Karte.8 CONTRACT
覆い隠す暗闇に視界を埋め尽くされ、背後から声をかけられて景は振り向いた。
「えっ?」
そこには一人の男が立っていた。
景はどことなく雰囲気が自分にそっくりだと感じた。
自分は絶対にしないであろう格好、もっと言えばまるで中世貴族のような、更に言えばそれはまるで死神のような、黒い服に黒いマント姿という異端な格好の自分にどことなく雰囲気が似ている存在が立っていた。
「君のことを探していたよ…」
「僕を、探していた?」
「そうだ…私と契約をしないか?君にこの世界の
「理解?悪魔蒐め?どういうこと?」
「契約を交わすなら…この錠剤を君に与えよう…この薬は服用して一定期間…君の離人の症状の中から今必要な神経細胞に直接作用させることができる…その力を使ってこの世の悪魔を
「すごい!ダークヒーローみたい。」
タイムリーでファウストを読んでいた手前、景はこのような話には、かなり興味を示していた。
「ダークヒーローか…食いついたみたいだね…やってみるかい?」
「う、うん!」
頭を複雑に振り回されている離人でありながら、常日頃と退屈を繰り返しているという、自己矛盾を張り巡らせた景に取って、二つ返事で答えるほど興味のある話だった。
「では、この薬を与えよう…それともう一つこのパンドラの
「パンドラの匣?」
景が貰ったのは、薬と何やら呪文のようなものがぎっしり描かれた手のひらに納まる一般的なサイコロ大の立方体の匣だった。
「その匣は決して誰にも渡してはいけないし…触れさせてはいけない…悪魔退治と言っても…さほど大層なモノではないから安心してくれ…人間には誰しも心に棲みつく悪魔がいる…そいつを見つけ出して…その匣を掲げ…悪魔を封印してほしい…」
景は無意識に焦がれていたんだ。
この景色を。
そしてそこにある結末がどうであるかより、今ある理不尽な退屈を衝動的に蹴散らしてくれるような、危険と紙一重の刺激的かつ狂気的な喜劇に。
ただ、心を躍らされてみたかっただけ。
「それでは…頑張ってくれたまえ…」
「待って!君は一体…名前は?」
「名前か…
その男は、不敵な笑み浮かべながらビルの隙間を通り抜け、宵闇が漆黒のマントに調和して、グラデーション馴染ますように、消えていった。
「連極エデン…夢じゃないよな?」
離人の悪戯か?
景はそう思ったが、夢のような感覚は一瞬にして失った。
確かに手に持った薬とパンドラの匣によって…。
「ヴィラン…」
錠剤を包装したPTPシートの裏面にはそう書かれていた。
「この薬の名前かな?悪役を意味する言葉だな。なんかかっこいい!!」
厨二病かと言わんばかりに興奮していた景は、ヤバいことに手を出しているかもしれないという疑念はこのとき全く無かったのだった。
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