第26話 騒動のその後と日常のあれこれ

 お姉ちゃんが学校で思っても見なかった事件に巻き込まれました。幸いにも早期に事件自体は解決したのですが、私の中に何とも言えないシコリのような物が生まれました。


「お姉ちゃん、その後は大丈夫?」


 3日程学校を休んでいたお姉ちゃんが登校を開始してから初めての土曜日、私は一緒に朝食を食べながらお姉ちゃんに学校の様子を尋ねます。


「うん、まあパトカーが来てたし、学校側も隠し立てとかすると逆効果になると思ったみたいで早々に事件のあらましは発表されたから。3年生にとっては特に大事な時期だしね。それと、逆に今回の件で色々と広がってた私への誤解が訂正されたから、結果オーライ?」


 シリアルに牛乳をかけながら、お姉ちゃんは特に何か気にしたような感じも無く答えてくれます。


「でも、何か怖いよね。受験ノイローゼって」


 以前の人生でも受験ノイローゼなどになったことの無い私は、ある意味その3年生にも同情してしまいます。それこそ、進学校へ行ったが故の病気とも言えますよね。


「ん? でもさ、今行っている塾何て、そんな人いっぱいいるよ? ブツブツ呟きながら歩いてる人とかさ、特に3年生の生徒のうち何割かは実際にメンタルクリニック通ってるらしいし」


「え? マジで!」


 お姉ちゃんが今通っている塾は、医学部受験専用の塾です。という事は、ほぼ全員が医学部を受験するのでしょうが、やはりそのプレッシャーは凄いのでしょう。何せ、塾代で年間100万円越ですから。


「まあ、家族からかけられる期待とか、周りと今の自分を比較しての焦りとか、特に模試の評価が悪ければ凄いプレッシャーになると思うよ? それこそ、何処か滑り止めの1校でも受かれば楽になるのかもしれないけど、それだって人それぞれだし、それすら受からないと? そもそも、試験を受けるまでの不安だ何だは凄いと思うよ」


「そうなの? どこか受かっていれば最悪他が落ちても大丈夫だよね?」


「そう思えるならね? 何で此処が受からなかったんだ! 自己採点ではとか、もう考え出してもキリがない。それだけでなく、意外と誰々は何処そこに合格した。それなのに自分はってなって、結局浪人を選ぶ人も居るよ。色々と難しいからね」


「え~~~、それってお金かけて滑り止め受けた意味が無いよね? それなら受けないといいのに」


 お姉ちゃんの言葉に、私は思いっきり首を傾げました。


「だから、あくまでも本番へ向けてのメンタル的な部分の意味合いが大きいの。特に国公立を受ける人とかはね。まあ、何と言っても社会へ出る前の最後のステップだからね。

 少しでも良い所に行きたいだろうし、夢を追いかけている人もいるかもしれないし、そこは本人次第かな。

 私が今行っている塾はやっぱり医学部を目指す所だから、まあ色々あるんだと思うよ」


 お姉ちゃんの説明に、私の認識との違いに何も言えなくなりました。駄目なら他でも良いんじゃないか、そんな甘い考えでいる私が、その塾に入ったら恐らく異物扱いされてしまいそうです。


「お姉ちゃんは大丈夫なの? 追い詰められてない?」


 今の姉は前を想像出来ないくらいにしっかりしています。それは判っているんですが、それでも話を聞いていると心配になります。


「私の場合は美穂がいるからね。精神的にそこで救われている所はあるかな? お互いがカウンセラーみたいな感じで日々の事、悩みや愚痴を話しあって溜め込まないようにしているし。美穂も同じようなこと言ってるけどね。でも、3年生と1年生では掛かって来るプレッシャーも全然違うからね」


 ある意味、大学受験が今まで頑張って来た集大成という所なのかな? 受験を失敗しても浪人という選択肢もあるんだろうけど、それはそれで更なるプレッシャーになりそう。


「日和もあまり話さないけど、私にとっての美穂みたいな友達っている? 日和から友達の話ってあんまり聞かないし、一緒にどこかに出かけたって聞いたこと無いけど」


 今度は、お姉ちゃんの方が心配そうに私へと尋ねて来ます。


「う~ん、勿論友達はいるよ? でも、お姉ちゃんと美穂さんみたいな友達っていないかな。私から見ていても美穂さんはお姉ちゃんにとって特別って感じがするから。でも、私ってあんまり誘われたりとかしないし、普段は塾で手いっぱいだから」


 思わず苦笑を浮かべながら答える私ですが、中学に入って既に1年近く経ちます。そして、家族には言えませんが絶賛ボッチ状態です。まあ、別にボッチが苦になる性格じゃ無いし、そもそも中身が30代ですからね。


 生来の性格もあって、どうしても壁が出来ちゃうんですよ。


「まあ、無理に友達を作れとは言わないけど、学校でなくても良いから友達は作った方がいいよ? あと、何かあったら隠さないで、お姉ちゃんやお母さんに相談する事。わかった。」


 本当に私を心配してくれているからこその言葉です。私も、そこは素直に頷きました。


 ただ、現実はと言えば中々に難しいのですよね。クラスメイトですから、普通に挨拶はしますよ? ただ、だからと言って一緒に遊ぶとか、冬休みに集まるとか、そういったお誘いは皆無です。


「お先に~、また来年ね。良いお年を~」


 クラスメイトにそう声を掛け、荷物を持って教室を出ます。一応、休み前に計画的に置いてあったものを持ち帰っていたので、其処迄大荷物にはなっていません。


「「「またね~、良いお年を~」」」


「「「またな~、良いお年を~」」」


 特に無視されたりする事が無いので、虐めを受けているとかそういう事では無さそうなんですけどね。


 そんな感じでで冬休み突入です。冬期講習はなんと! お休みなんです。私の所も、お姉ちゃんの所も、どちらも受験生対策で精一杯。その為、今年の冬休みは昨年と違い家族みんなでマッタリしています。


「1月2日はお母さんの実家。3日はお父さんの実家へ行くわよ。去年は日向の受験で行かなくて良かったけど、今年は流石に行かないと煩そうだから」


 もっとも、そう口にしながらもお母さんの口元が悪い感じに歪んでいます。まあ、娘が金鯱高校に入ったからね。今まで散々に馬鹿にされてたから、色々と鬱憤も溜まってそう。


「これでもう行かなくて良くなるといいのに。あっちも来て貰っても嬉しく無いと思うよ?」


 私達が社会人になると交流がなくなるんですよね。好き好んで悪意をぶつけられる趣味は無いですから。結局、お父さんだけがお正月に顔を出しに行ってたけど、私達は行かなくなったんですよね。


「一応はお父さんの親だから、ただ義兄さんのお嫁さんの玲子さん。あの人も何でかこっちを敵視してくるのよね。まあ、義母さんに日頃から何か言われているんでしょうけど、愚痴くらい聞くのにね」


 溜息を吐くお母さんだけど、それこそ十何年も今の状況だからね。お父さんには甘い癖に、まるでお母さんや私達は家族じゃないみたいな扱いなんだ。


 大晦日に大掃除をして、お姉ちゃんは美穂さんと初詣に行っちゃって。

 私は普通にお節料理を食べてと特に変わらないお正月を迎える。2日はお母さんの実家へと行ってお婆ちゃんからお年玉を貰う。


「「お婆ちゃんありがとう!」」


「二人とも大きくなったねぇ。日向は高校生、日和も中学生、お婆ちゃんも歳を取ったわけだね」


 そう言って笑うお婆ちゃんだけど、ぱっと見78歳には見えないくらい元気だ。今は週2回お願いした家政婦さんが家の事などをしてくれる。実際お願いしているのはお婆ちゃんの食事管理と、体調管理というか様子見が主なんだけど。やっぱり離れて暮らしている分心配だし、そういう面ではお金があるってありがたい事だと思う。


「ちゃんと塩分控えてる? 今度の健康診断は久子さんに付き添って貰えるようにお願いしてあるからね」


「健康診断くらい自分一人で行けるわよ」


 不服そうにするお婆ちゃんだけど、やはり前の人生で亡くなった事を知っているお母さんは色々と気にしている。ただ、一緒に住もうと提案しているけど、未だにお婆ちゃんからは良い返事は貰えないみたいだ。


 私とお姉ちゃんはそれぞれ3万円もお年玉を貰ってホクホク顔で帰ったんですが、翌日はお父さんの実家へ。

 そして、私達はそのお父さんからの実家から帰宅中です。時間が飛んだですか? 知らない子ですね。


「うん、まあこんな物かな?」


 お姉ちゃんが何か呟いていますが、まあ結局は女の子がそんな高校へ行ってもとか、良く訳の分からない事を言われました。ただ、お姉ちゃんが思いっきり言い返していましたけどね。


 ちなみに、お年玉はお姉ちゃんが5千円で、私は千円でした。この差は年齢だけ?


「まあ、まだ子供ですからね」


 お母さんの方のお婆ちゃんが気前が良すぎる気はします。でも、我が家は貰える当てが少ないんです。お父さんは兄弟同士で、お互いの子供へお年玉の遣り取りはしないと決めてるんです。ある意味、お互いの親が追加でお年玉を出しているような物ですから。


 まあ、意図は判りますよ? 子供としても、第三者としても、それもどうかと思いますが。色々残念な家庭ですよね。


 そんな日常があっという間に過ぎていって、気が付けば私も中学3年生。姉も高校3年生になりました。

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