第3話 異世界への異動はお断りします③
◇◆◇ご注意ください◇◆◇
今回のお話には残酷な描写が含まれています。
惨殺シーンや過激な暴力シーンが苦手な方は、次のお話へ移動してください。
よろしくお願いいたします<(_ _)>
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そして帰宅するなり、私は激痛とともに悪い予感を体感した。
元夫――佐々木尚巳に、いきなり刺されたのだ。
連絡どおり尚巳は玄関前で待っており、その姿を見た私の心をダークサイドへ引きずり込んだ。
しかしもっとタチが悪かったのは、彼に殺意があったことと、私がそれに気づけなかったことだ。
尚巳は私が玄関へ入るのと同時に一緒に飛び込み、驚いた私が振り返るよりも早く左脇腹のあたりを刺した。
私は刺された勢いで廊下へと尻餅をついた。
「おまえがやったんだろう! おまえが俺の不倫していた動画なんてネットにあげなければ、俺は……俺はっ!」
尚巳はつばをとばして怒鳴り散らしている。
いったい、なにを言っているのか。わからない。
考えても、腹部に刺さったままの包丁の痛みで頭が回らない。
不倫動画がなにかより、今すぐ救急車を呼びたい。
でも包丁を腹部に刺したままにしておけば、出血による死亡が少しは延びるはず。
実は刺された際、凶器はむやみに抜かないほうがいいのだ。そのまま固定して救急車を呼ぶか、病院へ連れて行ってもらうのがベスト。
そうすれば、搬送された病院の医師が適切な処置を施してくれる。
倒れながらも尚巳から包丁を奪っておいてよかったわ……って、私、こんなときなのに意外に冷静よね。笑っちゃう。
「ど……動画って、なんの……こと?」
「とぼけんな! 俺が笹川アイリの部屋へ行った動画だよ! なんで室内の動画まで撮れてんだよ! 警察官であるおまえしかできねぇだろうが!」
バカなことを言う男だ。ちょっと冷静に考えればわかるはず。
他人の部屋の隠し撮りなんて、警察官であろうとできない。そんなことをしたらいろいろな罪状がついて逮捕されてしまう。
コイツ、本当にミステリーのジャンルでデビューしたんだろうか。知識と知性を疑いたくなる。
それに笹川アイリの名前を知ったのはほんの一時間前だ。どうやって自宅を知るというのだろうか。
そもそも私は忙しくて、動画をアップする時間すらない。
すでに別れているから、尚巳がそんなことを知らないのは当然だとは思う。
ただ、ここはH県。T都とどれだけ距離があると思っているのか。
新幹線で二時間半、飛行機でも一時間半の距離を一瞬で縮めることはできない。私の息子の友達にドラ○もんはいないのだ。
だけど今、そんなことを言っても、コイツは信じそうにない。バカみたいに頑なになって、私のせいだと思い込んでいる。
でも言いたい。言ってやりたいのに、苦しくて声が出ない。
「知らない……そんな、女……つっ!」
刺されると大量にアドレナリンが出て痛みに鈍くなるとか聞いたことあるけど……あれ、嘘ね。なによ超痛いわよ、普通に。
しかも酒を飲んできたせいか、出血が早い気がする。
この痛みに負けるのは自分が許せない。それに、このアホ男になにか言い返してやりたい。
私は根性で意識をなんとか保ち、反論した。
「警察官……でも、プライバシー、侵害したら、さすがに、罰せられる、わ」
苦しくて言葉が続かない。息が切れる。早く救急車を呼びたい。私は無意識にスーツの内ポケットにあるはずのスマホへ手を伸ばした。
「嘘をつくな! おまえのせいで俺の本は返品されまくって……! そのせいで最新作は刊行できねぇし、他の出版社からも軒並みソデにされて……!」
「え……? だって、人気作家に、なれた……んでしょ……?」
「そんなもん、一瞬で消えた! デビュー前よりも最悪だ!」
……ダメだ。状況がわからない。
事件のせいでロクにテレビも見ていなかったから、彼の置かれている立場が理解できない。
「あいつが言っていたんだ! 公私混同したおまえがやったんだってな!」
「なにを――」
私の反論は、尚巳が左脇腹から引き抜いた包丁が、私の喉元へ突き立てられたことで、激痛とともに消え失せる。
刺された勢いで、後頭部を思い切り板張りで強打した。
「おまえのせいで! おまえのせいで! おまえのせいで!」
そんなことを叫びながら、尚巳は鬼の形相で私の体を滅多刺しにしてゆく。その瞳には暗い光が宿り、濃い憎しみの色が浮かんでいた。
彼のあまりに強い憎悪に全身が総毛立ち、嫌悪感と恐怖が全身を支配する。
もう反論することは肉体の状態から無理だが、おそらく反論できたとしても、こんな一方的な思考で支配された狂信的な目を持つ男には通じない。
腹、胸、太もも、腕……意識が続くかぎり、私はその強烈な悪意を暴行とともに受け続けた。
痛かったのは四回目くらいまでで、次第に痛みが少しずつわからなくなってきた。感覚が鈍ってきたのだろうか。
(あぁ……これまでの被害者たちも、きっとこんな感じだったのか……)
ただただ敵が恐ろしく、本能では逃走を望むものの、相手から与えられる恐怖心から抵抗どころか、動くことすらままならない。
いつの間にか意思は消え、人形のようになり、ひたすらに打ち込まれる包丁を呆然と受け止めながら、私はこれまで関わってきた事件の被害者のことを思った。
遠のく意識のなか包丁が右目に突き立てられたとき、私の意識はようやくブラックアウトした。
To be continued ……
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●○●お礼・お願い●○●
最新話まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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