第26話 一文字茅野は考察する

【一文字中華飯店】


少々年季が入った四階建てのビルの一階の中華店…

ここは外食業界でその名も知られた㈱一文字グループの起源となる本店であり、現在茅野の兄が三代目として引き継いだ本店でもあった。

そして《カーノ》こと一文字茅野の家族は今でも初心を忘れない様にと、このビルの二階を改装してここに全員住んでいた。

その気になれば豪邸の一つでも建てられる位の収益を挙げているにも関わらずだ。


質実剛健を絵に描いた様な家族…

自分が親達と同じ仕事を選ばず、ファッション業界を選んだ事を心の底から喜んでくれた…

茅野はそんな気質の親や兄姉が大好きだった。

 

そんな彼女が《WORLD・Fashion・Contest》が終わったその日の夜…

仕事が終わった家族が何時もの様にちょっと遅めの夕食を始める為リビングに集まった時、茅野は今回のコンテストで入賞した事を報告した。

「お〜〜!四位って入賞したんだ♡」

風呂上がりの父親は、その報告を聞いて小さい子供を高い高いする様に両手で茅野を抱えあげると嬉しそうに振り回した。

「ウン♪五位までが入賞だからさ〜嬉しくて舞い上がっちゃったよ♡」

身長が165cmある茅野だが、ボディビルダーの様な筋肉質の父親の前では縫いぐるみの様な扱いを受けている。

「凄いな〜そのコンテストって一発勝負一度しか参加できないんだろ?それで入賞したんだから偉いぜ♪」

「あ〜本当!見に行きたかったわ〜」

先に食卓についた兄と姉はとても残念そうに悔やんでいた。

ただ、二人共できたての唐揚げを口の中に放り込みながらだけど…(笑)

「いいよ日曜は何処もかきいれ時じゃん、無理すんなって♪」

そんな家族のセリフとリアクションを気恥ずかしくも嬉しく感じる茅野…

何時もこんな感じなのだ。

それでもこの感じが堪らなく好きな彼女。


まぁ〜母親だけはそんな姿を見る度に娘の結婚が遠のくだろうと危惧しているのだが…

実際、茅野から気になる男が出来たとかの話をついぞ聞いた事が無いし、何かにつけて華恋達とつるんでいる姿を見るにつけ…

『もしかして同性が恋愛対象かしら?』

と本気で思っていた時期もあった。

でもそれはそれで反対する気等サラサラない。

後に何気に本人に尋ねてみると…

「近づいて来る男は皆つまんないヤローばっかでいい加減うんざりしてるし〜今はいらないかな」

と、あっけらかんに答えが帰ってきていた。


「でも麻音ちゃんが二位で華恋ちゃん三位、凛夜ちゃん五位だったんでしょ?」

「まぁ〜流石に一位はレベチで皆息を飲んだけどさ、二位から五位まではうちの《HANAKO》が独占したからさ、そりゃ〜圧巻だったよ♡」

悔しくもあり嬉しくもあり…

おそらく今の茅野の気持ちはそうなんだろう。

何故ならそんな複雑な表情を一瞬浮かべていたから…


華恋同様料理が苦手で、できるレパートリーも本当にたかが知れていた茅野。

だからなのか飲食店の娘なのにという葛藤と、どう足掻いても親兄姉の様な才能を欠片も感じられないジレンマで、彼女は中学の頃から悩んでいたのである。

そんな茅野に…

「カーノのデザイン画カッコいい〜♡」

高校の時、被服科の授業で描いた彼女のデザイン画を見た華恋が、惚れ惚れとした感じでそう感想を言ってくれたのだ。

そして二年の時…

「将来さ〜皆のブランドを世界に広めようよ〜」

そんな突拍子もない夢に自分を誘ってくれた華恋…

自分には料理じゃない別の才能があると…

しかもそれで世界をターゲットにできる…

そう気付かせて、背中を押してもらえた…

そして今回負けた事は確かに悔しいが、それが現実味を帯びていると思わせるだけの結果を出せた。


「茅野、これからも慢心せずに精進するのよ」

「勿論さ♪あんなスゲー作品見せつけられたんだから燃えるっしょ!」

それにそう言って周りとは別の道を歩く自分を叱咤激励し支えてくれる家族もいる。

「おうよ、それでこそ一文字家の人間だ♪これからも応援するからな♡」

嘘偽りのないその気持ちに心から答えたいとそう思う茅野。


所で…

「あ、そう言えば…華恋ちゃんの結婚式何時なのか決まってるの?」

姉のそのセリフに、いきなり違う話題に方向が切り変わってしまった一文字家(笑)

まぁ〜それ自体何時もの事なのだが…

「これからだってさ♪ただもう相手とは一緒には暮らしてるけどね〜」

そこなのだ。

そんな夢を持つ華恋が、卒業早々結婚を選んだ事が不思議でならなかった。

勿論彼女が夢を諦めていないのは解る。

それは今回のコンテストでお披露目した作品を見ても解り過ぎる位解った。

だからこそ家庭との両立が出来るのか、その辺が正直疑問なのである。

しかも相手があの山田太郎…

一緒に並んで立つ姿は、どう贔屓目ひいきめに見ても釣り合いが取れて無い。

要は見た目の釣り合いが不釣り合いなのだ。

心無い者から見れば、下手すればパパ活カップルか援交カップルにしか見えないだろう…


でもまぁ〜身なりは確かに清潔感があるし、優しそうには見える…

それにそれなりの稼ぎはしている様だが…


メタボ気味でチビだ…

髪もそろそろ養毛剤のお世話になりそうだし…

女子のエスコートも下手そうにしか見えない…

あっちの方だって果たして華恋を満足させられるか…


それと…

普通に考えて確実に華恋を残して先に死ぬだろう…


茅野はそんな色々な想いを二人の姿を見る度に心の中で巡らせていた。

そんな時である。

父親が茅野を抱き降ろしながらふとある事を呟いた。

「そうだ茅野、華恋ちゃんの相手ってあの猫丸産業の山田太郎さんなんだって?よく落とせたな〜」

それは意外な言葉だった。

それに茅野にとって意外過ぎる父親の反応でもあった。

「え、父ちゃん知ってるの?」

「おうさ、知ってるもなにもな…かなりのやり手で身持ちも固くてスキの無い奴だって業界じゃ有名だぜ」

「そうなん?とてもそう見えないけどさ…」

彼女にとって本当に意外過ぎる話である。

太郎の仕事ぶりに関しては何も知らない茅野は、その父親の話に驚きを隠せないでいた。

だって彼女が知る太郎の姿は、そんな感じを微塵も感じさせないからだ。

それを聞いて…

華恋しか知らない…

華恋にしか見せない…

そんな顔と言うか一面があるのだと…

それが二人を結びつけているのかも思った茅野。


そこに…

「あら、茅野もまだまだ男を見る目が無いみたいね〜(笑)」

不用意にマウントをとるかの如く口を挟む姉(汗)

なのだが…

「ネェちゃん程じゃないよ」

「何よそれ!」

「……ネェちゃん、また別れたんだろ?」

「ウ!!」

「アンタ!また続かなかったの?」

敢え無く玉砕した様だ(笑)

「だって…男のくせに何かあれば二言目には《ママ〜ママ〜》だよ〜背筋が寒くなっておもわず殴っちゃったよ(笑)」

慌てて言い訳をし始めた姉のその不憫なリアクションを見て…


「「「そりゃ〜お気の毒に(汗)」」」

ちなみにそれは誰に向かってのセリフだろうか?

姉?orそのマザコン男?

甚だ疑問が残る…

そんな空気が食卓に流れる一文字家なのだった(笑)



…続く…


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