第15話 酔った勢いのアイデアはだいたいロクなもんじゃない

「うぅぅぅ~! 師匠が悪いんすよー! うわぁぁぁぁっ!」


「まあまあ泣かないで神原さん! もっと飲んで飲んで!」


 大泣きする恵莉奈を上機嫌で慰める天川。ふたりはすっかり出来上がっていた。


 あのあと、天川を車に乗せてカラオケに行くことになった。


 天川の言い分としては「旧元カノの神原さんとドライブデートしたのに、私は放置プレイ? 島崎くんってサド?」ということらしい。


 そんな訳の分からない言い分で押し切られて薄暗いカラオケの個室に三人で入ったはいいものの、お酒を飲んで上機嫌になった天川と、同じく飲酒をして泣き出した恵莉奈。


 天川が笑い上戸なのは知っていたが、恵莉奈が泣き上戸だったとは……。


「そもそも師匠がちゃんとあたしを抱いてくれれば何も問題なかったんすよー!」


「だ~か~ら~、そんなたらればの話をしたってしょうがないじゃない! 飲んで飲んで! 嫌なことは忘れ~ましょ!」


「っていうか、天川先輩もなんで師匠の童貞もらっちゃったっすか!」


「え~、八つ当たり~?」


「そうっすよ!」


 俺を挟んで言い合う二人はまるで収拾がつかなくなってしまった。カラオケに来たというのに、一曲も歌わずにおり、酒を飲んでは騒ぎ倒す始末。


 唯一素面の俺はというと……。


「師匠! 責任取ってくださいっす! うわ~~ん!」


「え~、それはホテルでしちゃった私が言うべきセリフだと思うんだけど~」


「……天川は火に油を注がないでくれ。あと恵莉奈も一回おちつこう。な?」


 とまあ、ふたりを宥める役回りだ。


「ここで言い合っていてもらちが明かないわね」


 何を思ったのか、天川は俺にデンモクを渡してきた。


「今から島崎くんには同じ曲を二回歌ってもらいます」


「ほう?」


「私と神原さんはそれぞれ一曲ずつ、自分の持ちターンを与えられて」


「ふむ」


「島崎くんに何でもできます」


 うん、嫌な予感がしてきた。天川の思い付きは大体ろくなものじゃない。


「それで島崎くんにより低い点数を取らせた方が勝ち! 島崎くんにキスできます!」


「受けてたつっすよ!」


「あれ~? おっかしいぞ~。俺の意見は聞かれないのかな~?」


「「浮気野郎は黙ってて(っす)‼」」


 こうして酔っ払いたちの不毛な争いが始まった。

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