第7話 日和から見たお父さん
お母さんに自分の身に起きた事を打ち明けて、思いっきり気持ちが楽になった。秘密を抱えている事に対してというより、日頃の挙動で怪しまれたり、忌避されたりしないか。そういった不安が無くなったのは大きい。だから、お母さんに打ち明けたのは間違いでは無かったと思う。
そして、お母さんもお母さんで、色々と楽になったみたいです。
子供二人の世話をすると言うのは結構大変らしく、今はお姉ちゃんだけに注意しておけば良いというのは精神的にすっごく楽だとか。ただ、だからと言って私を完全に放置出来るほどには信じてくれていないように感じますが。
私も中身が大人と言う事で、お姉ちゃんの行動を注意して見ている事が出来ます。お姉ちゃんの事のみならず、日常でのお母さんに報告しておいた方が良いと思った事は隠さず報告します。もっとも、普段は授業が終わってもお互いに別々の所で過ごしていますから、報告内容は基本的に当り障りのない事に限られてしまいますが。
あと、お母さんも別に私を放置するというのではなく、私より姉の言動に注意を向ける比重を大きくするという事。お姉ちゃんは性格的にお父さんに似ているので、やはり自分に注意が向く事が嬉しいはず。その為、妹が出来てお姉ちゃんより私に注目が集まる事に、子供故に嫉妬する事が良くあったように思う。
「自己顕示欲が強いのと、承認欲求が強いんだよね」
「あら、難しい事を言うわね。まあ、判らなくは無いわね。お父さんもそう言う所があるものね」
うん、お父さんはそれ以外にも、私達子供に対して無関心な所があるよね。子供より自分って時が多々あった記憶がある。特に私達が小さい頃などは、お母さんが私やお姉ちゃんに掛かりっきりになると、真面目に子どもなんかほっとけって怒ったのを覚えてる。
それでお母さんと良く喧嘩していた。
「でもね、お姉ちゃんは今のうちなら修正が効くかも? だから、お姉ちゃんの相手をちゃんとして欲しいの」
「性格は生まれつきなんでしょうけど、今のうちに緩和できるならしておいた方が良いわね」
という事で、お母さんはここ最近は、お姉ちゃんとの会話を意図的に増やすようにしている。その日に会った事とか毎日ちゃんときいてあげている。その為なのか、最近のお姉ちゃんはご機嫌です。前のように癇癪を起す事が無くなりました。
「お姉ちゃん凄い! 小学校に入るとこんなに難しい事をお勉強するんだね」
「そうだよ、ほら、こないだのテスト100点だったんだよ。凄いでしょ!」
「うん、お姉ちゃん凄い! 頭いいお姉ちゃんカッコイイ!」
只今絶賛お姉ちゃん凄い凄い作戦を発動中です。
前にも言ったけど、お姉ちゃんって地頭は悪く無いと思うんだよね。ちゃんと勉強すれば普通に良い点数を取るし、中学受験も問題無く受かっていたし。そもそも、私の苦手な英語に限って言えば、確か高校時代に英検2級までとっていた。英語の特に力を入れていた高校っていうのもあるけど、それでも凄いと思う。
そう考えると、やっぱり中学校からの友達が良くなかったんだろうなあ。中学校からどんどんと成績が下がって行ったみたいだからね。派手な物に引き寄せられやすいというか、流行に敏感と言うか、そこをどう修正していくかが今後の課題だと思う。という事で、お母さんと一緒に頭のいい人カッコイイ作戦を発動中なんです。
「日和も早く小学校行きたいなあ」
「そんな楽しい物じゃ無いよ? 嫌な先生もいるし」
「そうなの?」
「うん、男の子ばっかり依怙贔屓するお婆ちゃん先生もいるし、しょっちゅう怒鳴る先生もいる。意地悪してくる男の子もいるし、早く中学生になりたいなあ」
ふむふむ、お姉ちゃんは結構モテてたみたいだからなあ。小学生なのに男の子から卒業式に告白されたとか言ってたし! 私は勿論そんなドキドキイベントは無かったです。
「意地悪して来るのって、お姉ちゃんが好きだからとかじゃないの? 前におばちゃん達がそんな事言ってたよ?」
「日和、あのね、好きな子に意地悪するとか有り得ないから。意地悪されて嬉しい女の子とかいないよ?」
「うん。意地悪されると悲しくなる」
そこはお姉ちゃんの言う通りですね。私も転生してからは、幼稚園でちょっかい掛けて来る男の子には容赦なく鉄拳制裁を食らわせます。前世では我慢していたんですよ? 良く泣いて帰って来たってお母さんに聞きました。幼稚園の頃をあまり覚えていないですけどね。
「でしょ? 小学校でもし虐められたらお姉ちゃんに言うのよ? お姉ちゃんがちゃんと仕返ししてあげるから」
「うん、お姉ちゃんありがとう!」
私がお礼を言うと、お姉ちゃんは嬉しそうに笑います。
うんうん、こうやって妹に尊敬されたいお姉ちゃんを作っていければ良いですよね。まだまだ何処でどう変わるかは判りませんけど。
そして、私のある意味過酷な幼稚園時代は4ヵ月ほどで終了しました。時間が経つのは早いですね。あっという間に3月です。卒園式です。
「早いですね、もう卒園式です」
「でも、4月から一緒の小学校だよね。同じクラスになれると良いなあ」
「そうだね、一緒のクラスになれると良いね~」
卒園式も終わって、なっちゃんとそんな話をしています。お母さんはなっちゃんのお母さんと何か話をしているので、私となっちゃんはお母さん待ちです。
前世と一緒ならなっちゃんとは6年間同じクラスなんですよね。まさに腐れ縁です。流石に中学校では1,2年生の時は別のクラスでしたが、3年生の時には同じクラスになりました。その為、この世界が前世と何処まで同じなのかを検証する為にも、なっちゃんと同じクラスになるかは重要なのかな?
「お母さん達長いね~」
「たぶんこの後みんなでご飯行くんだよ。なっちゃんが良くいくファミレス」
「あああ~~~、ありうる。今日のランチ何かな? 鳥だと良いなあ」
なっちゃんが嬉しそうです。我が家ではファミレスも滅多に行かないのですよね。なっちゃんの家では結構頻繁にファミレスでご飯を食べるらしいです。ランチとかは安いのでお母さん達が集まると、良くそこでご飯になるんですよね。
私となっちゃんの所に、同じ幼稚園だけど小学校は別々になっちゃう静香ちゃんと由美ちゃんがやって来ました。
「ヒヨちゃん、なっちゃん、お手紙書くからね! 小学校は別だけど、中学校は同じってお母さんが言ってたから」
「また遊ぼうね!」
4人でワイワイ話しているんですが、由美ちゃんは同じ中学だったけど、静香ちゃんはお姉ちゃんと同じ徳川女子へ行っちゃった。その為、卒園以降で会う事は無かったですね。
私達がワイワイしている間に、お母さん達も人数が増えていた。そして予想通りにといいますか、前世と同じ様にみんなでファミレスへご飯を食べに行く事に。まあ、この後なにかハプニングなどがあった記憶は無かったはず?
その後はファミレスでご飯を食べて、特に何もなく家に帰るとお姉ちゃんが激おこプンプン丸でした。
「そういえば、何となく記憶にあるかも」
予定では、お姉ちゃんが帰ってくるまでに帰ってくるはずだったんですよね。ただ、思いの外にお母さん達の話が長引いて、タッチの差でお姉ちゃんの方が早く帰宅しちゃったんでしたね。
「ずるい! 私だけ抜きでファミレスでご飯なんてずるい!」
そうです。我が家ではなっちゃんの家と違ってファミレスなんて滅多に行かないんです。その為、子供の頃はファミレスに行くのすら贅沢な事をしている気になりました。
「ごめんね。別に日向を差別した訳じゃ無いんだけど、判ったわ。夜はファミリーレストランに行きましょうね。その代わりお父さんには内緒よ?」
「うん! やった! ファミレスでご飯だ!」
お姉ちゃんのご機嫌が一気に回復しました。でも、確かお父さんに内緒だったのがバレちゃうんでしたよね? それで夫婦喧嘩勃発したはずです。でも、何でバレちゃったんだっけ?
そして、お父さんが何時もの様に9時過ぎに帰って来て、お母さんがチャチャっと作った夕ご飯を食べていると、そこへお姉ちゃんがパジャマのまま珍しくやってきました。普段だともう寝ている時間です。
「お父さん、あのね、今日ね、おかあ「お姉ちゃん!」さん、ん?」
慌ててお姉ちゃんの発言を止めます。そして、慌ててお姉ちゃんを引っ張って、部屋の隅っこでコソコソとお姉ちゃんに話しかけました。
「お姉ちゃん、駄目だよ。ファミレス行ったのお父さんには内緒だよ」
「あ、そうだった!」
とっさに思い出したんですが、ファミレスに行けたのが嬉しかったお姉ちゃん。ついついお父さんに自慢してしまったんですよ。それでみんなでファミレスに行った事がお父さんにバレちゃったんだった。
「ん? 日和、なんだ?」
「え? えっと、来週からテストだから頑張る。だから良い点とったら何か買って?」
お姉ちゃんが咄嗟に話を変えます。でも、流石はお姉ちゃんです、こういう所も要領が良かったんでしたね。こういう所で色々とお姉ちゃんと私の格差が生まれたような気がします。私ってお願い事をするのが苦手と言うか、下手なんですよね。
あと、今更だけどお父さん抜きでファミレス行ったくらいで怒るってどうなんだろう? そもそも、お父さんだってよくお酒を飲んで帰って来るし、お母さんだってちゃんと働いているし、たまに家族でファミレスで食べるのくらい問題無いと思うんだよね。
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