第28話 エピローグ?

 間もなく高校受験を控える中、私は何方かと言うと受験もですが、癖になっている銘柄や上場企業にも意識が行っちゃってたりします。


「う~ん、この頃の銘柄って難しいよね。でも、テロが無かったからか、どの銘柄も値上がりが早いかな? そこが不安だなあ」


 前の人生では、日常的に株価を見たり、ネットで検索して日々妄想していた私です。そんな私ですが、今はそこまでネット環境がまだ整っていない事も有り悶々としていたり?


「株価迄覚えて無いし、確か此処から結構下がるんだよね。今の時期での買い銘柄が思い出せないなあ。まあ、当てにならないんだけどね。あ、ここ何となく覚えてる」


「日和、あなたすっごいおっさん臭いわよ? それが息抜きになっているのは判るけど、しばらくは投資は控えるんでしょ? というかまだ投資するの?」


 リビングで新聞を眺めていたら、お母さんに呆れられちゃいました。


 既に5億円くらいは投資しているんですよね。勿論、銘柄を分散してのリスク回避はしています。一応、狙っている会社はまだあるんですが、今は買う時期を悩んでいたりします。


 私が前の人生でネットなどで見ていた暴騰銘柄などは、どうしても情報が10年とか5年とかのスパンが多かったんですよね。その為、一般の人達でも知っている名前の会社しか長期だと判らないんです。

 WAPOO程有名であれば兎も角、そうではない銘柄のこの頃の動きなんて全然判りません。


「う~ん、未来も変わっちゃったと思うし、余程に自信が無いと怖いけど、上がる確率は高いと思うんだよね。あと、電気自動車とかが将来的に主流になるし、ネット販売関係も狙い目なんだよねぇ」


「はあ、悩むのは後にして、まずはご飯を食べちゃいなさい。日向はとっくに塾へ向かったわよ」


「は~~い」


 モソモソと朝ご飯を食べ始めます。今は冬休みなんですが、それこそ土曜日も日曜日も無く毎日塾の冬期講習なんですよね。流石に泊りでの合宿は遠慮しました。


「タリホーの上場は来年だけど、株の購入は2010年頃で良かったと思うし、でも確かどっかこの頃で買いの株があった記憶があるんだけどなあ」


 逆行転生して既に10年の月日が流れている。当初ノートに書きこんだ内容も、テロ事件が発生しなかった今では、所々変わってきている。それは、会社の上場時期もだし、値動きもだと思う。アメリカ経済は堅実な値動きをしているみたいだし、日本経済も何だかなんだと頑張っているみたい。


「まあ、この頃の景気や経済何て全然気にもしていなかったんだけどね。そのせいで今が何処まで違うのか何て全然判んないよ」


 塾へ行くための鞄を手にし、そんな事を呟きながら家を出る。


「うわ、さっむ!」


 テレビでは今年は暖冬と言っているけど、それでも寒い物は寒いなあ。


 私は、首元にマフラーをしっかり巻き直しました。




 その翌年、私は何とかお姉ちゃんを追いかけるように金鯱高校に合格しました。


 お姉ちゃんも私立の医学部を滑り止めで受け、美穂さんと揃って2校に合格。最後に残るは国立と公立の医学部だったんですが、国立は落ちちゃいましたが、公立の医大は無事に合格しました。ただ、美穂お姉さんがまさかの全滅。その為、結局は滑り止めで受けていた棚田医大へ進む事になっちゃいました。


「お母さん、ごめん。棚田に行かせて。お母さんが貯めてくれた貯金を使わせて欲しい。やっぱり美穂と一緒の大学に行きたいの」


 国公立の合格発表後、お姉ちゃんはお母さんにそう言って頭を下げたんだそうです。


 でも、お姉ちゃんが後になって言ってたんですが、地方の国立大学医学部なら二人とも安全圏だったそうで、多分ですが合格したと思うって。ただ、お姉ちゃんが名古屋に拘った事で、美穂さんを巻き込んだところもあったそうです。それで、逆にお姉ちゃんが美穂さんに謝ったって聞きました。


「はいはい、お父さんには公立も落ちたって言っておくわ。あと、お金はお婆ちゃんに出して貰うって言う事にしておくわよ」


「お母さんありがとう!」


 美穂さんも、この事でお姉ちゃんにすっごく謝ったらしいです。

 まあ、普通のサラリーマン家庭では私立の医学部は普通は無理ですからね。お父さんがやっぱり何か言っていたらしいですが、お母さんが黙らせたそうです。だって、お父さんには何の負担も増えて無いですからね。


 そして、4月になり私は新たに金鯱高校に通学します。そして、驚いた事にお姉ちゃんは大学の傍に美穂さんと共同で部屋を借りて、家を出ちゃいました。


「何時までも家に居るのもね。それに、大学が忙しくなると住んでいる所が近い方が楽だから。でも、日和の勉強を見てあげられないのが気になるから、判らない事が有ったら連絡するのよ?」


 と言っても、我が家から車でなら30分かからないんですけどね。普段は何かとすれ違い生活になっていて会話もあまり無かったとしても、やはりお姉ちゃんが居ない生活は寂しく感じます。


「お婆ちゃんと一緒に暮らしたら? やっぱり年寄りの一人暮らしは何かと気になるし」


 建前上ではあるんですが、お婆ちゃんがお姉ちゃんの学費を出してくれている事になっています。お姉ちゃんが言うように、それも有りかなと思っているんですが、中々お婆ちゃんがウンと言わないようです。


「まあ、これから説得していくわ。今はちゃんと健康診断もさせているし、日和が言っていたよりは長生きしそうだからね」


 お母さんはそう言って苦笑いを浮かべます。


「でも、お姉ちゃんの部屋をお父さんが使いたがっているんだよね?」


「まあ、お婆ちゃんが一緒に暮らすってなったら明け渡させるようにするわ。それに、日和だって行く大学によっては一人暮らしになるでしょ?」


 うん、それはどうなるかまだ判らないですが、かつて一人暮らしをしていた身とするとその方が楽な気はします。ただ、私はどうしても安きに流れちゃうからなあ。


「それはその時考える。まだ、完全に進路を決めた訳じゃ無いし」


 お姉ちゃんの後を追って金鯱高校に入学は出来たけど、私はお姉ちゃん程頭は良くない。最初の試験を受けた感じでは、恐らく学年で真ん中くらいであれば御の字かな? だから、その先の進路を考えると色々と難しいと思う。


「そうね、でもちゃんと手に職を付けるのよ? 日向と約束したんでしょ?」


 お姉ちゃんと同じ様に、私にも高校に入った所で貯金の事を話した事になりました。そして、その後お姉ちゃんから色々と注意されました。


「いい、お金があるからって遊んじゃダメだよ? 将来の為に考えてお金を使いなさい。お金に溺れて駄目にならないように、ちゃんと勉強はする事」


 何か前の人生におけるお姉ちゃんを知っているだけに、すごく複雑な気持ちで忠告を聞いていました。


「うん、でも、手に職をつけるって言っても、何が良いんだろ? まだ何になりたいか決まらないんだよね。

 一応、小学生の頃から頑張って来たんだし、お姉ちゃんのように医学部が良いかなって思いはするよ。実際に、お医者さんはやはり憧れの職業だよね?

 逆行転生した時に、前の人生では後悔ばかりしてて、もう1度遣り直せるなら頑張ろうって思った。でも、実際にやり直していると、やっぱり楽な方に逃げたくなる」


 最初の覚悟は、日々の出来事で段々と薄れて行っちゃうものなんだよね。前の人生の知識によるスタートダッシュも、中学から高校になった段階で頭の良い人に追いつき、追い越されてしまいました。


 これだけ努力していても、やっぱり抜かれて行くと心が折れそうになります。もうお金もあるんだし、楽しても良くない?


 将来困らないであろうお金を稼いでしまったから、余計にそんな事を思っちゃう事は否定できないです。


「私の幸せって、好きな本を読んで、のんびり出来れば嬉しいなって思ってた。前は日々の生活でどんどんと疲れて、これがやりたいっていう物も何にも無くて、ただ生きてたかな? だから、今度の人生は何かを見つけようって思ったんだよね」


 お母さんは私の向かいに座って、ただ黙って静かに私の話を聞いている。


「でも、結局、今もこれがやりたいって言う事が見つからないの。毎日をただ頑張ってるだけ。でも、不安だからついついお金が稼げるなら稼ごうとしちゃうし、どこまでもキリが無いよね。もう、のんびりと暮らしちゃ駄目なのかな?」


 ここ最近いつも思う事だった。


「ねえ、日和はせっかく逆行転生したんだから、子役とかアイドルとかになろうとは思わなかったの? 大人の頭で体は子供だっけ? 誰かに認められて、凄いって言われたり、そんな事に憧れたりしなかったの?」


 私の話を聞いたお母さんが、突然変な事を聞いてきました。

 逆行転生でスーパー子役になるは定番ですよね? ただ、あれって私のような凡人には無理なんだと思う。


「まったく憧れなかったって言うと嘘だと思うけど。私だと子役は無理。容姿も普通だし、演技や歌が上手な訳じゃないし。あと、子役ってすっごく大変なんだと思う。大人たちの世界に子供の頃から入って、癖の強そうな人達に囲まれてだよね? 私だと絶対無理。たとえ芸能界で上手く行っても、学校では虐めとか、差別とかでそうでしょ? それこそ、人間関係で潰れちゃう」


「そうね、日和は他人とのコミュニケーションが苦手というか、凄く臆病よね。きっと色々と考えすぎちゃうのね」


 どうしても悪い方向に考えてしまう癖がある。いったい何時からなのかは判らないけど、そのせいで臆病になる所があるのは知っている。


「今もこの新しい人生をしっかりと頑張ろうとは思ってるよ」


 逆行転生してきた意味や理由は判らないままだけど、少しでも幸せになる様に努力しようって。


「でも、幸せってなんなんだろう? お金に余裕があるのは幸せだよね。そう言う意味では余裕があるから、幸せなのかな? でも、何か違う気もするんだよね」


 思わず出た言葉にお母さんが笑いながら答えた。


「あら、お母さんは、今とっても幸せよ? 貴方達が生まれてくれて、頑張って良い学校へ行ってくれて、お金にも苦労し無さそう。こんなに幸せになるなんて吃驚」


「いいなあ、私も幸せになりたいな」


 そう告げるお母さんを、私は眩しく感じるのだった。

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