第28話 花火大会は誰と行くかに関して

「葵、花火大会一緒に行ってー」


「無理、彼氏と行く」


「彼氏紹介してー」


「友達に何で彼氏を紹介しないといけない」

 全く持ってその通りなのだが、どこかで花火大会に行く人間を固めないと修羅場になってしまう。


「そうだ。結菜、緑と花火大会行ってあげてよ」


「そんな女は知らない」


「もう照れ隠しばっかしてないで、お姉ちゃんのいう事聞いてよ」


「私は友達と行くの。掛川さ、んもお友達と行けば?」


「だとよ。力になれず申し訳ない。美人女教師か、ぞっこん中の可愛い高校生のどれかと行くんだな」


 あいつらはこちらが花火大会という文字を出さずともやってくるに違いない。

 と、思っていたら来ない。

 花火大会は一週間後だぞ、もうそろそろ来てもいいだろう。

 来ない、五日前だぞ。もう来てもいい頃では無いか。

 三日前だ。予定は空けている。鈴香もいない。


「たまやー」

 結局、そうする必要はどこにも無いのに浴衣を着て、で花火を鑑賞した。大きい音がした。きれいだった。指定席取って良かった。


 三日後。


「花火大会に行くよ」

 奏と楓はおばあちゃんの家にいたらしい。


「もういいよ、今更」


「この市は確かに夏休み最大級だけど、隣街もすごいらしいよ。指定席取ったの」

 楓はもう本当に楽しみであることが体中からあふれ出ていた。


「私も想い人と一緒に花火を観たいものね。楓は邪魔だけど」


「左は分けてあげる。右は私ね」


「前という選択肢もあるわよ」


「前は渡さない。後ろだったらあげるけど」


「そうよね。無い乳くっつけても何も感触を覚えないものね」

 花火はもういい。指定席取って観た。きれいで大きい音がした。花火大会はあと一年くらいいい。


 その後、鈴香も同じ席で観ることになった。鈴香はビールで寝てしまい。小娘二人は二十分の花火大会の間いかに背中を取るか、前を取るかで大論争を繰り広げ、位置を変える度に感想を求めてきた。

 鈴香は可愛いけど、花火を前にしたらどうでも良くなった。花火はきれいだな。大きい音がするし、飽きない。


 あんなに花火大会はもういらないと思っていたのに、来てみれば案外楽しい。前に座られるのは邪魔なので膝に頬杖をついた。前を封じたら、花火を前にさえぎる物は無い。


「たまやー」

 かき消す轟音。きらめく火花。小説家だったら、この花火を表現する言葉を書けるだろうか。どんな風に書くだろうか。私には書けないや。


「たまやー」

 花火げんそうが終わって目に入ったのは現実だった。眠りこける女三人。


「台車、誰か貸してくれるかな」

 撤収に来たおっちゃんが冷たいラムネをくれた。


「いいんですか?」


「はだけているが」

 そう言って、目を背けた。紳士的なおっちゃんだ。

「あまり派手に起こすのは可哀想だ。ラムネを頬に当ててやれ、ここは後回しにするからよ」

 ラムネをまず奏と楓に当てた。冷たいと言って起きたので、ラムネを渡した。


 さて、この酔っ払いはどうだ。ぴとり。

「だめです。緑、そんなとこ」

 はっ。

 刺す視線に固まる私。いや、全く問題は無いが、問題がある。



「へぇ、私達がいるのにそこの女とよろしくやってたのね」


「緑も遊び相手いたんだ。驚きだな」

 花火と一緒に華々しく散りたい。

 そして三人と契りを交わした覚えは無い。


「そんなとこダメって言ったでしょ。緑」

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