第31話 デート前日の夜1

「ど、どどどどうしよう……!」


桜木モモとして、3Dライブを成功させた数日後の夜。

私、寺花美月は頭を抱えて唸り声を上げていた。

ベッドには、無造作に衣服が散乱している。


3Dライブを成功させたご褒美として、明日安野君とデートをすることになっているのだ。

しかし、着ていく服が全く決まらず、部屋が服で溢れかえるほどに散らかってしまい今に至る。


「そもそも、デートって家じゃダメなのかな?」


普段放課後に遊んだりするときは制服なので、服装を気にする必要がない。

プライベートでアウトドアな趣味がない私にとっては、外に出るだけでも気を遣うというのに、異性とのデートなんていきなりハードルが高すぎたのだ。


「私、どうしてあんな事言っちゃったんだろう」


準備が佳境で、疲れていて安野君に甘えたい気持ちがあったとはいえ、デートをしたいなんて言ってしまった当時の自分を殴りたい。

Vtuber関連のことだったり、学校で休まる場所を与えてくれたり、色々と安野君に頼りっきりになっていたからこそ、いざ彼とデートするとなった時に、頼る相手がいないことに改めて気づかされたのである。


きっとこれは、安野君のことを私が異性として意識しているからなのだろう。

安野君に幻滅して欲しくない。

なんなら褒めてもらいたいという気持ちがあるからこそ、こうして悩んでいるのである。


「あ“ぁ……! 明日のデート、一体どうすれば……!」


私はついに限界を迎え、頭を抱えながらペタンと地べたにへたり込んでしまう。

体調が悪くなったと言って別日に振り替えてもらおうか。

いや、そしたらきっと、安野君は優しいから心配してお見舞いに来てくれるだろう。

そうなったら、部屋着を見られてしまうわけで、そっちの方が恥ずかしい。


結局、何か理由を付けてデートを別日にしてもらったところで、決断を先延ばしにするだけ。

根本的な問題は解決しない。


「はぁ……こういう時、世の中の人ってどうしてるんだろう?」


改めて、自分が今まで恋愛ごとに興味を示してきてなかったことが仇となって返ってきたことに、後悔の念を抱いていた時である。



ピコン。


私のスマホに通知が届いた音が鳴り響く。

スマホを見れば、通知は亜紀からのメッセージだった。


『美月―! 今暇? 良かったら通話しない?』


亜紀から通話しようとメッセージが届いていた。

電話をして話したいのは山々だったけど、ここで現実逃避してしまったら本当に取り返しがつかなくなってしまう。

今は、時間の猶予も許されない、一刻を争う大ピンチなのだ。


「そうだ……! 」


とそこで、私の中に一つのアイディアが思いつく。

私はスマホを手に取り、亜紀とのトーク画面を開いて、『いいよ!』と返事を返す。

一分の立たないうちに、亜紀から電話がかかって来る。

私は通話ボタンをタップして、亜紀との通話を始めた。

電話越しから、亜紀の呑気な声が聞こえて来る。


『もしもし美月―? ごめんね夜遅くに』

「お願い亜紀。助けてぇぇぇぇー!!」

『ど、どうしたの美月!? そんなに悲痛な声上げて? 何かあったの?』

「うん……実は――」


私は亜紀に、明日のデートのことについて頼ることにしたのだ。

Vtuber活動をしていることを隠すために、安野君が泥を被ってくれた日から、私と安野君はお付き合いしていることになっている。

学校中ですぐに噂は広まり、周知の事実となってしまった。

クラスメイトの女の子からは、『どっちから告白したの?』だとか、『付き合い始めたきっかけは?』とか、馴れ初めを質問攻めにされる始末。

安野君と口裏合わせをして、ある程度のことは決めてあるが、『正直、二人はどこまで行ってるの?』という踏み込んだ質問をされてしまうこともしばしば。

私達、まだ付き合ってないとは口が裂けても言えないので、私はお茶を濁すことしか出来なかった。


『なるほどね。それで最後まで決まらないから私に助けを求めてきたと』

「うん。ごめんね。普段安野君と会うときって、制服がほとんどだったから、私服で会うってなったらどういうの着て行ったらいいか分からなくて」

『ふふっ、青春だねぇー』

「か、からかわないでよ。もぅ……」

『照れてる美月も可愛いなぁー! はぁ、安野君がちょっと羨ましくなっちゃった』

「何言ってるのよ……」


全く亜紀ったら、最近ずっとこんな調子なんだから……。


『でもそんな可愛い美月に免じて、私が今ある服の中からセレクトしてあげる!』

「ホント?」

『だって美月が頼ってくれたんだもん! こんなに嬉しいことはないよ! ここは、大船に乗ったつもりで私に任せなさい!』

「ありがとう亜紀!」


こんなに亜紀が頼りに見えたのは初めてかもしれない。


『とりあえずどんな服があるのか観たいから、テレビ通話にしてくれる?』


そう言われて、私は通話をテレビ通話に切り替えて、亜紀に明日のデート服をセレクトしてもらうのであった。


一方その頃、隣の部屋では――

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