第24話 内覧当日の来訪者

そして内覧当日…

案の定〜

「タッくんこっちこっち、ほら一緒に見るし〜♡」

速攻で機嫌が直っている華恋(笑)


それはそうだろう〜

以前住んでいたオーナー夫婦が大事に使っていたと思わせる室内は、10年前の大々的な外装リフォームの他に、退居後はキチンと室内もリフォームしたとはいえ、とても築20年経っているとは思わせない程綺麗だった。

それにとにかく総てが広い!

ルーフバルコニー&ウッドデッキバルコニー付5LDK

のその間取りも、六畳程の洋室三部屋と畳部屋一室、七畳のロフト付洋室一部屋に二十畳以上あるリビング&ダイニングキッチンルームだ。


全室ウォークインクローゼットに屋根裏部屋に繋がる収納式階段がある吊り戸棚室、リネン庫や備蓄庫は勿論、アルコーブも玄関以外に三箇所あった。

オープンキッチンの後ろには備え付けの巨大なキッチンボード、その横に600L冷蔵庫が2台は設置できるであろうスペースもある。


他にも華恋が気に入りそうなパウダールームは、三面鏡裏収納になっており、洗面ボールもかなり広い。

その横にあるバスルームは脱衣所と隣接して併設されており、そこは洗濯機置き場の他にランドリーパイプもあり、室内干し乾燥もできる様になっていた。

バスルームは浴室暖房乾燥機が付いているので、こちらでも室内干しができるし、浴槽にはオートバスシステムが付いているので、温度設定さえすれば追い焚き機能で何時でも好みの温度で入浴できるようになっている。

そして個室トイレは勿論ウォシュレット一体型で床下冷暖房である。

「へぇ〜思ってた以上に広いね♪」

「でしょでしょ♪ルーフバルコニーって初めてだけど良いね〜♡」

部屋を一通り見た後、華恋に誘われてリビング&ダイニングキッチンにある広い窓からバルコニーへ出た太郎。

そこは周辺を一望できる程広いルーフバルコニーと、七畳の洋室と繋がっているウッドデッキ付きサンルーム…

そして高めの柵の向こう側に見える屋上部分に設置されている大きめの太陽光発電パネルが眼の前に飛び込んできた。


それと…

「あ♪こっちに小さい温室があるし♡」

「あ♪こっちは家庭菜園ができるスペースある〜♡」

以前ここに住んでいたオーナーの趣味なのだろう…

バルコニーの一角には台風対策が施された温室と、水捌け対策も施された菜園専用のスペースが用意されていた。

「何気に台風対策もきっちりしてありますね」

「景色も凄〜〜く良き〜♡」

華恋は子供の様にはしゃぎながらバルコニーを駆け回ったり、そうかと思えば時折立ち止まって何やら配置を考えたりしている様だ。

太郎もバルコニーから室内や外装を眺め、つくづくその良さを実感していた。

セキュリティも四階から専用エレベーターでここまで上がって来るのだが、非常階段も含めどちらも暗証番号入力式のセキュリティロックシステムがかけられて安心できる。


そんな安心感を抱きながらふと横に目線を向けると…

「華恋さん華恋さん、ここからなら夏の花火はバッチリ見えますよ」

「え、マジ♡」

「ハイ、ほら方角からするとこっちになるから…」

「あ〜〜河川敷丸見えじゃん♪ラッキー♡」

そう…

ここから花火大会がある河川敷までの間に邪魔になるような遮蔽物も建物も無いからか、水面に映る煌めきさえもよく見えるのだ。

「今年は仕事とコンテストが重なって音だけしか楽しめなかったし、商店街の夏祭りも参加出来なかったけど、秋祭りは楽しもうかね」

「ウンウン♡デリバでジャンクフード頼んで…」

「あ、ピザなら自分が焼いてもいいけど♪」

「お〜!それ有りだし〜♪ここで涼みながら焼きたてピザや肉料理食べて花火を見る…最高じゃん♡♡♡」

流石料理好きの太郎だ、その辺は心得ている♫

「だね♫」


そんな会話を二人で交した後、不意に華恋は気恥ずかしそうにモジモジしながら…

「…タッくんありがとうね…元気でたし、もう復活できた♡」

やっぱり太郎の気遣いに気付いていたらしい。

そんな彼女の肩をポンと叩きながらそろそろ戻ろうかと促す太郎に後ろからついて行く華恋。

すこぶる上機嫌な所を見ると、どうやら100%この物件に移り住む事を決めた様だ。


「そう言えば…お礼なんて水くさいですよ♪自分ら夫婦なんですから♡あ、まだ籍は入れてませんけどね(笑)」

「あ〜そうだし〜(笑)」

そして笑いながら専用エレベーターから降り、そんな話をしながら自宅の前まで近づいた頃である。

「なにアンタまだ籍入れとらんな!なんしょるやホントに!そのお嬢さんに逃げられたらもう一生結婚なんかできんのやぞ!!」

「?」

「いつ来たん…」

華恋には聞き慣れない声だが、太郎にとってはイヤでも聞き覚えがあるそのイントネーションと怒声…

ご存知太郎の母美代子と、その後には照れくさそうに笑顔を振りまく父一郎の姿があった。

「今朝着いたぎに♪ほら一郎さんも照れとらんで顔出しいやさ」

「よ、よう」


なんというか…

太郎はこの夫婦の立ち位置になつかしさを感じながら取り敢えず玄関のドアを開け、中に入ってもらうことにした。

すると入ってそうそう、早速室内を見渡すと…

「ほ〜アンタにしては綺麗にしとるやん♪子供の頃とは大違いやの〜」

だそうだ…

どうやら彼の掃除嫌いは自他ともに認める所らしい(笑)

「そこは華恋さんが世話をやいてくれとるけん…それよりも改めて紹介するけど、彼女が結婚相手の若菜華恋さん」

お茶を三人に出しながらテーブルを挟んで両親の向かい側に座る二人。

そして改めて華恋を両親に紹介する太郎。


すると紹介された途端いきなり立ち上がり深々と両親に頭を下げる華恋。

その姿はビットが極端に少ないゲームキャラの様にガチガチで真四角な上に、バリバリ緊張しているのが手に取るように解る(笑)

「ハジメマシテ、ワ、若菜華恋デス!ヨ、ヨロシクじゃなくて、フツツカモノョデスガ、ヨロシクオネガイイタシマシュ(痛)」

ほら…

舌噛んじゃった(汗)

「だ、大丈夫?」

「………(涙)」

全然大丈夫じゃ無いらしい…

両手で口を抑えながら涙目になっている(汗)


気を取り直して…

「それじゃ…え〜と、父の一郎と母の美代子です」

「華恋さん華恋さん、そんな舌を噛むような挨拶は抜きにしてもっと楽に話しましょ♡」

「ふぁ、ふぁい…(痛)」

笑顔の奥に笑いをこらえる母美代子。

ちなみに父一郎は、リアクションに困り目線をそむけていた。

「それよりも太郎、なんで私と一郎さんがわざわざこっちに出向いたか解っとるやろね」

「オカンが短気だからのと、いい加減シビレを切らしたのと、久しぶりにオトンとデートしたいから」

マジなのだろうか?

特に最後の文言は…

「ムカつく位よう解っとるやん、アンタ昔っからそうやもんね」

あ、どうやら当たっているらしい(笑)

何故なら太郎からそう指摘された美代子は顔を真赤にして文句を言っているからだ。


「まぁ〜太郎、一番はお前の嫁さんになる女性の顔を早く見たかったからってのが理由だけどな」

流石父親だ。

ここで絶妙なタイミングでフォローを入れてきた。


「だからね華恋さん、私達家族全員貴女と太郎の結婚は反対していません♪むしろ大歓迎です、ただね…」

「ホントに太郎こんなん貰ってくれるん?」

「え?」

「根がこんなんだから変なとこが不器用だよ〜それに基本ネガティブだし、チビで中年太りしてるし(笑)」

「余計なお世話やん(怒)」

親だからこそ言えるこのぶっ込んだ指摘(汗)

これが会社だったらセクハラ?パワハラ?

何にしても訴えられるレベルではないだろうか?

「でも…ウチはタッく…太郎さんがいいし♡」

それは華恋の本音…

ハタからみてもそう解る位真顔でそう断言するその姿は清々しささえ感じられた。

その言葉を聞いた美代子は、安堵した様な微笑みを彼女に向けながら、今度は太郎に矛先を向けて釘を打つようにキッパリと言い放った。

「え〜娘さんやね〜♪太郎、甲斐性みせないかんけんね!それと浮気なんぞしたらナタで落とすからそのつもりしとき」

…何処を…

『『怖〜〜〜(汗)』』

あ、二人は解ったみたいに冷や汗をかいている。


それから何だかんだと一時間程経って…

「それじゃ太郎、何かこっちで手伝って欲しい事があったら言わやんよ」

「それとな結婚前に華恋さんと一緒に顔をだせよ、皆も会いたがってるしな♪」

「解ってる、その辺はちゃんとするきに」

「じゃ〜華恋さん…こんな愚息やけど、精一杯育ててきたひとり息子やけん、どうぞ末永く添い遂げてくれなんせ」

「ハイな!こ、こちらこそ!こんな、こ、子供みたいな嫁ですが、よ、よろしくお願いしますですし♪」

「うん♡じゃ〜またな〜二人共♪」

エントランスまで見送りに来た太郎と華恋に深々と頭を下げる美代子…

おそらくそれは大部分は彼女に向かっての事だろう。

それが解る華恋もまた、噛みながら深々と頭を下げて挨拶を返した。


「大丈夫…華恋さん…」

「あ〜〜!き、緊張したし〜〜ビビったし〜〜(汗)」

「安心していいよ、自分も冴子さんから呼び出された時は同じ気持ちだったから(笑)」

「ハハハハ〜♫」

「アハハハ〜♫」

一郎と美代子の背が見えなくなるまで見送りながら、万事上手くいった事に胸を撫で下ろす華恋と、疲れた顔で溜息を一つつきながら背伸びする太郎。

この後、二人で不動産屋に鍵を返しに行くついでにそのまま契約書交すのだった。


ちなみに余談なのだが…

「一郎さん一郎さん♡早く映画見に行こう〜♪」

「ハイハイ♪」

あの後繁華街にくり出し外食を済ませたこちらの夫婦は、二人仲睦まじく腕を組みながら、そのまま夜の街へと消えていったのてあった…



…続く…





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