第2話 傭兵機団の姫

 ジークフリード型A級重甲機兵の6番機。

 かつて、ラインゴルド傭兵機団の準エースとして活躍した機体。現領主夫人エリス様の乗機だったもの。戦闘力なら傭兵機団のみならず全地表の重甲機兵中でも指折りの上位に入るだろう。

 その、由緒正しい6番機を見上げながら、わたしは複雑な思いにさいなまれていた。


 いや、6番機に罪はない。ハードウェアとしての6番機は絶品だ。バックパックに大出力の大型推進装置スラスターを装備し、各部の姿勢制御用推進装置スラスターを全撤去。画期的な軽量化を実現した。

 大型推進装置スラスターによる姿勢制御が難しいが、ズバ抜けた機動性を実現する。


「おお!オルガ、来たのか」


 クセのない金髪、アクアマリンのような透明な碧眼。19歳のわりに少し幼い印象の少女が6番機のコクピットから、わたしの名を呼んだ。

 ラインゴルド領主の長女フレイヤ様だ。


 重甲機兵は、操縦者パイロットの神経組織と同調させて動かす。そのため機体と人体との相性が生じ、この相性を数値化したものを和合率わごうりつと呼ぶ。

 量産機であるB級機体は和合率の影響を受け難く造られているが、オーダーメイド的に造られたA級機体は和合率の影響をモロに受ける。特に運動を制御するCユニットは90パーセント以上の和合率が必要とされる。

 フレイヤ様と6番機の和合率は96パーセント。和合率が95パーセントを超えるのは滅多にないはずなのに。


「オルガ。これから、よろしく頼む」


 コクピットから降りてきたフレイヤ様は、握手を求めて右手を差し出した。わたしはその右手を握り返して「こちらこそ」と言うのが精一杯だった。

 わたしは正式に6番機のSVスーパーバイザーになった。6番機のSVになると言うことは、フレイヤ様の「御守おもり役」になると言うこと。

 ラインゴルド傭兵機団で、一番の貧乏クジと言われてるお仕事だ・・・。



 傭兵部隊の祝勝会兼わたしの歓送会を、カイザーの自宅で催してくれた。

 歓送会ねえ・・・。


「2ヶ月後には、また歓迎会だろうな」


「2ヶ月後か?1ヶ月持たないと思うぞ」


「1ヶ月以内で、フレイヤ様から追い出されるのに5万G賭けよう」


 ・・・お前らなあ。


「何で、みんなは知ってたのよ?わたしがフレイヤ様の御守おもり役になるのを・・・」


「知ってた訳じゃあないけどな、予想はついたよ」


 カイザーと他の兵士は顔を見合わせて笑う。

 本国の家族や恋人からのメールの近況報告に「フレイヤ様が、また癇癪かんしゃくを起こしてSVをクビにした」とあったと言う。


「6番機に新しいSVを探しているはずだ。それと緊急帰国命令が重なったんだ」


「そうそう」


「あの姫様は、わかりやすいからな」


 本国に家族のいないわたしだけが予測できなかった訳?

 カイザーとB級機体のパイロット達のさかなにされて祝勝会兼歓送会は盛り上がった。

 一頻ひとしきりアルコールが回った頃には、遠慮して口にしなかった言葉もチラチラ。わたしは眠気に襲われて意識の方がウトウトだった。


「オルガの代わりのSVは、どうするんですか?」


「当面、派遣の要請はないらしい。オルガが、6番機をクビになるのを待っていてもいいだろう」


「フレイヤ様の癇癪かんしゃくのサイクルが短くなってますからね」


「焦っておいでなのだろう。兄上であるフレイ様が華々しく戦果をあげておられるから」


 そう言えば・・・フレイヤ様より5歳上の兄フレイ様が御活躍だと聞いたっけ。フレイ様の初陣が18歳だったはずだから、19歳で未だに実戦経験のないフレイヤ様が焦るのも無理はないか。


「フレイヤ様の初陣には、領主夫人エリス様が承諾しないとか?」


「領主様も兄のフレイ様も反対してる。このまま戦場に出せば、初陣で戦死される可能性が高いとの判断だ」


 血縁者みんなからハブられてるのか?それはそれで可哀想な気もする。


「優秀なSVさえいれば・・・と言う思いが空回りしてるのだろうな」


 優秀なSVさえいれば?それなら、わたしがいれば解決じゃないか・・・。


「そう言えば、帝国の日嗣皇子ひつぎのみこが・・・」


 そろそろ眠気との戦いに限界がきたようだ。ここでわたしの意識はなくなった。

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