第33話 日和の成人式

 お姉ちゃんと同じ大学に通うようになって、良くお昼などを一緒に食べています。入学して直ぐに友人を作れるほど器用ではない私は、大学内でも何かとお姉ちゃんにお世話になっているんです。その中でも一緒に食べるお昼は、やはり一人で食べるのが寂しい為に非常に助かってますね。


 そして今日も一緒に学食でうどんを啜っていた私に、唐突にお姉ちゃんが尋ねて来た。


「日和、成人式の振袖とかどうするの? 作るならもう注文しないと間に合わないよ?」


「え? まだ18歳だよ? 早くない? それに、良ければお姉ちゃんの振袖を貸してほしいかな?」


 18歳を過ぎた頃からダイレクトメールなどで振袖の販売やレンタルの広告やチラシがいっぱい送られてくるようになった。その為に嫌でも二十歳という年齢を意識したし、成人式をどうするか考えさせられる。ただ、幾ら節目の式とはいえ1回しか身にまとう機会がないであろう振袖を新たに購入するつもりは私には欠片もなかった。


「まあ、それでも良いんだけど、せっかくだから日和も振袖買えば?」


「でも、勿体ないし。お姉ちゃんと身長も余り変わらないからいけるでしょ?」


 本当にそれなんですよね。一度しか着ない振袖に結構なお金を使うのもですし、普段着もお姉ちゃんが着なくなった服を貰っているから抵抗もないんです。


「そこそこ良いの作って自分の子供に着せてあげれば? 私はそう考えて作ったよ」


「でも、結婚するかどうか不明だし、そもそも女の子が生まれなかったらどうするの?」


 未来は大きく変わったので、お姉ちゃんが結婚しても子供が女の子とは限らないよね? 結婚のお相手は絶対に前とは違うだろうし、同じ人だったら断固として阻止します。


「う~ん、せっかくの成人式なのになあ。お金だってあるんだし、こういう時に使えば良いのに」


 お姉ちゃんは相変わらずブチブチと言ってますが、私はそれ以上に早くお酒が飲みたいです。前世では何と言っても社会人でしたし、無趣味の私の唯一の楽しみがお酒だったんですよね。お母さんが厳しくて未だに今生ではお酒は未経験です。


 仕事終わりに一人寂しくビールを飲んでたんだよね。でも、疲れ切った時のビールは、美味しかったというか、あれだけが癒しだったなあ。


 そんな事を思っていたら、気が付けばあっという間に成人式まであと3か月になりました。既にこの段階から着付けの出来る美容院を予約して、着物の試着などもしてと忙しくしていたんですが、そんな中で松田佳奈ちゃんから電話が来ました。


 ちなみに、私は4月生まれなので早々に20歳を迎えました。勿論、誕生日のお祝いにシャンパンを飲みましたよ? それはもう、長い長い断酒の果てのシャンパンですから、すっごく美味しかったです。


 あ、それで佳奈ちゃんからの電話は、成人式の事でした。


 当たり前ですが、高校時代の友人たちとは住んで居る所が違うので成人式の会場が違うんですよね。勿論、小学校や中学校がその地区であれば問題が無いのですが、引っ越ししていたりすると会場に友達が誰も居ないという事にもなりかねないのです。で、私の場合で言えば中学時代の友人が居るんですが、どちらかと言えば今も親しくやり取りがあるのは高校時代の友人達なんですよね。何と言ってもあの灰色の受験戦争を共に戦った戦友たちですから。


「え? うん、良いよ。解った。成人式の当日は熱田神宮に集合だね。うん、私は式には出ないから、うん、うん、そんな感じ。え? クリスマスにはお休みに入るよ? うん、まだ2年生だから」


 現場実習などが入ってくると休みなども浸食されていくみたいです。ただ、大学2年生ではそこまでの拘束は発生しない為、まだ余裕があると言えばあります。日々の予習復習は別ですけどね。


 佳奈ちゃんが中心となって成人式の日に久しぶりに集合することになりました。それぞれの地区の成人式に出席したら、その後に熱田神宮で集まる事、その後はみんなでオールナイトみたいですね。ただ、成人式の開始時間が場所によって微妙に違うので、集まるのに時間がかかりそう。


 私は最初から地元の成人式は出席せずに、家族揃って鳴海神社にお参りして、その後に写真館で写真を撮って貰って、その後家族揃ってお昼にすき焼きを食べに行きます。名古屋って年末年始にすき焼きを食べるんですよね。小さい頃には食べた記憶が無いんですが不思議ですね。


 そんな佳奈ちゃんと話をしていたら、なぜか突然競馬の話になりました。そして、良ければ有馬記念というレースを見に行きたいので一緒に行かないかって誘われちゃいました。


「え? 東京に行くの? うん、大学は休みに入るけど。えええ~~~」


 どうやら世間では競馬人気が沸騰? しているらしいです。で、佳奈ちゃんも例に漏れずそのお馬さんにドハマりしているみたい。なんでもミナミベレディーというお馬さんの引退レースがあるらしいです。


「うん、まあ、見てみるのは良いのだけど。え? うん、うん」


 ネットでもミナミベレディーというお馬さんの映像がいっぱい上がっているらしいです。それのみか、テレビ番組でも特集が組まれるくらいらしいです。


「え? うん、まあ日曜日なら会えるけど」


 何やら佳奈ちゃんが持ってるDVDを貸してくれるそうで、なぜか来週末に会うことになっちゃいました。


「う~ん、あの佳奈ちゃんが競馬に嵌るとは」


 勝手なイメージですけど、堅実を地でいっているのが佳奈ちゃんなんですよね。ギャンブルをする印象は欠片もないのですが、思いっきり驚かされました。まあ、東京に行くこと自体は問題ないのですが、はてさて、お馬さんですか。


 元々、あまり流行とか、流行り廃りとかには疎い自覚はあります。今騒がれていると言われても、お馬さんの名前なんて一頭も解りません。前世を思い出しても、そんなに騒がれていた記憶は無いんですよね。


「う~ん、まあ色々と変わっちゃいましたからね」


 やはりアメリカでのテロが起きなかった事が大きいですね。ただ、自然災害を考えると来年の東北が怖いのですが、そこは政府関係にお願いしましょう。一市民で何か出来るような事ではないですから。


 そして日曜日、私は待ち合わせのファミレスで佳奈ちゃんと会ってお馬さんを猛プッシュされています。


「ほら、だからすっごい可愛いんだって。それにね、ほら、ミナミベレディーの妹がサクラヒヨリなんだよ? 日和と名前が一緒。凄い偶然だよね!」


「え~っと、うん、凄いねぇ」


 確かに同じ名前だと親近感がわきますね。なんでも、GⅠという凄いレースを姉妹揃って勝った馬らしいのですが、それ以上に他の牝馬などと行うグルーミングなど、可愛い要素がてんこ盛りらしいです。


「元々はチューブキングっていう凄い馬の血統なんだって。でも、そんな事より年末の有馬記念で引退しちゃうから、実際にミナミベレディーを見れるのは最後の機会なの。ほら、妹のサクラヒヨリも出走すると思うし、一緒に見に行こう?」


「お、おおお?」


「日和、乗りが悪いよ!」


 その後、佳奈ちゃんが


 兎に角、そんな感じで競馬観戦の為に東京行きが決まりました。


 そして、当日は朝から名古屋駅に集合して東京へと向かいます。


「う~ん、明日は横浜中華街で食事して帰るとはいえ、まさかわざわざ東京に競馬を見に行く事になるとは」


「何言ってるの! 日和だって思いっきりミナミベレディー推しになってるくせに!」


「否定はしないよ? だって、調べれば調べるほど好きになるよね? 零細血統で、伝説の馬の孫娘で、頑張り屋で強いんでしょ? ましてや騎手が女性騎手! なんってラノベ? ってくらい要素盛り込みだよね?」


「うん、否定はしない。ましてや牝馬好きでしょ? グルーミングする姿に癒される」


 東京行きの新幹線の中で、佳奈ちゃんとミナミベレディー達の話で盛り上がります。競馬を知らないで傍で聞いている人がいたら、もしかするとアイドルの事だと思うかもしれないですよね。


 そして、中山競馬場へと辿り着いた私は、既に疲れ果てていました。名古屋駅を9時に出発して、到着時間は12時を回っています。名古屋から、どれだけ遠いのでしょう。


「疲れた~、すっごい遠いよね。家を出たのが8時だし、これって前泊が正解かも」


「うん、予想以上につかれた。電車もすっごく混んでいるし、乗っていた乗客は同じように競馬場を目指しているし」


「うわあ、すごい人だね。この人達がみんな競馬場に向かうのかな」


「そうだと思う。ほら、競馬新聞を持っている人もいるし、あの人達なんてミナミベレディーのぬいぐるみ持ってるよ」


 競馬って凄いんですね。なんか臨時列車がどうこうって言っていましたし、こんなに競馬場に来る人がいるんだってビックリしました。


 その後、競馬場に入って一息つこうとしたんですが、そもそも座って休める所が無いんです。指定席を取りたかったんですが取れなかったんですよね。


「う~~~、実際に見る競馬って凄かった! テレビで見るのと全然違った!」


 ミナミベレディーが無事に引退レースを終え、引退式が始める。


「寒いね」


「そもそも12月末だし、そりゃあ寒いよね」


 既に周りは暗くなり始め、明かりで照らし出されている所にいる人達の吐く息が思いっきり白くなっているのが分かる。


「あ、ミナミベレディーが入って来た」


「ミナミベレディーの息も白いね。あ、なんかキョロキョロ周りを見てるね。人がいっぱいいて吃驚したのかな?」


「後ろからサクラヒヨリも入って来た」


 視線の先ではミナミベレディーが引退式の会場となっているウィナーズサークルの方へと歩みを進めるのが分かる。


「うわあ、なんかドキドキする。でも、どっちを見るか悩む!」


 ターフビジョンに映し出されるミナミベレディーの姿も見たい。そして、実際に目の前にいるミナミベレディーの姿も見たい。ハッキリ言って鈴村騎手のインタビューは兎も角、ほかの人のインタビューは余り興味がない。


「あ、ミナミベレディーが女の人に懐いてる。あれって噂の桜花さんかな?」


「え? あ、ホントだ。桜花さんだね」


 佳奈がオペラグラスでミナミベレディー達の様子を見て、ミナミベレディーの傍に居る人を確認する。そして、二人がキョロキョロとしている間にも式は進行し、最後にはミナミベレディーがマイクの前で嘶き続けるというインパクトの強い引退式は無事に終了した。


「うん、日和、ついてきてくれてありがとう。一人だと流石に来る勇気はなかった」


「楽しかったから全然問題ないよ。私も新しい趣味が生まれたかも。馬って可愛いね」


「うん、可愛いよね。競馬場に来れてよかった。今度は中京競馬場行ってみよう!」


「大学から近いんだけど、まだ行ったことなかったなあ」


 ワイワイと今日の出来事を振り返りながら私達は予約してあるホテルへと何とか到着した。帰りの電車も思いっきり混雑していてヘトヘトになりながら、荷物を置いて結局はホテル近くの居酒屋のチェーン店へと入る事に。


「そういえば、日和は成人式は振袖?」


「うん、といっても式自体には行かないけどね。そういう佳奈も振袖だよね?」


「レンタルだけどね。日和は買ったの?」


「お姉ちゃんの振袖を借りるよ」


「あ~~~、お姉さんとかいればそうなるね。レンタルも結構するしね」


 目的の競馬観戦が終われば、次の話題はやはり成人式だ。予めみんな振袖を着る事は分かっているけど、其処はそれ色々と聞きたいことは多い。


「徳女とか行っている子は振袖会とか言う学校主催の成人式があるんだよね?」


「あるっぽい。凄いね~~。公立だとそういうの無くて助かる。ほら、女のマウント争いとかありそう」


「女はいつもそういう物です。大学でもそういうのあるし」


 医学部はまだ女性の数が少ないので良く解らないんですけど、佳奈ちゃんが行った薬学部は女性比率が高いんですよね。その為、言っては何ですが女性の中で色々と覇権争い? が多いみたいです。


「皐月も愚痴ってたよ。獣医学部も女性の方が多いから何かと大変みたい。今度一緒に飲もうって話した。何と言っても二十歳になったからね!」


「あ~~~、うん。でも、皐月ちゃんって3月生まれじゃなかったっけ?」


「マジ? そうだっけ? まだダメじゃん。でも、皐月だから5月じゃないの?」


「あれ?」


 結局、この後に確認したところ、やっぱり生まれたのは3月でした。ただ、おじいさんが競馬大好きで馬主をしていて名前を皐月にしたそうです。皐月ちゃんも競馬に誘えば良かったって思いましたけど、皐月ちゃんは名前に反して競馬には欠片も興味がないらしい。


「でも、もう二十歳かあ。早いよね」


「う~ん、私は漸くっていう感じかな。うん、お酒美味しい」


「日和ってお酒強いよね」


 うん、体質的にも我が家は全員強いんですよね。これは前世でも勿論一緒です。


「佳奈はあんまり強くないよね? 顔真っ赤だよ」


「うん、顔に出るんだよね~。すぐ赤くなるから恥ずかしいんだけど」


「えええ! 顔に出ないより出る方が良いよ? 顔に出ないと酔ってないって思われてどんどん飲まされるってい言うし」


 これも前世での経験なんですよね。特に会社での飲み会だと最悪ですね。ただ、こうやって友人と二人でしみじみ飲むのは楽しいですね。これも前には無かった経験です。


「はあ、明日は中華街楽しもうね」


「そうだね。でもさ、日和が衝動買いしたあのぬいぐるみとかのグッズ。ずっと持ち歩くの?」


「……明日、郵便で送る」


 テンションが上がった状況での買い物って、本当に怖いですよね。


◇◇◇◇◇


私が書いているお馬さんのお話と思わずコラボしちゃいました。


あちらで閑話を書いていたら、何となく日和が浮かんだんですよね。ただ、こっちの時系列と、あちらの時系列は全然リンクしないので、あくまでもパラレルワールドという事で><


トッコさんの生まれた年とを日和のとリンクさせちゃうと、凄いお馬さんとかが居ましてですね……。

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