第25話 北郷凛夜は巡らせる

「あのハナっちが結婚か〜」

長い髪をタオルで覆い隠し、湯船に浸かるFカップの美女一人…


《WORLD・Fashion・Contest》が終わった後、冴子に自宅まで送ってもらった《オリン》こと北郷凛夜は、夕飯の用意をしながら共稼ぎの両親の帰宅を待った。

そして帰宅後、コンテストで五位入賞だった事を報告し、その後そのまま先に風呂に入っていたのだ。

そんな彼女は…

湯船に浸かりながらあの話を思い出していた。


コンテストが始まる前…

太郎と華恋から正式に結婚の報告を受けた。

それを聞いた《凛夜・茅野・麻音》の三人は、あまりにも一足飛びな二人の関係の進展具合に、正直驚きを隠せなかった。

確かに二人がちゃんと付き合い始めただろう事は、三人共何となく感じていた。

だから行きの車内であの華恋が新たまって何か自分らに報告したい事があると言った時も、きっとその事だろうと思った。


しかし結婚である。

それを聞いて驚かない訳が無い。


そんな華恋とは他の二人同様、幼稚園の頃からの腐れ縁である。

しかも何だかんだいって結果、高校どころか職場まで一緒だ。

只、周りの心無い同級生達からは…

「連れの親達が有名人やお偉方ばかりだから都合がいいんでしょ(笑)」

とか…

「あの連中にならマウント取れるからよ(笑)」

や…

「やっぱりコネ就職じゃん(笑)」

等と陰口を叩かれていたし、それは他の三人にもきちんと耳に入っていた。


確かに…

華恋の所は女手一つで彼女を育てながら、自分ブランドショップやアパレル会社を起ち上げたばかりか、デザイナーとしても世界にその名を響かせている。


茅野の所は親兄姉総て外食産業に携わっており、その手の業界内ではやり手として有名だった。


麻音の所は夫婦共に大学病院に勤務する医者として活躍しており、日々多忙な毎日を送っている。


しかし当の自分の所はというと、父親はしがない某高校の教師、母親は某大学の助教授…

今日だって父は中間テストの作成で休日出勤、母は何とかっていう細菌の研究が大詰めを迎えている為、一昨日から学内に泊まり込みである。


だが自分自身、両親の仕事に対して他の皆の親と比べた事も無いし、卑屈になったり劣等感を感じた事はない。

ましてや華恋達と群れている事で、何かあった時彼女達の両親に媚を売って上手く利用しようなんてこれっぽっちも考えた事はなかった。

むしろ頑張って仕事に向かう両親の姿に誇りに思っており、そんな二人にゲスな生き方をさらしたくは無いと思っていた。

だから頑張った。

勉強もスポーツも…

結果、見た目は華恋達とつるむ事で、派手で遊んでそうに見えていたのだが、学年首位で無事高校を卒業する事が出来た。

今の仕事も本来大学や短大等に進学しないかと両親に言われたが、経済的な負担をかけたくないのと、華恋達と切磋琢磨しながら、今度は自分がやった事が無いジャンルにチャレンジしたい気持ちからだった。


と、言えば聞こえが良いのだが…

本音はただ単に、姉妹の様に育ってきた華恋達と離れたく無いのと、この世界(ファッション業界)に興味があったからなのである。


それと…

「凛夜や茅野や麻音と四人でお店するの夢だし〜♡」

そんな華恋の言葉が嬉しくてたまらなかったというのが本音だったりする。

でも…

「やっぱり悔しいな〜」

今までの華恋は色んな男と付き合ったり関係を持ったとしても、何だかんだいって長続きしなかった。

何故なら彼女の中の優先が《自分らとの関係》→《プロのデザイナーなる》→《異性との付き合い》の順だったからだ。

ところが太郎という、いきなり現れた冴えない中年オヤジがその不動の順番を変えてしまったのだ。

当初はどうせ何時もみたいに長続きしないだろうと、タカをくくっていた。

それは茅野や麻音もそう思っていたらしい。

しかし…蓋を開ければ結婚である。

しかも高校を卒業して間もなくだ…

それでも華恋は浮かれる事も無くコンテストでは三位の成績を収めていた。

そしてその結果に満足せず悔しがっていた。

ただ…

彼女がその悔し涙を見せるのは私達じゃ無かった…


その事が目に見えないトゲとなって自分の胸に刺さっているのが解る。

だから悔しいのだ。


『でも……』

これは運命…

これが運命…

これも運命…


今は無理矢理でもいい…

華恋と私達…

皆との関係と距離が少しだけ変わっただけ…

だから受入れ祝福しよう。

姉妹の様な幼馴染の幸せを…


「うん♫♫」

凛夜はそう自分の中に落とし込んで湯船から上がると、リビングで待つ両親の下に向い、何時もの様にデザートをせがむのだった。



…続く…







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