転移を操る攻略【ワンガル】#7[後編]
《 司令官、探査完了しました。かなり古いようですが、ワープポータルを発見しました 》
「古い?」
《 長年、一度も使われていない、というような魔力構造です。機能としては正常に作動していると思われます 》
「そうか……。ポニー、探査してみてもらえるか?」
《 お任せください! 》
ポニーは力強く拳を握り締めて見せ、ポータルの探査を始める。
「古いポータルということは、昔から存在してはいた、ということになりますでしょうか」
『おそらくその通りだと思われます。これまでの攻略では本来のポータルを使用していたため気付かなかったのでしょう』
「はい。ではポニーちゃんの探査を待ちましょう」
***
[正常に機能してるなら使えるんかな?]
[一度も使ってないって怖くない?]
[問題はどこに繋がっているかだよな]
[ちゃんと他の地点に繋がってんのかな?]
[動いているなら使うべきという気もするな]
***
《 司令官、探査完了しました。このポータルが繋がっている地点は第一から第五のどれでもありません。ダンジョン内、ということしか…… 》
「繋がっている地点の予測はできないか?」
《 探査が届かないようです。もしくは、弾かれているのかもしれません 》
「そうか……。モニカ、どう思う?」
《 はい。どこに繋がっているかという点は不安要素ではありますが、どちらにせよ、私たちはこのポータルを使用しなければ主のところに行くことができません。転移先で魔物に囲まれたとしても、私たちが退けることができるのは、先日の街角の女王戦で証明できているかと 》
***
[自分の能力と仲間に対する絶対的な信頼……]
[自己肯定感が高すぎて惚れ惚れする]
[自信に満ち溢れたモニカ堪らんな]
[月輔のモニカに対する信頼も忘れるな]
[さすモニ]
[てかポータルに入ったら通信が切れるとかない?]
[見失ったりせんかな?]
***
「レディさん、どう思われますか?」
『モニカちゃんを信用してもよろしいかと。ポータルを使用しなければ移動できないというのは確かです』
「そうですね。では……」
マイクのスイッチを入れようとした星は、砂嵐が目の前を横切るので手を止めた。
耳の奥で誰かの声が響く。まるで警告音のようだった。
『月輔さん? どうされましたか?』
「……誘われているような気がする……」
ぽそりと呟いた星に、レディは首を傾げる。
「破壊されたポータルの近くに使われていないポータルがあるなんて、都合が良すぎませんか?」
『そう言われると……いままで一度も気付かなかったことが不自然とも思えますね』
「ここはエルナルラの領域……。ダンジョン内に根を張っているならどんな罠でも仕掛けられるはず……」
罠が仕掛けられているのは当然と考えても、何か嫌な予感がした。ポータルを抜けた瞬間に攻撃を仕掛けられる可能性もあると思わせる感覚だ。
『それでしたら、エーミィちゃんのスキル“先手必勝”を使ってみてはいかがでしょう』
「どんなスキルですか」
『その名の通り、敵対相手の索敵範囲内に入ると同時に攻撃を仕掛けられるようになるスキルです。今回の場合でしたら、ポータルを抜けた瞬間に攻撃に転ずることができるはずです。ただ、魔力の消費が大きいため、エーミィちゃんは一定時間、戦闘に参加することができなくなります』
「なるほど……。モニカちゃんの言うように、敵に囲まれたとしても彼女たちなら切り抜けることができると考えると、先手を打てば勝利の確率は上がりますね」
星はマイクのスイッチを入れる。
「みんな、聞いてくれ。ここでポータルを発見したのは不自然にも感じられる。ポータルを抜けた瞬間に攻撃を仕掛けられる可能性がある。魔物に囲まれたとしても、モニカの言う通り、きみたちの実力なら負けることはないだろうが、不意打ちに対抗できるように、エーミィのスキル『先手必勝』で即座に攻撃に出られるようにしたい。だが、エーミィが一定時間、戦闘に参加できなくなる。どう思う?」
その問いに、最初にアリシアが応えた。
《 不意打ちの可能性は大いにあり得ますし、その方法が最善かと思います。私たちは充分にエーミィのカバーをできるはずです 》
「エーミィ、どうだ?」
《 問題ないわ。けど、ひとつだけ気になるわね。ここにもうひとつのポータルがあることを不自然と考えると、この湖畔はエルナルラの領域だから、エルナルラがあたしたちを
「そうだな。その可能性も考えられる」
《 あたしのスキルでは不意打ちに対抗できたとしても、エルナルラ戦ではアリシア、ポニー、リトが果実の破壊に回るとしたら、あたしのカバーをするのはモニカになる。モニカの負担がいつもより大きくなるわ 》
「ふむ……。モニカ、どうだ?」
《 問題ありません。私が成長する良い機会です。エーミィちゃんはそのまま特異攻撃の充填をしてみてはいかがでしょう。アリシアちゃんとポニーちゃん、リトちゃんがすべての果実を破壊するのには、さほど時間はかからないはずです。きっと速攻で勝利を収めることができると思います 》
***
[モニカ△……]
[自信を持ちながらも成長へのモチベーションの高さがさすがだ]
[さすモニ]
***
「よし。じゃあ、それで行こう。エーミィ、頼む」
《 そう来なくっちゃ! 》
エーミィが手のひらをかざし、意識を集中させる。五人のあいだに虹色の風が吹き抜けた。エーミィは小さく息をついて目を開く。スキルの付与が完了したようだ。
強い意志を湛えた五人の瞳が、司令室を見つめる。
「よし、進んでくれ」
《 はい! 司令官! 》
アリシアを先頭に、五人がワープポータルへ足を踏み入れた。
その先へ抜けると同時に、触手のように伸びた何本もの枝が五人に襲いかかる。真っ先に剣を振り上げたのはモニカだった。
「さあ、エーミィの予想通りエルナルラ戦となりました。開幕一番、モニカのスキル『
『理想的な開幕です。このままの調子を保ちたいですね』
***
[エルナルラざまあ回だな]
[先手必勝に先手必勝!]
[惚れ惚れする]
[さすモニ]
***
「迫る来る枝を華麗に躱しながら確実に果実を破壊するアリシア! 的確にサポートするポニー! そしてリトの乱れ打ちが炸裂だ! 一本として枝を見逃さないモニカ! もはや目で追うことができません!」
『素晴らしい連携! エルナルラも悔しそうですね!』
「さあ、果実も残り少なくなって参りました。このまま――」
そのとき、足を掬おうとした枝を躱したモニカが、別の枝に足を取られバランスを崩した。体勢を立て直す隙を狙った枝が、モニカに迫る。
星とレディが息を呑んだ瞬間、カッと目を見開いたエーミィが、次の瞬間にはモニカを掻っ攫って行った。
《 あたしだって、守られてばっかじゃないわ! 》
「エーミィがこれほどまでの瞬発力を秘めていたとは! モニカにも引けを取りません!」
『お見事! 魅せてくれますね!』
「さあ、エーミィのルーンアックスが光を纏う! アリシアが最後の果実を打ち砕いだ!」
《
「決まったぁー! エーミィの重い一撃がエルナルラを真っ二つだ! 戦闘少女たちの大勝利です!」
『素晴らしい戦いでした! 花丸です!』
《 今回のMVPはあたしかしら? 》
エーミィが安堵と誇りに満ちた表情で不敵に微笑む。
***
[決まったぁー!]
[みんなお疲れ様!]
[エーミィ! エーミィ!]
[みんな花丸ー!]
***
レディが星に手のひらを向けるので、いまだ照れを感じながらハイタッチに応じた。レディは安堵で微笑んでいる。
「みんな、お疲れ様! 見事だったよ!」
《 ふふん。基地に帰ったら何かご褒美をもらおうかしら? 》
「はは、なんでも欲しい物を言ってくれよ。とは言え、無事に帰還できたら、かな。帰りのポータルを確認してくれ」
アリシアが出口用のポータルのもとへ向かう。ポニーが「直感」で探査すると、正常に機能しているようだった。
「よし、じゃあ速やかに帰還してくれ」
《 はい! 作戦終了します! 》
***
[作戦終了〜!]
[お疲れ様ー!]
[無事に帰還してね!]
[みんな花丸!]
***
「はい。無事、作戦終了となりました。レディさん、いかがでしたか?」
『エーミィちゃんが充填するまでの四人の連携が見事でしたね。そしてエーミィちゃんの瞬発力! あれほどの能力を秘めていたとは驚きです』
「きっと弛まぬ努力の賜物ですね。先手必勝を狙ったエルナルラの罠は、むしろ時短できた、なんて思ってしまいますね」
『そうですね。むしろ好都合とはこのこと、といった感想です』
「はい。では、今回の配信はこの辺で、みなさん、お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう〜」
『お疲れ様でした〜』
***
[おつ!]
[エーミィにええもん買うたれよ!]
[みんなよく頑張ってて良い回だった]
[月輔とレディさんもお疲れ様〜!]
***
配信を停止すると、星はひとつ息をついた。
「ポータルの破壊だけで済んでよかったですね」
「そうですね。ですが、魔物が知性を持ち、戦闘少女たちを認識するようになったという良い例です。これからは、それも頭に入れたほうがよさそうです」
「そうですね……。それも想定した作戦である必要が出てきましたね」
「こちらにある情報以上に魔物を知っているのは戦闘少女たちですから、積極的に意見を求めるといいかもしれません。きっと喜んで知恵を貸してくれますよ」
「戦っているのは彼女たちですからね。もしかしたら俺たちよりも良い作戦を編み出すかも……」
「ふふ。その可能性はありますね」
『司令官! レディ様! ただいま帰還いたしました!』
アリシアの元気な声が聞こえるので、ホーム画面の前に移動する。すっかり修復も済んでいるようだ。
「お疲れ様。帰還用のポータルも破壊されているんじゃないかってちょっとビクビクしてたよ」
『私たちもそれを警戒していましたが、私たちを生きて返すつもりがなかったのでしょう。ポータルは無事でした』
「なるほど……。先手を仕掛けて確実に仕留めるつもりだったってことか……」
『はい。これからはその可能性を考えて、帰還用の魔道具を常備したほうがいいかもしれません』
「そうだな。消費する素材は多くなるが、帰還できなければ意味がないからな」
『素材は空いた時間に私たちが採取して来ます。毎回、使うというつもりでいてもいいかもしれません』
「そうだな。素材を惜しむべきではないな。そうだ、アリシアはご褒美に何が欲しい?」
『えっ……!? ご褒美ですか!?』
「エーミィになんでも好きな物を言ってくれって言ったし、他のみんなの希望も聞いてみてくれ」
『いいのですか……?』
「もちろん。みんな、いつも装備品を欲しがるが、装備品以外で欲しい物はないのかな」
『えっと……では、みんなにもあとで聞いておきますね』
「うん、よろしく。装備品が欲しいならそれでいいから」
『はい! ありがとうございます!』
『ふふん。言質取ったわよ』
エーミィの悪戯っぽい声が画面外から聞こえた。
「聞いてたのか」
『みぃんな聞いてるわよ』
「えっ!? 全員そこにいるのか!?」
驚く星に、アリシアが申し訳なさそうに笑う。画面外から、他の少女たちのくすくすと笑う声が聞こえた。
『えへ、すみません……。エーミィが、司令官が忘れてないか確かめろって……』
『忘れてなかったわね。感心だわ』
「そこまで薄情じゃないよ。約束は守る」
『じゃ、まずはあたしからね』
「えっ、ちょっと待って、メモ取るから」
『あたしは新しい髪留めが欲しいわ。空色のやつね』
「エーミィ、空色の髪留め……と。次は?」
『は〜い、じゃあボク〜。ボクは新しい枕が欲しいな〜』
「リト、枕……。よし、次は?」
『はい! ポニー、参ります! 私は靴べらが欲しいです!』
「靴べら?」
『基地で履いている靴の踵をいつも踏みつけているのをアリシアに怒られましたので……』
「それは日用品扱いにしていいよ。ポニーが欲しい物は?」
『あ、では……ケレスタニアのクッキーが欲しいです……』
星はレディにちらりと視線を遣った。
「基地に配達に来る商人に取り寄せてもらいましょう」
「はい。ポニーはケレスタニアのクッキー……と。モニカはどうだ?」
『はい。可能であれば、物語の本をいただければと……』
「物語の本な。アリシアはどうだ?」
『えっと……私は、特には……』
『おや? アリシアは前から“月光”が欲しいと言ってませんでしたっけ?』
悪戯っぽく言うポニーに、アリシアは慌てた様子だった。
「月光って?」
『あ、はい……。装備品なのですが、照準を合わせる能力を上げるための装飾具です』
「エイムアシストみたいなものか……」
レディが星に装備品一覧を差し出す。装備欄としては「その他」に当たる「月光」は素材の消費は控えめだが、少々特殊な「月草」を使用する。倉庫の内容を見ると、三つほど所持しているようだ。
「わかった。じゃあ、開発に回していいよ」
『ありがとうございます!』
こんなときにも装備品を希望する辺り、アリシアの向上心は人一倍のようだ、と星は考えた。
「希望は揃ったな。さっそく手配するよ」
戦闘少女たちの喜ぶ声と礼を言う声が画面から溢れる。戦うための存在であったとしても、彼女たちはひとりひとりの少女である。その事実を再確認するような時間であった。
毎度は無理かもしれないが、彼女たちの希望を叶えてやることも、作戦をより成功に近付けるのかもしれない。彼女たちの能力は申し分ない。あとはモチベーションの持続が星に求められるだろう。
この先、彼女たちの知恵を借りることが何度もあるだろう。彼女たちを攻略に向かわせればそれで終わりではない。星はそれを再確認した夜だった。
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