第17話 悲惨な未来を変える為に
そんな厄介な2000年も終わり、ついに2001年になりました。
昨年は株の売却から始まって、家の購入、引っ越し、マスコミ報道など本当に色々あった年でしたよね。
そのマスコミ報道も、6月に行われた選挙とかであっという間に忘れ去られました。その後に沖縄でサミットが行われた事とかもあって、一気に世間の話題は変わって行きました。
ここで漸く私もお母さんも安心できました。
お姉ちゃんも、中学3年からの転校、マスコミで同名の報道がされるなど、切っ掛けは色々あった事で、学校で色々と問題はあったみたいです。もっとも、それもお姉ちゃん曰く思いっきり力技? で乗り切ったそうです。
「3年生だから受験で何かと不安定になるでしょ?
どうしてもストレスが溜まるから。そんな事に気をとられている余裕ないはずなんだけど、まずは良い成績を取って周りを黙らせた。いま学校で仲の良い子達は、あんまりそう言う事を気にしない子達だから」
お姉ちゃんは、学校の中間テスト、期末テストともに学年で10番以内をキープしているらしいんですよね。何となくですが、普段の言動からも行きたい学校なのか、将来の事なのか、ともかく目標が出来てるっぽい。
中学生でもう自主的に将来の目標を決めている子ってどれくらいいるんでしょうか? 本当にお姉ちゃんは変わりましたね。まだまだ未来は判りませんけど、良い方向に変わったと信じたいですね。
そして、今年はある意味問題の年です。2001年、前にもちょっと言ったと思うのですが、アメリカ同時多発テロで多くの人が亡くなる年です。
私のような一般人が何かをして防ぐ事なんて出来るんだろうか? もしかしたら、今生では同時多発テロは起きないかもしれない。私のように逆行転生してきている人が他にもいて、その人が防いでくれるかもしれない。
そんな事を日々思っている毎日です。ただ、何かをしていても、ふと同時多発テロの事が頭を過るんです。
その為、だんだんと鬱々してきて、お母さんやお姉ちゃんが学校で何かあったのかと心配し始めちゃいました。
「日和、もしかして、学校で虐めとかにあってる? お母さんに相談できないならお姉ちゃんに言って」
「え? 虐め? な、ないよ! 虐めとかにはあってないよ!」
驚いたのは、突然にお姉ちゃんが学校で私が虐めにあってないか疑った事です。うん、確かにこの時代だとありそうですね。私は何方かと言うと大人しいと思われていますから。ただ、流石に中身は30歳超えの大人ですから、子供の虐めとかは自分で何とかできます。
「そう、それなら良いんだけど。最近何か変だよ?」
「え? そ、そうかな? でも学校は問題無いよ?」
「学校はって言う事は、それ以外で何かあるの? お姉ちゃんに話して。場合によっては学校に乗り込んで行ってあげる!」
「大丈夫! 何にもないよ!」
慌ててお姉ちゃんを宥めました。
その後も何かと私の事を気に掛けてくれるお姉ちゃんです。そんなお姉ちゃんも、今年は中学3年生で思いっきり受験生です。その為、私としては出来るだけ余計な心配を掛けたくありません。
ただ、お姉ちゃんは兎も角として、逆行転生をして来た事を知っているお母さんは誤魔化せませんでした。その為、私はお母さんに思い切って相談する事にしました。
「お母さん、今大丈夫? 時間ある?」
「ん? あるけど、どうしたの? ん~~~、ここ最近日和が悩んでる事?」
「うん」
夕飯を食べ終えた私は、タイミングを見てお母さんに話しかけます。お姉ちゃんは塾へ行っている為に、帰ってくるまでにまだ時間があります。
「あのね、前の世界では、今年の9月にアメリカで同時多発テロが起きるの」
「同時多発テロ?」
そもそも、あの事件を知らないお母さんは、当たり前ですが同時多発テロと言ってもピンと来ていません。私は逆行転生してきた時に書いた手帳を持って来て、事件の内容を説明していきます。
「確か1万人以上の人が亡くなるんだったと思う。死者だったのか、死傷者だったのかハッキリと覚えてはいないんだけど、地震とか、津波とか、そう言った自然災害だったら私もどうしようもないと思えるけど、人が起こした事件だから防げるんじゃないかって」
一通り説明を聞いていたお母さんは、私の話をどれくらい理解できたのかは判らないけど大きく頷いてくれました。
「そう、そうね。まだ起きていない事ですものね。何とかしたいと思うわね」
私は説明している内に、自然と気持ちが高ぶって来て涙がボロボロと零れます。こういう所でやっぱり精神が体に引っ張られているような? 大人なら、もう少し冷静に対処出来そうなものですよね。
「もし何もしないでテロが起きて、多くの人が死んじゃったら。多分私は耐えられないかも」
「でも、アメリカで起きるのよね?」
「うん」
「そっかあ、そうねぇ、う~ん、日和はどう考えているの?」
「えっと、手紙を出そうかと思ってる。でも、信じて貰えるか判らないし。それで何も起きなければ良いけど、もしテロが起きたらって考えると怖い」
「信じて貰えるとは思えない?」
「うん」
「そっかあ、未来を知ってますって言ってもね。普通に考えたらそうなるわよね。判った。お母さんも何か考えてあげる」
新年早々私とお母さんは、自分達に何が出来るかを考え始めました。
ただ、私達は別に日本の偉い人や、アメリカの偉い人を知っている訳では無いです。その為、まずは内容を書いた手紙を持って、悪戯じゃないことを主張する為に直接名古屋にあるアメリカ領事館へ行ってみる事にしました。
「信じて貰えるかな? 夢で見たとかにした方が良かったかな?」
「どうかしら? でも、どっちにしろ胡散臭いわよ? あと、お母さんとしては私達の身元が知られるのが本当は怖いのだけどね」
う、お母さんに胡散臭いって言われちゃいました。でも、実際に胡散臭いんですよね? 私が他人から聞いたのだったら絶対に信じないと思います。それでも、一応は判りやすく纏めたつもりです。それに、身元を知られる事が問題なんだろうか? そこは良く判りません。
「別に真剣に調べた訳でもなく、テレビとかの情報を何となくでしか覚えてないんだよ? 何処から離陸した飛行機とか、そう言った事は何にも覚えて無いし、聞かれても答えられない」
「大丈夫かは判らないけど、覚えていないんだから仕方が無いわ。そもそも普通はそんなもんだと思うわよ? 逆に異様に詳しい方が変じゃ無いかしら?」
二人でそう言話し合いながら、アメリカ領事館の入っている建物までやって来ました。
「でも、意外だったなあ。アメリカだったら領事館とかも自分の建物だと思ってた」
「大使館が東京にあるから、きっと営業所みたいなものなのよ」
二人でそう話しながら、ビルへと入って領事館の入っている階を確認します。そして、エレベーターに乗って領事館のある階へ向かいました。
「目の前がすぐ受付とかなのかな? こ、こっからどうしよう」
「大丈夫、受け付けがあったら、そこで領事さんを呼んで貰えばいいのよ。それしかないでしょ?」
「でも、普通、ただの一般人が領事さんに会いたいってお願いして会えるの?」
「アポイントも入れていないし無理じゃないかしら?」
お母さんは特に気にした様子もなく、淡々としています。
「でも、領事さんに会えないと意味が無いよ?」
「まずは手紙を渡してからよ。こちらの連絡先も入れているんだから、何か連絡がくると思うわ」
「その連絡が来なかったらどうしよう?」
「来なかったときは来なかったときよ」
そうこうしている内に、エレベーターは領事館のある階に止まりました。二人でエレベーターを出ると、すぐ目の前にアメリカ領事館の表札が見えます。
「ここだね」
「そうね」
二人で頷いて扉を潜ると、目の前には受付カウンターがありました。そして、カウンターの上に置かれた呼び鈴を押すと、奥から日本人と思われる女性が出て来ます。
「はい、どうされました?」
受付の人が日本人であった事に幾分は緊張が和らいだのですが、いかにも私は出来ますよといった様子の受付さんに尻込みしちゃっても仕方が無いですよね?
ただ、その女性も小学生くらいの子供を連れた親子の訪問に、明らかに戸惑った様子を見せています。
「あ、私は鈴木夏美と言います。この子は娘の日和です。あの、領事さんとはお会いできますか? もし可能であれば領事さんと直接お話したいのですが」
「お願いします」
私とお母さんの様子にどうもただ事では無いと思ってくれたのか、そのお姉さんは少し考えた様子です。
「領事のスケジュールを確認してまいりますが、まずはこの用紙にお名前、ご住所、電話番号などをご記入願いますか?」
そう言って受付さんが渡してくれたのは、テンプレートになっている訪問者票でした。
入り口横に置かれた椅子に座って、お母さんが記入していきます。その間に私は受付さんの様子や、入り口の上にあるのは防犯カメラだろうか? などと周りをただ眺めていました。
「はい、ありがとうございます。それでは確認してまいりますね」
訪問票を受け取った受付さんは、領事さんに時間が空いているか確認の為に事務所の中へ入って行っちゃいました。
「お母さん良かったね」
「まだ判らないけどね」
それでも、門前払いされる可能性も考えていたんです。それを思うと一歩前進です。そしてそのまま10分くらい待たされた後、私達は応接室に通されました。
「まだ少し時間は掛かると思いますが、此方でお待ちくださいね」
訪問者票に、住所や名前、電話番号を記入した事で、恐らくは身元確認をしているのかな? 実際に票を渡した際にお母さんは運転免許証も提示させられました。
その際に免許証の住所と、記入した住所が違っていない事も確認されました。でも、持ち物検査とかはなかったですね。
一応、覚悟はしていたので、余分な物は持って来ていませんでしたけど。
その後、30分くらいして二人の外人さんと、日本人っぽい男の人、もしかすると通訳さんかな? が応接室に入って来ました。慌てて立ち上がった私達に、2番目に部屋に入って来た外人さんが声を掛けて来ました。
「Welcome、miss.suzuki」
「え、えっと、突然訪問して申し訳ありません」
「あ、ありません」
私も、お母さんも、緊張して英語で返事を返すなんて出来ず、思いっきり日本語で返事を返しちゃいました。
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