第43話 県大会1回戦&2回戦

(遠野視点)


 1回戦が始まった。最初の試合はS3で俺の出る番だ。ベンチコーチには阿西が入ってくれた。


「緊張してる?」


「少ししてるけど、大丈夫」


「さあ、頼むぜ、一発目」


「おう」


 試合が始まった。相手からのサーブだ。相手はサーブをワイドに打ってきた。それを俺は相手のいないコーナー隅へストレートに打った。


「0-15」


「ナイスショット〜」


 決まった、リターンエースだ。試合のファーストポイントでこういったポイントが取れたのは大きい。これで相手に心理的プレッシャーを与えることができる。それにコールと共に拍手とナイスショットと応援の声が聞こえる。声出し応援ができる団体戦の醍醐味だ。


(面白いかもな、団体戦)


 その後も俺は相手のリターンゲームを優位に進めることができ、このゲームをブレイクできた。


「ゲーム蒼京1-0」


(山田視点)


 遠野は凄く良いスタートダッシュを決めたと思う。このリターンゲームは全て6球以内でポイントを獲得している。完全に相手を圧倒していた。


 俺の隣には宮城がいる。しかし宮城はタブレットで何かを見ていた。色々な数値が書いていているがゲームでは無さそうだった。


「何見てるんだ?」


「ああ、これはさっきの遠野のリターンゲームのデータだよ」


「データ?」


「うん。ほら、最初のポイントで遠野がリターンエースを打ったでしょ?」


「そうだな」


 すると宮城は画面をスワイプさせてその時のデータを出してきた。


「遠野のさっきのリターンエースの速度は121kmで回転数は2075くらいだね」


「凄いな。そんなことまで分かるのか」


 俺がそう言うと宮城は小さなチップを出してきた。


「うん。この1つ2g程度のチップを2つはることで打球の速度、回転数、弾道とかが測定されて対応するアプリに送信されるんだ。試合前に遠野に渡して測定させてもらってたんだ」


「なるほど、それにしてもすごい機能だな。2gならそんなにサイズも変わらないし」


「でしょ!父さんが前に買ってきてくれたんだ」


「「へ〜、こりゃすごい」」


 気がつくと皆んな宮城のタブレットを見ていた。それもそうだろうな。俺も今までこんなアイテム使ったことないし、使ってる人も見たことなかったし、珍しく思うのも当然だろう。


「なあ宮城、これ使って俺の試合も測ってくれないか?」


「あ、ずるいぞ喜納。俺も測りたいのに」


 喜納と赤嶺が測定してほしいと申し出た。そしたら皆んなそれに続くように次々に宮城に申し出た。かくいう俺も同じく申し出てしまった。


「うん。大丈夫だよ。チップはいっぱいあるから後で皆んなのラケットにもつけちゃおう」


「やったぜ!ありがとう、宮城!」


 国吉が凄く嬉しそうだった。


「それよりも今は試合だよ」


「はは…、そうだよな」


 そうだ。今は大事な初戦の真っ最中だ。応援して遠野を後押しするんだ。しかし、さっきのデータが本当なら遠野は良いボールを打っているんだな。プロのストロークの速度は135km、回転数は2500〜3500ぐらいが平均と言われているのだから、鍛えればその領域に達するかもしれない。宮城の作戦したデータがあればもっと皆んなが上達できるかもしれない。俺は期待に胸を踊らせていた。


「ゲームセットアンドマッチ遠野6-0」


 初戦のS3は快勝に終わった。大会のそしてチームの初戦という難しい役割を見事果たしてくれた遠野には感謝しかない。勢いをつくってくれた遠野の為にもこのまま勝ちたいと思った。


(遠野視点)


「お疲れさん、ほい、タオル」


「ありがとう、阿西」


「めっちゃ良いプレーだったじゃん。どうだった団体戦は?」


「団体戦は初めてだったけど、雰囲気とかが個人戦とは全然違くて、めっちゃ楽しめた」


「そっか、やっぱ良いよな、団体戦。あー、俺も早く試合したいな。…なあ、あれ潮林の連中じゃないか?」


 少し遠くの方に潮林のレギュラー陣がいる。どうやらこの試合を見ていたようだ。


「…偵察だろうな。行こう」


 コートから出ようと外に出ると次のD2である喜納と国吉が待ち構えていた。


「お疲れ、遠野。ナイスプレーだったぞ」


「俺らも遠野に続くぜ。く〜、燃えてきたぜ!」


 国吉の闘志がみなぎっているのを感じる。国吉は団体戦みたいなのは好きそうだし、普段よりも凄いプレーが見られるかもしれないな。


「燃えてるな(笑)。後は任せた」


 そう言って俺はコートから出た。こういう、後を託す感じも個人戦には無かったから新鮮だった。リレーをしている感覚だった。


「お疲れ、遠野。ナイスゲーム」


「ありがとう」


 山田が声をかけてくれた。


「悠馬、お疲れ。はい、ドリンク。これ飲んで休んで」


 凛から差し出されたドリンクは前、トレーニングの時に飲んだものだ。


「うん。ありがとう」


 平静を装っているが俺は少し緊張している。凛が言ってくれた昨日の言葉が忘れられなかった。あの時の凛の姿が忘れられなかった。また心臓の鼓動が早くなる。もしかしたらこの感情は…。ドリンクがいつも以上に甘かった。


 その後の試合、皆んなは多少緊張してたみたいだけど、良い試合内容で勝利を収めていた。

1回戦の結果は次のようになった。


S3遠野6-0

D2喜納、国吉6-0

S2山田6-0

D1赤嶺、宮城6-0

S1坂田6-0


 俺達は全ての試合を6-0で勝利するという凄く良いスタートダッシュを切ることができた。続く2回戦は1回戦で出場しなかった阿西と与那嶺を出場させて、オーダーを変えながらも勝利することができ、早々と県大会ベスト8入りを決めた。


2回戦

S3与那嶺6-0

D2遠野、阿西6-0

S2宮城6-1

D1山田、坂田6-0

S1赤嶺6-1


 2回戦を勝利し、コートから出ると潮林高校がいた。そして一番前にいた具志堅晴哉さんが話し始めた。


「やはり来ましたね」


「はい。そちらの試合は?」


「もちろん勝ちました。遂に来ましたよ、5年連続の蒼京戦、ここでこのライバル対決に決着をつける。2時間後楽しみにしてますよ」


 そう言って具志堅さんは立ち去った。具志堅さんはこの蒼京戦に並々ならぬ思いを持っている。ここまで俺達との戦いに執着する理由はなんなのだろうか?5年連続で当たったからか?それとも過去に何かあったのか。俺はそれが気になっていた。

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