決着

(沸血…酔闇も言ってたアレか!)

 沸血。全身の血を沸かせることによって体温を上げ、身体能力から刃術に至るまでを強化する、基本技術にして奥の手。

 強い感情や鍛錬によって習得できるが、デメリットとして使用中は血液がどんどん減るというものがある。

「おい、付近のビルを壊すなよ?」

 心做が警戒する。

「壊さねえよ…!」

 大宮は、更に巨大化し10mにもなった血刃を全力で振りかぶった。そして――

「うらァァァァァァ!!」

 全力で投擲した。

「は?何やって――」

 そして大宮は素早く赤亡に接近し、骨が歪む勢いで左ストレートを炸裂させた。

(…血刃は囮…!)

 仰け反る赤亡。立て続けに、鳩尾へ二撃目を食らう。

(…過ぎた痛みは自らをかえって冷静にしてくれる。考えろ…ここから脱出する方法を…!)

 赤亡の頭に、酔闇との戦いの記憶がよぎる。

 そう、他ならぬ赤亡も、あの時――

「既に習得してたのか…なるほど」

「あァん?何笑って――」

「いや、やっぱり知見は持っておくべきだと思ったんですよ…沸血、こういうことですよね?」

 沸血は、一度感覚をつかめば以降は発動が楽だ。そして、名前は知らずとも、赤亡は先の戦いで沸血を既に会得している。

 赤亡は素早く距離を取り、血刃をさっきよりも格段に速く投擲する。

「がッ…ぁ」

 そして、治さずにいた右手の傷から糸を伸ばし、勢いよく大宮から引き抜く。

「…!?」

 体をバラバラに裂かれるような痛みが、大宮の体に駆け巡る。

 赤亡の血刃は、「血刃と傷を繋げる糸を出す」刃術との相性の問題で、物体から抜けにくくしなければ行動の幅が狭まってしまう。故に、赤亡の血刃には逆針のような構造が備わっている。生物から引き抜こうものなら、更なる出血は免れないのだ。

「ふーっ…疲れるな、これ」

 大宮が倒れ込んだのを確認してから、赤亡沸血を解除した。

「…団長。どうします?」

 心做からの指示を仰ぐ。殺すのはどうかと思ったが、でなければ弱っている敵をみすみす逃がすことになる。

「…下がれ、赤亡」

「え?」

「俗に言う脅迫だ。この出血量では抵抗もできまい。よくやった、休んでおけ」

「うーわ団長、まだ日も浅い刃血鬼初心者の手柄横取りしてるよ、酷いなー」

 軽蔑した目で見る血走を無視し、心做は問い掛けた。

「と、言うわけでだ。貴様が申し込んだ決闘に貴様は負けた。その状態からでは逃げられないだろう?」

「チッ…偉そうに言いやがって…」

「弱者に負けた強者は呑まれるのみだ。貴様らは幾度となく[赤連]に攻め込み、そしてその全てにおいて敗北している。回数は――」

「…え?20回目以降は数えてないよ?しつこ過ぎるんだもん[巨刃織]」

「…だそうだ。最初に攻め込んできたのは2、3年前か?となると、貴様が刃血鬼となったのはおおよそ10年前かと予想する」

「何が…言いてェんだ…」

「貴様は、刃血鬼になって半年も経っていない者に負けたのだ。そろそろ身の程をわきまえたらどうだ?」

「…俺は…負けてねぇ……」

「もう良いよ。団長の刃術でなんとかしといて」

 往生際が悪い大宮に痺れを切らし、血走が本拠地へと戻っていく。

「わかった。赤亡、他の連中を拘束しておいてくれ」

「は、はい!」

「…言い残すことは?ま、場合によっては復活の場合もあるが」

「…この場でてめェを…」

 無言で血刃を突き刺す心做。

「仮死状態だ。死ぬわけじゃない。ただ膨大な“恐怖”を植え付けただけだ」

 赤い恐怖レッドテラー。対象から使用者への“恐怖”を植え付け、極限まで肥大化させる刃術。行き場のなくなった他の感情は、心做の糧となる。

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