第8話 投資準備とお姉ちゃんの様子

 そして、気が付けば7歳になっていました。


 ただ、私が2年生になって、改めて見返すと、少しずつですが前世と違う事が起きていて、ちょっと不安と言えば不安です。


 私の行動が前世と違うので、変わって当たり前なのですけどね。


 まずは、お姉ちゃんが4年生になってもバレエを習いに行きたいと言いませんでした。


 私は行くつもりはなかったのですが、お姉ちゃんが言い出さない事に吃驚して探りを入れてみました。

 すると、どうも前世でバレエに誘われた友達とはそれ程仲が良い訳では無く、別の子と仲が良いみたい。その為、お姉ちゃんは仲が良い子が通い始めた英会話教室へ行きたいと言い出しました。そして、今は嬉々として英会話教室に通っています。


 私ですか? 私は、英会話教室から帰って来たお姉ちゃんから英会話を習っています。お姉ちゃんも家に帰って来て復習できるので、一石二鳥らしいです。


 私も今ぐらいから英語に馴染んでいれば、人並みに出来るようになる・・・・・・はず? 今の内から英語に馴染んでおくと良いのかも? ただ、私が英会話の教室に通うにはまだちょっと、べ、別に忌避感がある訳じゃ無いんです! 家計の出費とか考えた結果なんですよ!


 ともかく、私も無事に小学2年生になりました。


 今年は何と言っても1997年です。例のWAPOOが上場する年です。


 上場自体は確か11月なので、まだ余裕があるとはいえ準備は必要です。


 その為、お父さんには内緒でお母さんと二人で証券会社で口座を作りました。実際には、お母さんの口座と、私とお姉ちゃんの口座の3つの口座を作ったんです。


 お父さんごめんね。此処でもお父さんは仲間外れです。


「将来の事を考えれば、貴方達それぞれで口座を持っている方が良いでしょ?」


 当初、私はお母さんの口座だけしか考えていませんでした。それに対し、お母さんは相続なども含め、私とお姉ちゃんの口座も作った方が良いと判断したみたいです。


「大丈夫、もし投資に失敗しても元本が吹っ飛ぶくらいよ?」


「それ、全然大丈夫じゃ無いよ?」


 ただ、今回の投資に関して、原資は何とおかあさんの方のお婆ちゃんに借りたそうです。その額はなんと3000万円、凄い金額でした。思わず私は口をポカ~ンと開けちゃいましたよ。


「お爺ちゃんの生命保険の支払いがあったからね。誰も死ぬと思ってなかったから、そのせいか知らない間に良い様に複数の保険に加入させられていたみたい。

 まあ、ずっと出入りしてた保険の日比野さんには、お婆ちゃんも思う所があったみたいだけど、あんまり問い詰めなかったみたいだけどね。

 結果としては保険に入っていて助かったんだから。あ、あと、貸すのは良いけど、失敗したら相続で私に渡すお金は無いからねって言われたわ」


 お母さんは、苦笑を浮かべながら教えてくれた。元々、お婆ちゃんが住んでいるお家は、先祖代々のお家だ。そこで今もお婆ちゃんは畑でお野菜作っているし、お米は近所の人から貰えるから年金だけで全然問題ないって言ってた。


 私が3歳の時に亡くなったお爺ちゃん。元々、お酒と食べる事が何より好きだったらしい。


 どんなお爺ちゃんだったかは、大きなお腹だったような? 太ってたかな? 程度の記憶しか残ってないな。

 結局はお酒を飲んでお風呂に入って、心不全で亡くなったんだよね。

 享年64歳、お葬式とかの記憶がわずかにあるだけで、私はあんまり覚えていないんですよね。


 そういえば、お婆ちゃんが亡くなってから、我が家は家を購入したんだった。そう考えると遺産がはいったのかな? そこら辺は何も聞いてなかったけど、うちにお金があったとは思わないから、多分そういう事だったんだろう。


「あ、お婆ちゃんは私が24歳の時に亡くなってるからね、お母さん注意してね。絶対に一緒に住んだ方が良いと思う。あとは健康診断!」


 お婆ちゃんの死因は心筋梗塞でした。お爺ちゃんが亡くなってからも、ずっと一人で暮らしていた。そろそろ一緒に住もうってお母さんが言っても、中々ウンって言わなくて、お婆ちゃんも結局一人で亡くなっちゃった。


 幸い近所に住むお婆ちゃんのお友達が、何時も通っている喫茶店にお婆ちゃんが来ないのを心配してくれて、風邪でも引いていないかと家に顔を出したの。そこで亡くなっているお婆ちゃんを発見してくれた。

 そのお陰で死後何日とかにならなくて済んだんだけど、お母さんは強引でも良いから一緒に暮らしていればってずっと後悔していたから。


 ただ、一緒に暮らすにもお父さんの方のお爺ちゃんとお婆ちゃんがねぇ。


 今更だけど、お母さんは一人っ子です。で、お父さんは次男。その為、お父さんの長男がお爺ちゃん達と同居しているんだけど、私もお姉ちゃんもお父さんの方の親戚は嫌い。

 いっつもお母さんに酷い事を言うし、伯父さんの子供と比較されて、私達の事を馬鹿にして来るんだ。


「あっちだって、大した学歴とかじゃないんだけどなあ」


 小学校の頃から言われ続けていて、なのに結局は従兄弟達も大した大学は出ていない。そこから、地元の普通の会社に勤めたんだよね。ただ、あっちは二人とも男の子で、私達はまず女だという事でその後も差別されていた。


「やっぱり男の子は良いわよねぇ」


 これがあっちのお婆ちゃんの定番の言葉だった。それをお母さんや私達に聞こえるように言うんだよね。お年玉も思いっきり差別されていたし、高校生になってもお年玉は1000円だった。


「貰えるだけでもありがたいと思っておきなさい。あっちは年金生活なんだから」


 これが何時も私達にお父さんが言う言葉。それは判っているけど、お母さんへの嫌味や悪口は注意した方が良いんじゃない? それをお父さんは聞こえていないふりするの。


 あと、従兄弟の和也君や次郎君は高校生の時はお年玉は5000円貰っていたって言ってたからなあ。まあ、一緒に暮らしているし、そんな物かもしれないけどね。幸い、従兄弟達は自体は其処迄性格は悪くなかったと思うけど、付き合い自体が無かったから良く判らない。

 そもそも、次郎君ですらお姉ちゃんと同い年だから、私とはそもそも接点はなかったね。


 それでも、何となくだけどお姉ちゃんは従兄弟達からも意識されていたような気がするけど。まあ、高校生の頃のお姉ちゃんは今どきの高校生で、派手目の美人さんだったからね。


 そこも派手だの何だのとあっちのお婆ちゃんには色々と言われたみたいだけど。もっとも、お姉ちゃんは相手にもしていなくて、それでより可愛げが無いとか言われてたなぁ。


 という事で、話はまた戻ってですね、とりあえず早めに口座を作りました。そして、WAPOOの公募開始を待ちます。

 ただ、この段階で証券会社さんとの関係を少しでも良くしないとです。公募の段階で購入出来たらその価値は計り知れないのです。


「1株の公募価格は確か70万円よね?」


 ただ、こういった値上がりが見込めるお話は、きっと証券会社さんと関係が良い人とかにまず話が行きそう。何せ、上場時に既に200万ですよ? その段階で売っても130万円の利益です。


 ただ、上場の情報を既に私達が知っているのはおかしな話なのかな? それこそ、変に動くとインサイダー取引とかを疑われかねません? その為、慎重に動かないとなのかな? 株素人の私達では、そこら辺が良く判らないんですけどね。


「お母さんの貯金も少し使って、3人の口座に1千100万づつ入れたわ」


 お母さんからこの話を聞いた時は吃驚したんだよね。てっきり、お母さんの口座に1番多くお金を入れて、お姉ちゃんと私は少なく行くんだと思っていたから。


「日和の口座に一番大きくお金を入れておこうと思ったんだけど、あとで日向が知った時に説明できないから出来なかったの。ごめんね」


 お母さんにそう言われた時には、慌てて頭と手をブンブンと横に振ったよ。そうだよね、お姉ちゃんに、何で日和の方が金額大きいのって聞かれても説明できないですよね? 私が暴騰銘柄を教えたなんて絶対に言えないですよね。


「ええ、ですからWAPOOの公募が始まったら教えて欲しいの」


「あの、ですからその情報はどちらから?」


「これからの事を考えれば、自然と予測は出来ますわ。これからはネットが主流の時代へと移り変わって行きますし、そう考えればWAPOOが日本で上場するのは自然の流れでしょ?」


 うん、お母さんが思いっきり怪しい人を演じています。証券会社の人は上場の情報を掴んでいるのかいないのか判りませんが、何故お母さんがWAPOO上場を知っているのか頻りに探りを入れて来ます。


「バブルも崩壊しましたし、証券会社さんも色々とありましたでしょ? それで、どうしようか考えていたんです。是非末永いお付き合いをお願いしたいわ」


 うん、如何にも今までは他の証券会社さんでお願いしていましたよって感じを匂わせています。これって調べようと思えば調べられるのかな? 良く判りませんね。



 そしてしばらくして、漸く待ちに待っていたWAPOOの公募情報の連絡が入りました。


「う~ん、もう少し何とかなりませんか? 即決ですぐに購入手続きを行いたいんです。判子などもう用意してきましたわ」


 私は、証券会社にお母さんと一緒に来ています。お姉ちゃんは今日は学校が終わったらお友達のお家に遊びに行くので一緒には来ていません。


「公募枠がそんなに無くてですね。本来はお取引を頂いている所を優先したいのですが。鈴木さんは前からこの銘柄に注視されていたので。これでも凄い優遇なんですよ?」


「そうですか、判りました。それでお願いします」


「よろしくおねがいします~」


 証券会社さんからお母さんの携帯に連絡が来たのは今日の午前中です。お母さんは急遽午後からの会社を早退して、私の授業が終わるのを待って証券会社さんに来ました。そして、発生していたのが今の遣り取りなんですよね。


 証券会社を出たお母さんは、途端に表情を崩しました。


「やったわ! 予定数量より全然多い!」


「うん、お母さん凄い!」


 何と、私達はそれぞれ10株づつのWAPOO株を購入する事が出来ました。他の人に取られないように、公募されたら直ぐに連絡を貰えるようにしてあって、すぐ締結しに駆けつけたんです。


「一人1株70万で10株だから700万ね。200万だと買えても5株しか買えない予定だったから倍よ!」


 証券会社を出てからお母さんの頬は緩みっぱなしです。ただ、お母さんが興奮するのも仕方が無いですよね。


「うん、あとは私の知っている未来の通りに動いてくれるかだよね」


 最初はお母さんと同じ様に喜んでいた私ですが、今度は次第に心配の方が大きくなっていきます。


「余裕が出来た300万は、日向や日和の塾代などに回すわ。ただ、来年は日向も6年生だけど、中学校はどうしようかしら」


 今の所、お姉ちゃんは中学受験をしたいとは言いだしていないんだよね。前の時はバレーで一緒だった友達がみんな受験するんだったかな? ただ、先日チラっとお姉ちゃんが言っていたんだけど、今通っている英会話教室の子も中学受験するみたい。


「前に言ったけど、英会話の教室の子も中学受験するみたいでお姉ちゃんも悩んでるよ。ただ、徳川女学園じゃ無くて、進学校の豊臣女子みたいだけど」


「豊女ねえ、偏差値はこの地区で1番だけど、あそこもお金持ちの子が多いから、どうなのかしら?」


「滑り止めで織田女子も受ける?」


「日和の話を聞いてて、女子校ってどうなの? って思っているのよね。ちょっと考えるわ」


 まあ、お姉ちゃんがまだ何も言って来ていないし、何か言って来てからで遅くは無いのかな?

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