三章 罪狩り

“罪狩り”/“罪競い”

「[巨刃織]メンバーは、大宮を頭に据えた7人で構成されている」

「というか、それ以上のメンバーで攻め込んできたケースがなかったんだよね。酔闇が所属してるってのは知らなかったけど」

「いや、雇われているだけだろう。身内には優しい盟団だ、仇を取り返しに来た可能性が極めて高い」

「えー…と、つまり面倒くさい連中ってことでいいですか?」

「雑だねー。まぁ合ってるし良いか。大宮はよくわからん事情で理不尽にキレてくるモンスターペアレントみたいな人間だし、その下に付いてるのもヒステリー持ちのクソガキだし」

 非常に口悪くまくしたてる血走。

「とりあえず私の刃術で無力化したうえで、ここの隅に置いておく。時が来れば感情を奴らに戻すこともあるだろう」

 赤亡はふと疑問に考える。なぜ[赤連]が自分を含め3人しかいないのか、こんな襲撃が何度も起きるなら、なぜ仲間を増やして備えないのか。

「…なにか言いたげな顔だな。[赤連]所属の人数が少ない理由を聞きたいのか?」

「なんで分かったんですか!?」

「あんねー、赤亡。団長は特殊技能が多いんだよ。これくらいで驚いてたらもたないよ?」

 血走が恐ろしい発言をする。

「特殊技能なのだろうか…まぁいい、聞きたいのは違う話だろう?」

「はい。さっきの人達ならともかく、もっと強いのが襲撃してきた時、果たして二人だけで守り切れるのかなって」

「…説明する前に、まずは刃血鬼の分類について知ったほうが良いだろう」

「分類?」

 赤亡は首を傾げる。

「刃血鬼は主に二種類に分けられる。盟団を作り、他者を蹴落とし争う“罪競い”。そしてもう片方が、刃血鬼や人間を殺害した者を取り締まる“罪狩り”だ」

「罪…狩り」

「そうだ。例の漫画で言うところの海軍のような物…まぁ、あそこまで闇に包まれている訳じゃないがな」

「ランカーとハンターみたいな感じか…」

 心做の聞き慣れない単語を呟く赤亡。

「何だそれは」

「ドラクーラっていう映画に出てくる組織です。ランカーが敵を蹴落として、ハンターがそれを取り締まるっていう」

「ドラクーラ…よくCMで流れてくるな」

「見る機会が無くて4以降の話知らないんだけど、今のところ全部面白いよ」

「そうか、仲間の内二人が観ているならば私もそうしたほうがいいだろう。金は余ってるし、レンタルでもしてみるか。それにしても…」

 目を輝かせる二人。

「あ、いや、嬉しいのは分かったが…どうも似ている」

「ランカーとハンターが?偶然だと思うけどね」

「十中八九そうだろうがな…では、話を戻そう」

「…罪狩りと罪競いは敵対してるんですか?」

「いや、基本はしてない。事態さえ起きなければ介入はないのだ」

「事態…罪狩りって名前からして、ランカーに当たる刃血鬼たちが、何か罪を犯すと――」

「その通りだ。我々、罪狩りの出番となる」

「…我々?[赤連]そのものが罪狩りってことですか?」

「ああ、言ってなかったか。私達[赤連]は罪狩りの盟団。罪狩り等級上位に属す、最小規模の少数精鋭だ」

 ―――

「なーんてカッコつけてたけどさ。少数精鋭ってより、団長が強すぎるんだよ。私これでも強い方なんだけど」

「言ってましたね、血走でどうにかできる相手なら、自分には取るに足らないって」

「…不意打ちなら殺せたりしないかな」

「早まらないでください!後付けで「相手が強すぎるケースが多い」って言ってましたし!」

「あーもー!否定できないのホントムカつく!」

 彼らが目指しているのは、鬼神府N区支部。罪競い達を標的とする成務票など、刃血鬼関連の様々な事を処理するための場所である。

「話変わりますけと、鬼神府って何なんです?」

「鬼神がいる府よ。人間で言うところの役所に当たるね」

「鬼神って神話とかだと敵ポジションじゃ…」

「人間の世界には人間の神がいるから、こっち側の世界の神が鬼神、って認識でいいと思うよ。ぶっちゃけ、やってることは元の世界と変わんないかな」

 何の気無しに“神”というワードを使う血走。

「え?ちょっと待ってください。人間世界にも神っているんですか?」

「そりゃあ吸血鬼とかいるなら神もいるでしょ。なぁに言ってんの無神論者クン」

「…超常存在が何言っても戯言って訳ですか」

 赤亡は、自分が本当に人間ではなくなった事を再確認し、少しの哀しみを抱いた。

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