第3話 ジャジャ馬

 6番機のSユニットを、わたしのパーソナルデータに書き換えるのに1日。それに合わせて6番機を調整するのに約1週間要する。

 その間に、フレイヤ様の動きのクセを知るため生身で剣の模擬戦を行った。

 想像以上に強い!華奢な身体に合わせてか、重い剣ではなく打刀うちがたなをカウンター気味に繰り出す。少なくとも模擬刀での戦いでは、わたしは勝てなかった。

 この動きの96パーセントを重甲機兵で実現できるなら、実戦でも十分戦えるのでは?

 ・・・その予測は、数日後にあっさりと打ち砕かれる。



 6番機の調整を完了し、わたしがSユニットに搭乗して初めての模擬戦。相手をしてくれたのは、手の空いているカイザー部隊のB級機体2機。

 B級と言えど同じジークフリード型の機体なので、基本性能はほぼ同じ。しかし、A級に比べれば出力は3分の1しかない。その出力不足を補うために大型の大容量バッテリーを搭載しているため、その重さの分だけ機動性が低下する。

 まあ・・・扱いは酷ではあるが、量産機の性質上、和合率を強制的に補正する反動でA級機体より運動の追従性も低下する。

 1対1の対決なら6番機は圧勝。しかし、1対2となるとB級2機の連携に見事なまでに翻弄されてしまった。


「剣を引いて!左後方に注意して!」


「駄目よ!踏み込みきれないから!」


「ごめんなさい!コケちゃった!」


 背面の大型推進装置スラスターは、かなりピーキーだ。わたし自身が、6番機に慣れるに少し時間が必要だと思う。更に・・・。


「チョコマカとウザいんだよ!」


「逃げるな!卑怯者!」


「これで決めてやる!」


 華奢な少女のような外見と裏腹に、その中身は6番機以上のジャジャ馬だ。

 猪突猛進。ターゲットを定めたら、その敵のみに斬り込んで行く。複数機が連携していてもお構いなし、ターゲット以外の敵機の存在を無視して一直線に突き進む。

 破壊力の低い模擬刀だからいいが、これが実戦だったらだけ撃破されてたはず。

 6番機の方は慣れれば制御できる自信はある。しかし、このジャジャ馬を御せるのか?



 翌朝。

 わたしは、フレイヤ様の部屋のベッドに裸で横たわっていた。背中に感じる視線は、フレイヤ様のものだ。恐る恐る背後に目をやると、窓から差し込む朝日を背にして、上半身を起こしたフレイヤ様が、やはり裸でそこにいた。

 朝日が金髪に反射されるさまは、まるで後光の中にあるように神々こうごうしい。そして、わたしを見下ろすアクアマリンの双眸そうぼう


 ・・・昨夜・・・何があったっけ?


 初めて6番機で行った模擬戦。その反省会みたいなつもりでフレイヤ様の部屋に招かれて二人で食をした。


 ・・・フレイヤ様の猪突猛進な決闘スタイル。


 ・・・戦場へ出たら即戦死。


 ・・・6番機よりジャジャ馬。


 ワインで気分が良くなり口が軽くなってた。途中から意識はモーローとして・・・。


「クックックッ・・・」


 わたしの視線に気付いたフレイヤ様は、込み上げる笑いを押し殺しながらニッコリと微笑んだ。


「オルガは素直でかわいいなあ」


 フレイヤ様の視線と声に、顔が熱くなって慌てて視線を逸らした。

 わたしは、25歳までに一通りの経験はしてきたつもりの女だ。それが何で19歳の小娘に「かわいい」なんて言われて、あしらわれてるんだ?



 それ以来フレイヤ様は、姉に甘える妹みたいにわたしに懐いてくれた。フレイヤ様が遠慮なく言いたいことを言ってくるおかげで、わたしもフレイヤ様に対してわりと遠慮せずに諫言かんげんできるようになった。

 お互いに敬語で話すこともなくなった。

 いろいろな意味で、わたしとフレイヤ様の距離は縮まったとは思う。

 しかし・・・。

 朝日を背にして、わたしを見下ろしながら微笑んだフレイヤ様は本当に美しかったと思う。まるで天使のような笑顔だったはずなのに・・・アクアマリンの双眸そうぼうは冷たく、全く笑っていなかった。

 例えるなら・・・カエルを見る蛇の目?

 わたしは、何かの刻印を魂に刻まれてしまったような気がする。

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