第42話 宣戦布告

(遠野視点)


 集合時間は7時になった。今日は皆んな集合時間に間に合い、部員全員いるという状態だ。選手はアップの為に体をほぐし、マネージャー達は水の用意などをやってくれている。テントの設営は選手とマネージャー、顧問と全員で役割分担をしてテントを張った。そしてミーティングが始まった。


「今日は7時40分から練習コートの時間でそれが終わったら開会式だ。皆んな体調は大丈夫か?」


「はい。全員大丈夫です」


「了解。今日の1回戦のオーダーは開会式後に言うつもりだ。ミーティングは以上だ」


「「ありがとうございました」」


 この大会は県の高校28チームが参加する。第4シードまでが1回戦免除となる。上位3チームが九州大会に出場できる。試合は団体戦でシングルス3つ、ダブルス2つの計5試合の内、先に3試合を勝利した者が勝利となる。ただし1回戦と2回戦のみ全試合行われる。シングルスとダブルスが交互に行われるルールになっている。


 そしてこの大会は試合前に各チームが練習できる練習コートの時間が設けられている。練習コートは第1陣と第2陣と2つに分けて行われる。俺達は第1陣に組み込まれているが、沖縄松蔭、潮林などの強豪は第2陣に組み込まれている。練習で各学校のメンバーを見れるので第1陣で良かった。


 7時40分になったので俺達は練習コートに入り打ち始めた。


「ねえ、あれが蒼京?」


「そうじゃないか。廃部になったって噂だったけど、出るんだな」


「部員が少ないね」


「そうだな。部員の数も減ってるし今年の蒼京は大丈夫そうだな。行こうぜ」


 近くにいた人の会話が聞こえた。やはり蒼京が廃部になったことは噂になっていた。それに今の蒼京はマネージャーを除けば9人の少人数の部活だ。下馬評が低いことは承知の上だ。しかしやはり廃部の噂がありさらに少人数の部活があったこともあってこの第1陣の中ではかなり注目されていた。憎悪ではなく、好奇の視線だったのでそこは良かった。


 俺達の練習である第1陣が終わり、これから第2陣の練習が始まった。俺達は沖縄松蔭と潮林の2チームを見ることにした。まずは沖縄松蔭の練習を見た。


「…凄い」


 しばらく沖縄松蔭の練習を見て俺は言葉を失う。ショットの威力、精度が群を抜いていた。まず基礎的な能力がこの人達はずば抜けているんだと感じた。すると阿西が話し始めた。


「これでも沖縄松蔭は完全体じゃないぞ」


「え?」


「沖縄松蔭はここ数年県大会では登録メンバーを4名レギュラー、残り6名を2年生以下のメンバーで構成してるんだ」


「つまり半分以上はレギュラーじゃないのか!?」


「そういうことだ。下級生達に経験を積ませ、後継者を育成してるってわけだ。それでも県大会優勝し続けているわけだから、本当すごいよな」


「そうだな…」


 県の圧倒的王者沖縄松蔭。ここまでのチームとは思わなかった。これでレギュラーが揃った時、彼らはどうなるのか、それを考えるだけで体が震えた。武者震いか、それとも恐怖か、どちらかは今の俺には分からなかった。


 次に潮林の練習を見に行った。今回は前回の練習試合で見たことのない人が多く、今日のこのメンバーが潮林のレギュラーメンバーのようだ。こちらが練習を見ていると、1人の男が俺達の元へやってきた。俺達はその男とフェンス越しに向き合っている。俺はこの男を知っていた。練習試合後、ジャクソンさんと一緒にいた男だ。あの時は横顔と後ろ姿だけでどんな顔つき、体格か分からなかった。見た感じ、2年生というところか。するとその男が話し始めた。


「初めまして。蒼京の皆さん。潮林のレギュラー2年具志堅晴哉です。今日は偵察ですか?」


「そうですね、そういったところです」


「へえ…、俺の予測では俺達とあなた達はベスト8で当たるでしょう。懸命な判断ですね」


「は…はぁ」


 俺には何となく次、この人が何を言うのか予想できた。


「でも、勝つのは俺達潮林ですね。俺達はあなた達のデータを持っているのですから」


 やっぱりそうだ。この人は最初から俺達に挑発、勝利宣言する為に話しかけてきたんだ。潮林は蒼京の事をライバル視しているだろうからこうなるかもしれないとは思っていた。


「宣戦布告と言うやつですか?」


「そうですね。特にあなた、遠野悠馬さん。俺はあなたのデータを知り尽くしている。長所もそして大きな弱点も」


「なに…?」


「おい、具志堅何してる。次はお前の打つ番だぞ」


「はい、すみません!、…それでは皆さん準々決勝で会いましょう」


 そう言って彼はコート内に入り、練習を始めた。


「遠野、弱点って…」


 喜納が心配そうに話しかける。


「ああ、多分スマッシュが打てないことだろうな」


「あの練習試合だけでそれに気づくとはな…かなりの分析力だな」


「うん。でも俺達は負けない。それだけの練習はしてきたはずだ」


「俺達…、良いね。よっしゃ、絶対準々決勝まで勝ち上がって潮林を倒してやろうぜ。そしてあの2年をぎゃふんと言わせようぜ」


「おう」


 俺達はあの2年生に宣戦布告されたことで更に火がついたのだった。練習を見終わった後、遂に1回戦のオーダーが発表された。


「1回戦のオーダーを発表するぞ。

S3 遠野

D2 喜納、国吉

S2 山田

D1 赤嶺、宮城

S1坂田

以上だ」


 俺はS3だ。一番最初の試合に選ばれた。責任重大だが勝てばチームに勢いをつけられる。良い役割だなと個人的には思っていた。


「今回は団体戦だからベンチコーチを1人設けても良いことになっている。ただし、ベンチコーチはメンバー内から出す規定になっているから控えメンバー中心にやってほしい。さあ、皆んな緊張することはないぞ。楽しんでやってこい」


「「はい!」」


「それじゃ、円陣するか」


 山田が皆んなに声をかけた。俺達は肩を組み合う。


「さあ、いよいよ待ちに待ったインターハイだ。俺達の力を見せつけよう。俺達が新たな蒼京ってことを。いくぞ!」


「「おう!!」」


 インターハイが遂に始まり、俺達はまた新たな一歩を踏み出した。











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