破するために思い切った行動を起こすべきだという考えも浮かぶが、すぐにそれを否定する。
彼女はただひたすらに耐え忍び、好機を待つ。
待っているだけでは運を引き込めない。自ら幸運をつかみ取るためには自ら行動するしかない。
そう考える向きもあるだろうが、カレンは違う。
今、彼女が何か特別な行動を起こす必要はない。
そう。
なぜならカレンは知っているからだ――。
「……!」
――こういうとき、真っ先に最善の選択肢を取れるのが自分の主人だと。
カレンとトーマスの間、よりトーマスの方に近い位置に、大きな障壁が作られる。それは今まで展開してきた可視化された足場と同じ真っ黒な障壁。しかし、今までの障壁が、見えるために可視光を阻んでいたのに反して、この障壁は見えないようにするために展開されたものだ。
歪ではあっても人間の魔力を感知して位置を把握できるクリアに対して、トーマスは常に目視――というより彼自身の両目の位置にはまったセンサーで確認しているような素振りがあった。
その知覚方法は純粋な視覚情報によるものか熱源などその他の情報によるものかはわからないが、可視光すらも通さないことを目的としたクリアの障壁ならばその感知を阻害することはできる。
トーマスはカレンの位置を、もっと言えば、その間に展開された足場の位置を見失うことになる。
一方で、カレンにもトーマスの位置は見えなくなるが、それを彼女自身が把握している必要はない。
クリアにそれがわかっていれば、そこまでの道筋は展開されるからだ。
目隠しの障壁に力を使ったからか、今までよりも少ない五つの足場が同時に展開されると、カレンは迷いなくそれを辿る。
攻撃の手は止まっていないが、大部分が視界を阻む障壁の破壊に回っていて、それ以外は当てずっぽうだ。そんなものに惑わされるカレンではない。
目隠しの下を通り抜けるようにして、足場を辿ると、その先にはトーマスの姿がある。
「くっ……!」
焦ったような言い方ではあっても、声音自体は平坦で、人間の感情と機械音声との致命的なまでの乖離がそこにはあった。
やはり手はカレンの下に殺到するが、それよりも速くカレンはトーマスに迫る。
あと五メートル。
「まだ終わるわけにはいかないのだよ!」
平坦に叫んだ彼のそばに浮かんでいた手の一つから煙がもうもうと吐き出されてくる。
お返しとばかりの目隠し。
だが、トーマスは忘れているようだ。
彼がサイボーグであるように、カレンもまたサイボーグであるのだと。
単純に視界を遮るだけの目くらましは彼女に効かない。綿密にサイボーグ化の計画を練ってきた彼女が、視覚以外の知覚方法を用意してないはずがない。
それは周波数感知。一定の周波数の音をまき散らし、その反響具合によって周囲の状況を探る。潜水艦のソナーのように。コウモリの超音波のように。
そして、クリアの障壁が光すらも通さない障害物となっている以上、足場を見失うことはない。相手の位置を見失うこともない。
あと三メートル。
「まだだ……!」
瞬間、カレンの足下で爆発が起こった。
「なっ――!」
衝撃に足場が吹っ飛び、カレンも爆発の衝撃に空中に投げ出される。
「手を浮かせるだけじゃない。ガスにはこういう使い方もある」
「くっ……」
体制を崩して落下を始めるカレンのすぐそばに障壁が生じる。
慌ててそれに手を伸ばし、ぶら下がったところで、再び手が殺到する。
トーマスまでの距離は七メートルに広がった。さらに彼が遠ざかっていく。
「惜しかったけれどね。文字通り、こちらにはいくつもの手数があるのだよ」
「……仕方ありませんね。最後まで取っておきたかったのですが……」
カレンは切り札を切ることを決断する。
障壁にぶら下がった手に思いっきり力を入れ、頭上に飛び上がると、足裏に仕込んだもう一つの小型ロケットエンジンを作動させる。
クリアに使った足とは別のもう一つの足だ。
そう。カレンは両足にロケットエンジンを仕込んでいた。クリアに使用した後でも、まだもう一度、突撃を敢行することはできたのだ。もっともそんな必要は未来永劫なくなったのだが。
七メートルあったはずの彼我の距離は瞬時にゼロになる。
「手数の多さは問題ではありませんよ。要は使いどころです」
「がっ……」
ほとんど自動防御なのだろう。瞬時に壁となってトーマスを庇うように展開された手の盾を突き破り、カレンの拳がトーマスに届く。顔面を強打していた。距離もあった上に手の盾で威力減衰させられたため、顔面を破壊するほどの威力にはならなかったが。
「まだ……っ!」
「ちっ」
これだから切り札を最後まで残しておきたかったのだとカレンは嘆いた。
微妙に仕留め損なった。距離があったために防御する隙を与えた。一つ一つは大したことない手の防御でもより集まればそれなりの盾になる。
本当はゼロ距離で使うつもりだったのに。
「……詰めが甘かったね。私はまだ戦える……っ!」
「いいえ。終わりですよ。本当はわたし一人で決着をつけたかったのですが、ままなりません。手柄は主人に譲るといたしましょう」
「何を――」
「――えい」
気の抜けた掛け声が聞こえたかと思うと、トーマスの頭が派手にぶん殴られ、そのまま彼の眼前ゼロ距離に展開された障壁にぶち当たる。
障壁をまとった握りこぶしと、空中に展開された障壁とのサンドイッチになった
衝撃に、未だ生体のままだった脳を揺さぶられ、トーマスの意識は闇に消える。
「わたしに夢中で気づきませんでした? わたしの姫様は本当にでたらめで、突拍子もないことをする人なんですよ」
「えへへ」
目隠しの大障壁が展開された後、足場として出現したのが五つだった辺りで、カレンはちょっとした違和感を覚えていた。
てっきり大きな障壁を出したから余裕がなくなって数が減ったのかと思っていたが、そうではなかった。
単に自分が上ってくるための足場を作るためにその数が減っていたのだ。
目隠しを展開し、その隙にカレンが距離を詰めて攻撃すると見せかけて、さらに自身も接近して攻撃のチャンスをうかがう。
そこまで考えてのあの大障壁だったわけだ。
「姫様もなかなかやりますね」
「でしょ」
精いっぱいの強がりで上からものを言ってみたのだが、屈託ない笑顔を向けられて、カレンは閉口した。
やはりわたしは姫様には敵わない。
そう思ったのだった。
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