第25話 友達の妹に足置きにされそうになる
「頑張ってー! 楓せんぱーい」
声援に対して後ろ手を振る楓。
人気だな、さすが高校の王子様。
上がる黄色い応援。
シュートをして拭う汗に、ゼッケンをぱたぱたする仕草。
高校にこんな子いたら、憧れるかもしれないな。私の高校にはこんな王子様はいなかったけど、観戦席に座ってるおにぎりをつまんでいると楓はこちらを見て手を振った。
後ろできゃーきゃー声がした。
「今、振ったよね?」
「こっち見たもん、絶対認知してくれたよね」
ごめん多分、私。
居た堪れなくて、観客席を後にした。どうせ試合は勝つし、観に行ったという大義名分も果たした。
体育館の入り口のベンチに座った。七月だというのに雨ばっかり降って、傘を持ってきてよかった。
「なんであんな事したの?」
トイレに行こうとしたら、楓の声が聞こえた。少し責めるような、それでも少し甘い声。
「だって手を振ってくれたって思ったから」
「私のお姫様はあなたじゃないの」
「私はずっと楓様を好きです」
「君に感情は向けられない。好きな人がいるんだ。八年も恋してる」
バタンと音がした。小さく弱い声で。
「君とはお付き合い出来ない。ごめんね」
私は違うトイレに行くことにした。本気なんだ。ずっと私ばっかりなんだ。
しっかりしろ私、バツイチ三十路だ。顔をぱちぱち叩いた。
葵に悩みがあると言って家を訪ねた。結菜は私を足置きにしようとして、葵の部屋から追い出された。
「お姉ちゃん、冗談だよ!」
「冗談でも友達を足置きにする妹は大っ嫌いです」
「そんな、私はお姉ちゃんが心配で」
「どこが?」
「そのおん。緑さ。掛川さ」
どうしても掛川さんを言えないようだ。
「結菜どうしたの?」
「その、手籠にされそうだなって」
「無いわ。だって高校生にいいようにされている。元? ロリコンだよ」
「ロリコンじゃないわよ」
「だから元つけたじゃん。結菜心配しないで部屋にいてね」
「はーい」
私の背後で「お姉ちゃん泣かせたら新しい
熱いやつでも、熱くないやつでも嫌だな。
「で、なんでも話してみ?」
姉妹に強く迫られていること、歳下の女教師を手籠にしたいこと。
「アウト」
「さすがにロリコンはないわよ」
「それは当然」
いかに児玉先生いや鈴香が可愛いかを語ろうとしたら、鈴香はストーカーみたいな男性教員がいると話した時点でストップが入った。
「児玉先生は何歳?」
「新卒だから二十二?」
「七歳差か、七歳差の百合が成立するのは二次元だからだよ」
「そんな百合だなんて、私は鈴香とずぶずぶになりたいわけじゃないよ。正直一緒に寝ただけで満足だし」
「それをニヤニヤしながら、鈴香とか寝たっていうのはやめた方がいいよ。そういうのって女は敏感って知っているでしょう」
「伊達に三十年くらい女やってないわよ」
「アンタのふしだらな感情なんて、児玉先生に筒抜けよ」
「なんでそんなひどいこと言うの?」
「客観的に見てみ? 私の言うことはそんな酷くないから、大人としての距離感をちゃんと持ちなさい。高校生と美人美術教師にはね」
「なんか模範回答ね」
「大人の慎みよ。猫でも飼ったらどう? 自分とは違う生物がいるのは楽しいわよ。それに模範回答って分かるなら、自分でどうにか出来る頭はあるものよ」
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