17 赤薔薇の花言葉
約束していたバレンタインデー。バレンタインは宣言通り、誰からもチョコをもらわなかった。中等部の女の子達が数人持ってきてくれたけど、全部断った。
月乃さんは僕の家に来てくれて、約束していた、輝くようなチョコレートケーキをくれた。早速僕の分と月乃さんの分を切り分け、いただいた。
当然だけど、美味しい。光沢のあるチョコレートケーキは宝石みたいだ。
残りは全部僕が食べよう。
美味しいチョコレートケーキを食べていると、月乃さんは、僕が試験で学年一位だったことが、すごいと褒めてくれた。
「授業態度の悪い人」の汚名が返上出来た。
僕は、前に疑問に思っていた「月乃さんの就活頑張る発言」について尋ねた。
真面目な月乃さんは、コネクションで虹川関係の会社に就職したくないらしい。料理を褒められたことがあるから、調理関係や、ウェイトレスなど、料理に関する職に就きたいそうだ。
折角僕を意識し始めてくれて、名前で呼んでも満更でない風の月乃さんだ。
ここは僕も月乃さんの就活を手伝って、点数を上げたい。
僕は頑張って、就職活動の支援をした。就職先情報の書類を渡したり、筆記試験の勉強に付き合ったり、面接に関しての意見を述べたりしてみた。
その折には、つい月乃さんへ触ってしまったり、くっついてしまったり、接触過多になってしまった。月乃さんは顔を真っ赤に染めていた。
これは、かなり反応が良い。いける!
月乃さんから内定をもらったと言うメールをもらい、お祝いとともに、月乃さんへ付き合ってくださいとお願いしようと考えた。
僕は「付き合ってください」と申し込みに行くので、改まった格好をしようと思い、制服に着替えた。後、真紅の薔薇の花束を買った。赤い薔薇の花言葉は「情熱・愛情・あなたを愛します・貞節・美、模範的・熱烈な恋」だ。僕の気持ちを赤薔薇に託す。
僕は月乃さんの許へ行き、内定祝いを述べた後、赤薔薇を差し出した。
「虹川月乃さん」
僕が改まって呼びかけると、月乃さんは不思議そうにしながら答えてくれた。
「はい」
月乃さんからの返事を待ってから、胸の内を明らかにした。
「僕と、結婚を前提に付き合ってください」
『虹川征士』計画前進の為だ。
驚愕で硬直している月乃さんへ、言葉を重ねた。
「ずっと、ずっと、好きでした。これからも、月乃さんだけが好きです。どうか、付き合ってください」
僕が月乃さんの綺麗な顔を見つめていると、間をおいてから、月乃さんは赤薔薇を受け取ってくれた。
「……はい」
……信じられない。月乃さんが了承してくれた。僕は嬉しさのあまり、月乃さんに抱きついた。
「やったー! 僕、頑張りました。今から僕は、月乃さんの恋人です!」
本当に、頑張った甲斐があった。幸せすぎて泣きそうになった。
「こ、こら。そんなに抱きつかないで」
「だって僕、恋人ですもん。抱きついたっていいはずです」
恋人ならば、遠慮会釈なしに月乃さんへ触れる。またいつか、柔らかい唇にキスだって出来るだろう。
「まあ、恋人にはなったけれど……」
「こうしてはいられません。きちんと虹川会長にご挨拶しなければ。僕が結婚前提の恋人になりましたって。他の婚約者は探さないでくださいって」
早く『虹川征士』になりたい。虹川会長は笑顔で祝福してくれた。資質があるので、僕が恋人になって良かったと言ってくれた。前から思っていたけど、僕の資質って何だろう。資質が一番と言われた。
♦ ♦ ♦
恋人になってからある日。月乃さんが卒論取材に、石川県へ行くと話してきた。
ここから石川県は遠い。しかも泊まりがけだと言う。心配になった僕は同行を願い出た。月乃さんはお嬢様なので、普段の移動は専ら自家用車だ。電車に乗り慣れていない。きっと乗り継ぎで失敗するだろう。
心配していると、あっさり月乃さんは同行を許可してくれた。その場で金沢のシティホテルへ電話して、シングルを二部屋予約してくれた。僕は注意深く、ホテル名を聞いていた。
月乃さんの部屋を出た僕は、その足で、虹川会長の書斎へ向かった。
「僕まだ十七歳ですけれど……。今度、月乃さんへ求婚しても良いですか?」
「勿論だ。十八歳になったら、うちへ婿に来るといい。婿に来れば経済面で苦労はさせない。一刻も早く婚約して欲しい。早く女の子が欲しいと考えているんだ」
虹川会長は、拍子抜けする程あっさりと求婚を認めてくれた。しかし、一刻も早く女の子が欲しいとは……。女の子? 何故だろう。
次に、神田先輩へメールした。
『月乃さんへプロポーズしたいので、彼女の左手の薬指のサイズを教えてください』
しばらく経ってから、メールが返ってきた。
『私と石田さんの、お揃いのファッションリングを見るという口実で、月乃ちゃんを連れ出しました。月乃ちゃんの薬指のサイズは九号サイズです。頑張ってね』
神田先輩、何て良い人だ!
僕は薬指のサイズが聞けたので、両親にお願いした。
「僕、月乃さんへプロポーズがしたいんです。婚約指輪が買いたいんです。一生のお願いです。僕に出世払いで、指輪を買うお金を貸してください!」
両親へ土下座した。
両親はそれを聞いて、笑って、お金を銀行から下ろして来てくれた。数十万円だったので、なるべくダイヤモンドが大きく見えるように、リング部分は細目のデザインのものを選んだ。
最後に、聞いていた金沢のホテルへ電話した。
「すみません。先日、虹川月乃の名前で予約した連れなんですが……。実は僕、虹川さんへサプライズでプロポーズしたいんです。シングル二部屋で予約したんですけど、何とかならないでしょうか?」
『……かしこまりました。そのようなご事情でしたら、眺めの良いダブルルームをご用意いたします。他の部屋は満室だとお答えします』
「ありがとうございます! 感謝します! 是非よろしくお願いします」
ホテルの人が良心的で助かった。これで、外堀は全て埋められた。
虹川会長と、神田先輩と、ホテルの人へもう一度、心の中で感謝の意を伝えた。
後は僕が、月乃さんへプロポーズするだけだ! 絶対決めてみせる!
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