第14話 ドライブデートはだいたい上手くいかない

 俺たちが向かったのは海ほたるだった。


 東京都と千葉県の間、東京湾に浮かぶパーキングエリアだ。


 先日天川が、恵莉奈の部屋に来た騒動の詫びというわけではないが、今日は俺の運転でここまで来ていた。


「あれさ、恵莉奈の作品のじゃないか?」


「あっ、ホントっすね~」


 パーキングエリア内の巨大なスクリーンには恵莉奈が書いた小説を原作とした映画のCMが映し出されており、彼女はすこし恥ずかしそうにしていた。


 ふたりで脚湯に浸かったり、しあわせの鐘を鳴らしたり、お土産を交換したりしているとあっという間に夕方になる。


「日が暮れる前に帰るか」


 ここから寮のある八王子までそこそこな距離がある。半日たっぷり楽しんだ俺たちは寮に帰る……予定だったのだが。


「師匠……」


 寮に帰る途中の山道で停車して、恵莉奈は俺の膝の上に乗って向かい合う形になっていた。


 恵莉奈の金髪は月明かりで輝いており、白い肌もいっそうきれいに見える。


「今日の『運賃』は師匠が請求していいんすよ」


 薄手の服越しに恵莉奈の柔らかさを感じる。


 オフショルのシャツは胸元が見えており、ショートパンツのせいで脚の感触も生で伝わってくる。彼女の温度を直に感じることが出来る。


 柔らかで温かで……こうしてくっ付いているだけで気持ちがいい。


「それとも……あたしはやっぱ魅力ないっすか? 天川先輩以下っすか?」


「そ、そんなことは」


「だったら、『請求』してほしいっす。あたしは何されてもいいっすから」


 先日の天川との言い合いが効いているのだろう。連日嫉妬を見せるようになり、今日にいたる。


「恵莉奈、目をつぶってくれ」


 だが、この嫉妬も元はと言えば俺の責任。


 同情じゃないけど、彼女の気持ちに応えてあげたい。


「んっ、ちゅっ……師匠ぅ」


 唇を合わせて……なんて出来たらいいのだが、そうはいかなかった。互いに頬をなめ合って、首筋をなめ合って……恵莉奈はすぐに蕩けてしまった。


 付き合っていたときも手をつないだだけで、真っ赤になってしまうほど初心だった彼女は頬へのキスでもトロトロになってしまう。


「もっと、もっとっす……」


 背中に手をまわして抱き着いてくる。


 温かで柔らかな恵莉奈の感触がより伝わってくる。シトラスの匂い、ちょっと汗ばんだ胸元、そのすべてが恵莉奈を感じさせる。


 気付けば俺も恵莉奈に夢中になっていた。今でも恵莉奈のことは好きなのだと、自覚させられる。恵莉奈も俺への好意を確かめるように、キスをしながら体をよじる。


「師匠……もっと、していいっすよ」


 恵莉奈は胸元を緩めて、谷間を大きく露出させる。白くて丸みを帯びたきれいな胸。その谷間は深く、つい目を奪われる。


「師匠がしたいこと、なんでも……キスの先もしていいんす」


「でも俺はさ……」


「別に彼女にしてくれとか言わないっす。師匠に辛い思いはしてほしくないっすから。だから、カラダだけでも求めてほしいっす。オ、オナホにされてもいいっすから」


 恵莉奈の顔は真っ赤になっていた。それだけ勇気を出してくれたのだ。


 高校生の時は断ってしまって、彼女を傷つけてしまった。


 でも今はどうだ? 断る理由があるのか?


 俺に彼女はいなくて、互いに大学生になってある程度は責任を取れる立場だ。そして恵莉奈から求めてきてくれている。


 意を決して恵莉奈に手を伸ばした時だった。


「これ、公然わいせつかしら?」


 いつの間にか車の傍らに立っていた天川が俺たちを見下ろしていた。

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