第41話 雪降夜に想う影…
「手ぶらってのもなんだわね…どうしようかしら?」
自宅マンションを出て太郎と華恋の新居へ向かう冴子…
珍しく小雪が舞い散る夕方の曇り空を見上げながら、ふと立ち止まり彼女はそんな事を呟く…
そう今日は大晦日だ。
数日前、娘夫婦(仮)から《よかったら年末年始一緒にどうですか?》の誘いに、取りあえずその場では平静を装っていたものの、正直嬉しさを隠し切れなかったのか事務所で一人になった時思わず涙を流していた。
どんな素敵な誘いより魅力的なその言葉…
この間のクリスマスイヴもそうだが、親子で年末年始を過ごすのは何年ぶりだろうか?
去年はアメリカにある事務所を日本に移転して帰国したばかりのタイミングだった。
だから色々な手続きや根回し等でバタバタしてそれどころでは無かった。
そのせいか、今年こそはと思っていた矢先に結婚…
せっかく帰って来ても、もう一緒は無理だと諦めていた。
…冴子は回顧する…
それは華恋が中学生になった頃…
デザイナーとして…
経営者として…
この業界でも世界的に名が知れ渡る様になった彼女は、結果ビジネス等の拠点をアメリカに移すしかない状態になってしまっていた。
当初は華恋も向こうに連れて行こうとしたのだが、頑なにそれを嫌がられ、それ以降アメリカと日本…
お互い離れ離れに暮らす様になったのだ。
勿論華恋に関しては、鬼無里夫妻やBAR雫のマスターの助力があっての別居である。
そしてあれから五年…
向こうでの知名度も上がり、ビジネスの地盤固めやコネクションも出来た事で、兼ねてから華恋が自分に相談していた仕事や夢の後押しの為、拠点を日本に移したのだった。
「優しい旦那見つけたじゃない…華恋♪」
心底彼女は《縁とは不思議なものね》と、そう実感していた。
最初は太郎の事を好ましく思っていなかった。
髪の毛の量も怪しくなってきた結婚出来ない男…
中年でチビで小太り…
気が弱くてお人好し…
仕事も出来そうにない…
もしかしてあの歳で童貞?
もしかして性癖がこじれてるかも!
等々考えていたら不安しかなかった。
そんなパッと見、只の冴えないオッサンの何処にあの華恋が惚れたのか冴子は全く解らなかった。
だが蓋を返せば…
幼馴染である鬼無里涼の部下で…
第一印象とは打って変わって仕事もできるし…
部下や取引先にも慕われ信頼されている…
それに思いやりもあって優しいし…
一見お人好しに見えるが…
ちゃんと一本芯が入っている…
なんたって華恋の事を公私ともに受け入れているし…
想い寄り添い大切にしてくれている…
「ホント男を見る目がなっちゃいないわね…私(笑)」
そう言いながら苦笑する冴子。
まぁ〜海外にいる秀幸の事も含めてのその言葉なのだろう。
最後に彼女は想う…
そして願った…
神様なんて信じちゃいないし、すがろうとも思わないが…
それでも娘夫婦の幸せを…
…それと…
冴子はそんな事を考えながらたまたま目に止まったリカーショップに立ち寄ると、お気に入りの銘柄のバーボンや呑みやすそうな酒類、華恋様のジュース等を購入し二人の所まで配達を依頼するのであった。
…続く…
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