第40話 インスピレーションのその先に…
本日十二月三十日…
窓越しながら朝日指すここ山田宅では…
そこの寝室のベッドでオーバーヒートを起こし、至る所から煙を吐いている
※どうやら実証実験は二日間にも及んだらしい(笑)
「さてと…今日も清々しい朝で良かったな〜」
一人陽の光を浴びながら元気よく背伸びをする太郎。
その姿は何かをやり遂げた充実感で満たされていた。
「じゃ〜仕込むかな♪」
※え〜と…断っておくが子種の事では無い(笑)
そう言いながら彼が冷蔵庫から取り出したもの。
それは…
蕎麦粉に小麦粉、それと冷水だった。
「やっぱり台所が広いといいな〜♪」
余程機嫌が良いのだろう…
太郎は一人そんな事を言いながら鼻歌まじりで準備に取り掛かった。
実は昨日近所の商店街に行って道具や材料関係を一式買い揃えていたのだった。
彼曰く、なんでも以前から手打ち蕎麦やうどんにチャレンジしたかったらしいが、自分だけ用だとやる気スイッチがONにならずそのままお蔵入りしていたそうだ。
「おっと、打ち粉打ち粉…」
太郎がそう言いなから打ち粉を取りに台所へ向かうと、そこへ華恋がさながら負け戦の様なキスマークだらけの身体で寝室から顔を出した。
勿論全裸である(汗)
「タッくんオハヨ〜〜♡」
「おはよう華恋さん…って、せめて上だけでもスエットとか着たらどう?」
「ん〜夕べ〜ケダモノに襲われたからあっちこっち痛くて〜先にシャワーでも浴びてほぐすし…所で何してるん?」
何というか…
敵前逃亡する際の敗者の負け惜しみの様にも聞こえるが…
まぁ〜今回も聞かなかった事にしようと決めた太郎。
「あ〜蕎麦打ちしようと思ってその準備♪」
「え!タッくんってばお蕎麦も打てるん?」
太郎のその言葉に驚いた華恋は全裸のまま彼に近づいてきた。
すると今更感はあるが、それでも華恋の裸体を見て多少目のやり場に困り照れる太郎(笑)
流石におじさんの恥じらう姿は絵にならないのだが、見ていて初々しい♪
「ううん初めて♪実家でさ爺ちゃんが何時も年越し用の蕎麦を打ってたの見てたから見様見真似ってやつ」
「へ〜一夫お爺ちゃま凄〜(驚)」
「何でも結構力がいるから《これは男の仕事だ!》だって、今でも毎年張り切ってやってるらしいよ」
ちなみに最近は《年寄りの冷や水》だと周りから注意されているらしいが(笑)
「それって素敵だし♡ん、これ何?」
そう言いながら全裸でキッチンを覗き込む華恋の目にあるものがとまった。
「それは蕎麦の実♡華恋さん初めて見た?」
「ウン、何気に綺麗じゃ〜ん♪」
それを聞いて珍し気に一粒手に取りし光に当てたり匂いを嗅いだりと、しげしげと観察する華恋…
「それもなんでかこの間送られて来た野菜の差し入れの中に入ってた」
すると…
「………タッくん…」
「ん、どうしたの?」
「ちょっとこれもらってもよい?」
「え…別にいいけど…」
何時になく神妙な面持ちでそう太郎に確認を取る華恋。
『これって…創作モードの時の華恋さんだ』
そのリアクションに覚えがある太郎はそう心の中で呟いた。
そうあの時…
《WORLD・Fashion・Contest》に向けて作品の制作に勤しんでいた時のあのリアクションだ。
華恋は太郎から言質を取ると無言でシャワーを浴びに浴室に行った後、下着も履かずYシャツ一枚で仕事部屋駆け込んでいった。
何時もの彼女なら太郎の蕎麦打ちを間近で見学している筈である。
それすらしない所を見ると余程の事だろうと感じた太郎は、邪魔しない様に黙々と蕎麦を打つのであった。
その日の夜…
「え!蕎麦の実で?」
「そう、それで染めてみたいの♡」
夕食のチキンカレーやポテトサラダ、バジル入りのコンソメスープを食べながら太郎にその事を話す華恋。
「でも…染まる?」
「それが染まるらしいって♡」
「あ〜それを今まで調べてたんだ」
それを聞いて驚くと同時に、日中の彼女のリアクションに合点がいった太郎。
どうやら何かピンと来るものがあった様だ。
「ウン♪只…ママにそっち方面のツテが無いから自力で開拓するん」
「だからその時は実家の蕎麦の実が欲しいと?」
「そう、色々調べたけどタッくんの実家で作る蕎麦の実が一番綺麗だったし、実際一定量染めるのにどの位の量がいるのかも解んないし…その辺も詳しく専門家に話を聞きたいん」
「ん〜実家の方もどれだけ収穫しているのか自分も知らないからな〜」
「長期戦はモチだもん、ニ〜三年である程度の目途とか付けば良い方だと思うし、それに継続的にって訳じゃないし…失敗する可能性もあるし…」
そこまで言って少し声のトーンが小さくなる華恋…
でもそれはそうだろう…
まだ二十歳にも満たなければ、それこそこの業界で…
いや社会人として重ねた経験が圧倒的に少ない…
だから自信が揺らぐのも仕方ない事だ。
すると…
「…よし、じゃ〜来月か再来月にでも休みを合わせて一緒にその染め物をしている方に会いに行こうか?」
そんな彼女をフォローするかの様に笑顔でそう提案をする太郎。
「え、いいの?◯☓県だよ、ここからかなり遠いし」
「大丈夫♪そこの県ならイベント関係で出張した事あるし、新幹線使って確か…片道三時間位だったかな?前日最終で現地入りしたらゆっくり相手の方とも話せるんじゃない?」
その提案に驚き不安がる華恋を笑顔ままで一蹴する太郎。
その辺は色んな意味で流石である。
「でもタッくん…せっかくの休みじゃん…」
「だからだよ(笑)実は今期三月までの有給が後十日程残っててね、事務方から《今年こそはちゃんと消化して下さい》って釘を刺されてるからさ、それに結婚関連は冠婚葬祭だから有給消化に含まれないからどう消化しようか考えてたし」
「…な〜んかタッくんの会社…何気に福利厚生最強だよね…マジ悔しいんですけど」
それを聞いて細やかな抗議の声を小さく上げた(笑)
「猫丸社長だしね(笑)」
それは納得である。
日本有数のホワイト企業は伊達じゃないらしい。
「じゃ〜休み明けたら直ぐにアポイントとってみるし♡」
「ウン、頑張って♡応援してるから♪」
「タッくんありがとう〜大好きだし〜♡♡♡」
二人はお互いそう示し合わせた。
その後…
ちょっとカレーの香りがする華恋のKissの洗礼を顔一杯に受ける太郎なのであった。
…続く…
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