第32話 デート前日の夜2

『なるほどな。それで、デートに来ていく服が決まらないで、どうしたらいいか分からないから俺に連絡したと』

「あぁ、峻希しゅんきしか頼れる奴いないんだよ。どうか今ある中でコーディネートしてください。お願いします!」


 俺、安野斗真は友人である小野峻希おのしゅんきに電話をして、明日のデートに来ていく服の選定をお願いしていた。

 電話越しからは、峻希の呆れたため息が聞こえてくる。


『ったくよ。そう言うのはもっと早く言ってくれよな。もう少し時間があれば、一緒に買いに行けたのによ』

「ごめん、今月は色々グッズを買っちゃって金欠なのと、あれよあれよと時間が過ぎてって、気づいたら明日になってた」


 モモちゃんの一周年記念グッズで大金を使ってお金がなかったのは事実だけど、正直なところ、デートプランを考えるのに必死で、服のことを失念していたのだ。


『とりあえず、テレビ通話に切り替えるぞ。服を見ない事には始まらねぇから』

「マジでありがとう」

『ったくよ。服選ぶ代わりに、寺花さんとの馴れ初めぐらい聞かせろよ』


 先日、教室で寺花さんがVtuber活動していることが気づかれないため、俺は放課後の時間を奪っていると豪語したことで、案の定校内では、俺と寺花さんが付き合い始めたといううわさが瞬く間に広がった。

 相変わらず嫉妬めいた視線はあるものの、思っていたよりも周りからは祝福の声が多く、俺が寺花さんの彼氏として見合っていないという意見は聞かれない。

 

 峻希も知っての通り、俺と寺花さんが付き合っていると思い込んでいる一人である。

 元々一緒に登校していることを知っていたこともあり、峻希曰く付き合い始めるのは時間の問題だったと思っていたらしいが……。


「まだ付き合ってないんだよなぁ……」


 俺は思わずそんな小言を漏らしてしまう。

 そう、何を隠そう、俺と寺花さんは付き合っていないのだ。

 Vtuber活動のことを隠そうと嘘を吐いただけで、マジで告白もしてない。


『まだそんな嘘つくのかよ。別にもういいって。お似合いだと思うぜ』


 どうやら俺の独り言が聞かれていたらしく、峻希が呆れた様子で言ってくる。


「いや、マジで付き合ってないんだって」

『いやいやもういいから。惚気ありがとうございますっと』


 とまあこんな感じで、本当のことを言っても信じてもらえないぐらいには、俺と寺花さんが付き合い始めたという噂は、覆せないほどにまで広がってしまってる。

 今日も、学校では寺花さんがクラスメイトの女子達から色々質問攻めにあっていて困ってたな。

 しかも隣同士だから、クラスメイト達が気を使っているのか二人だけの空間を作ろうとしてくるし、逆に気まずいからやめてほしい。


『まっ、それで行けば問題ないだろ』

「マジで助かった。ありがとう峻希」

『いいって事よ。その代わり、寺花さんをちゃんとリードして来いよ』

「うん、善処する」


 一応、デートプランは綿密に考えてある。

 寺花さんが喜んでくれるかは分からないけど、『デート 定番』で検索して、引かれない程度にはプランを練ってきたつもりだ。

 もし寺花さんが困った様子を見せたら、すぐさまプランBへ移す準備も保険で掛けている。


 有紗と出かける時は気兼ねなく外出できるのに、寺花さんとなるとこんなに心配ばかりが募ってしまうのはどうしてなのだろうか?

 考えた先に辿り着く答えは一つしかない。

 どうしてこんなに気を使ってしまうのか。

 それは、寺花さんのことを異性として意識してしまっているから。

 

 今回のデートは、3Dライブのご褒美として寺花さんからお願いされたとはいえ、果たして上手くいくのかは未知数。

 さらに言えば、寺花さんと外で二人きりで会うこと事態が初めてなのだ。

 緊張しない方がおかしいだろう。

 向こうがどういう心境でいるのはか分からないけど、同じ気持ちであって欲しいな。

 そんなことを思いつつ、明日のデートに向けて気合を入れ直すのであった。


「とはいえ、告白は出来ないよな……」


 気合を入れ直したのも束の間、俺はそんな弱音を吐いてしまう。

 もちろん、寺花さんから好意を感じているのは事実。

 けれど、俺と寺花さんが本当に付き合い始めるには、付き合うことの出来ない大きな理由があるのである。

 それはもちろん――


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