転移を操る攻略【ワンガル】#7[前編]

「はい。お時間となりましたので、始めていきましょう。こんばんは、実況の月輔です。解説はお馴染み、案内女神レディさんでーす。よろしくお願いしまーす」

『よろしくお願いしま〜す』



***

[こんばんはー!]

[レディさん今日もお美しい]

[月輔の眼鏡が変わってる]

[パリーンしたんかな]

[握り潰されたんちゃう?]

[なんなんだ今日の指揮は! ぐしゃっ]

[レディさんはそんなことしない]

***



「本日のダンジョンは『バルミューダの湖畔』となっております。五箇所にワープポータルが存在し、転移での進行となります。第一地点から第二地点に繋がるような転移ではありませんので、注意が必要です」


 レディが液晶にダンジョンマップを表示する。湖を囲うようにポータルが存在し、ひとつのポータルが1マスとなっている。


『幸い、五箇所のどのワープポータルがどこに繋がっているかは解明できています。迷わないように進みましょう』

「はい。各ポータルの地点にリーダーとなる魔物が存在しています。そのリーダーを討伐すれば、その地点の制圧となります。五箇所すべてを制圧すれば、主のもとへ繋がるポータルが出現します。主を討伐すれば攻略完了です」



***

[ダンジョンとしては単純なのかな]

[どこに繋がっているかわかるなら簡単だな]

[変化してぐちゃぐちゃになってるとかないかな]

[それが心配だよな]

***



「はい。では本日の編成です。前衛左前をアリシア、前衛右後ろをエーミィ。中盤をモニカ。後衛左前をポニー、後衛右後ろをリト、と基本的な編成にしてみました」

『主戦も視野に入れた安定の編成でしょう』


 レディが液晶に主である「エルナルラ」を映し出す。


『主はエルナルラ。大木の化け物で、果実をすべて破壊する必要があります。ですが、枝を伸ばして攻撃して来るため注意が必要です』



***

[お化けみたいやなあ]

[ポニーとリトの活躍回かな]

[遠距離攻撃が大事そうだなあ]

[アリシアも戦えそう]

***



「はい。では最初のマスに進んで行きましょう。アリシア、進んでくれ」



《 はい! 司令官! 》



 アリシアのドット絵が1マス目に進む。湖の各地点は地続きではないため、ワープポータルで移動するしかない。一度でもポータルを間違えると、戻るまでが二度手間になるだろう。

 視聴者が案じているように、ダンジョンが変化している可能性もある。罠に加え、通常のポータルも正常に作用しているかどうかも探るため、ポニーにはスキルを多用することを伝えてある。



 ――【 索敵開始 】



「はい。索敵が始まりました。バルミューダの湖畔はいままでのダンジョンよりアップランクですので、出現する魔物も少しだけ上位の魔物となります。戦闘少女たちにとってはいかがでしょう」

『彼女たちの能力でしたら苦戦することはありません。無事にエルナルラのもとへ辿り着けば難なく攻略できるでしょう』



***

[エルナルラって言いづらいな]

[無事に辿り着けてくれ〜!]

[毎回ハラハラするなあ]

[ワープポータルって偽物とかあんのかな]

***



《 索敵完了! 前方に三体! 戦闘開始します! 》



「さあ、始まりました、第一戦。アリシアの銃弾はコボルトを貫き、エーミィはアルラウネ、モニカはアンデッドの首を一閃で落とした! あっという間の戦い。戦闘少女たちの完全勝利です!」

『良い調子です! このまま進みたいですね』



《 楽勝ね! 》



 リザルト画面でエーミィが不敵に笑う。経験値はいままでのダンジョンに比べたら多めのようだ。五人の熟練度では足しにもなだないのだが。


 五人はそのまま、第一地点のワープポータルに移動する。


「さて、第一地点のワープポータルに到達しました。ダンジョンが変化してワープポータルが歪んでいる可能性がありますので、ポニーのスキルを頼りましょう。ポニー、“直感”で探査してくれ」



《 はい! かしこまりました! 》


 ――【 探査開始 】



***

[直感で探査するの?]

[そういうスキルなんじゃ?]

[ポニーらしさあるな]

[勘で動きそうな子だもんな]

***



「ポニーのスキル『直感』は罠を見極めることに使用します。戦闘少女自身の感知能力はその場に仕掛けられた罠を察知することができますが、先の見通せない罠の場合はこのスキルを使用します」

『魔力の消費量が少々多めですが、確実に攻略するため、ポータルごとに発動してもらうことになるでしょう』



 ――【 探査完了 】


《 司令官! このワープポータルは正常です! 》



「わかった。では、第五地点に進んでくれ」



《 はい! 司令官! 》



***

[第一地点からいきなり第五地点?]

[右回りに数字をつけてるだけってことか]

[そのほうがわかりやすいもんな]

[次のポータルに魔物が出待ちしてないかな]

***



 ワープポータルは空間の狭間に足を踏み入れることで次のポータルに移動する。ポータルから出る際にアリシアが感知を働かせ、魔物がいないか確認してから移動した。



 ――【 索敵開始 】



「さあ、第五地点の索敵となりました。第五地点はダンジョンの入り口から最も遠いため、アンデッド系の魔物が出現するそうですね?」

『はい。現在地点がわからなくなりダンジョンを抜け出せず息絶えた冒険者の肉体がアンデッドとなって彷徨っていると言われています』

「心霊スポットのような感がありますね。ポータルが罠と化していた場合、現在地点を見失いそうです」



《 索敵完了! 前方に四体! 戦闘開始します! 》



「おっと、過去最多の出現数となりました。しかし戦闘少女たちは怯まない! アリシアの散弾、エーミィのルーンアックスが遠慮なく叩き込まれる! そしてグールを下したモニカが持ち前の瞬発力でマミーに迫る! 目にも留まらぬ速さとはまさにこのこと! 戦闘少女たちの完全勝利です」

『熟練度の高さに惚れ惚れしてしまいますね!』



《 戦闘終了、ですね。お疲れ様でした 》



 モニカが誇らしげに微笑む。モニカがいれば通常戦でポニーとリトの出番はないようにすら思えた。



***

[ポニーちゃんとリトちゃんの出る幕なし]

[モニカちゃんの動きに迷いがなくて美しい]

[さすモニ]

***



「ポニー、探査を頼む」



《 かしこまりました! 》


 ――【 探査開始 】



 第五地点は第二地点に繋がっている。現在、ワープポータルはひとつしかない。まだ罠が出現することはないようだ。


「さて、今回の作戦は探査、索敵、戦闘の繰り返しとなります。いままでのダンジョンと比べて魔力の消費が多くなりますが、戦闘少女の魔力保有量はいかがでしょう」

『充分に余力を残せるでしょう。ワープポータルの罠は破壊する必要がありません。余計な労力をかけることはないと思われます』



《 探査完了しました。司令官、このポータルは破壊された形跡があります 》



 窺いつつも確信を持った様子で言うポニーに、星とレディは思わず顔を見合わせた。


「破壊された形跡? 正常じゃないってことか?」



《 はい。中に入ってめちゃくちゃに暴れた……みたいな感じですね。たぶん、第二地点には繋がっていないと思います 》



「そうか……。だが、その辺に他のポータルはないよな?」



《 ないと思いますが……。アリシアのマナ感知で探してみるのはいかがでしょうか 》



「アリシア、どうだ?」



《 お任せください! ただ、別のポータルを見つけた場合、またポニーに探査してもらう必要がありますが…… 》

《 平気です! どんどん任せてください! 》



「わかった。少し待っていてくれ。レディさん、ステータスボードを見せてください」

『はい。どうぞ』


 レディの液晶で五人のステータスを確認する。戦闘少女という特性上、五人とも魔力値は高く、スキルを多く使用したとしても余力を残せるだろう。ただ、主戦を考えると、ある程度は確保しておきたい。



***

[誰が破壊したんや?]

[自我のある魔物がやったってこと?]

[なんのために?]

[主のところに行けないようにするためじゃ?]

[魔物だとしたら知能指数が高すぎん?]

***



「レディさんはどう思われますか?」

『魔力の消費量が多くなりますが、アリシアちゃんにポーションを持たせてありますから、安全に進むために積極的にスキルを使用するべきでしょう』

「わかりました。アリシア、別のポータルを探してみてくれ」



《 はい! 司令官! 》



 アリシアは手のひらを周囲の空間にかざしたあと、集中力を湛えた表情で辺りの探査を始める。

 星はマイクのスイッチを切った。


「さて、ワープポータルの破壊となりました。これは想定外と言わざるを得ないですね」

『はい。主への道を閉ざすための行動だとすると、魔物にそこまでの知性があることは未知の領域です』

「主自身が破壊した可能性はあるのでしょうか」

『可能性としてはそちらのほうが高いでしょう。エルナルラはこの地に根付く老木ですから、そういった術を身に付けていてもおかしくないかもしれませんね』



***

[自己防衛でポータルを破壊したのか]

[他にポータルがなかったら主のところに行けないのかな]

[主が倒されへんかったらどうなるんやろ]

[地続きで行けるわけでもなさそうだしなー]

***



「さて、アリシアちゃんの探査を待ちましょう。もし他のポータルが見つからなかった場合、どう対処したらいいでしょうか」

『ワープポータル無しに主のもとへ辿り着く方法があるかは、情けないことに把握しておりません。ワープポータルが狂い情報通りの地点へ移動できない可能性は考えておりましたが、ワープポータルの破壊は想定外ですね』

「はい。他のワープポータルを発見できなかった場合、無念ですが撤退せざるを得ないようですね」

『戦闘少女たちの安全のために、それが最善でしょう』

「今回、ワープポータルが正常に機能していなかった場合を想定して、帰還用の魔道具を用意してあります。基地にワープするアイテムですね。正直、消費する素材がえげつないので使用頻度は上げたくないのですが、戦闘少女たちが帰還できない事態は避けたいですね」

『はい。無事に帰還してこそのダンジョン攻略です。そのための素材は惜しむべきではないでしょう』



***

[よかったーちゃんと帰還できる方法はあるんやね]

[ワープポータルが使えなかったら動けないもんな]

[それが心配だった]

[素材は消耗品だからな]

***






 ――後編へ続く




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る