第2話 よくあるザマァな結末

 学園を卒業して十年の時が流れた。


 先代の国王が突然の退任を発表した。

 理由は新しくめとった若い側室といちゃいちゃしたいという我儘である。


 そして退任の発表から半年後に行われることになった新国王の戴冠式。

 中央、地方、全ての貴族たちが新たな国王に忠誠の挨拶に赴いている。


「陛下、次はサイハーテ卿でございます」


 挨拶に来る順番の書かれている巻物を見ながら側近が耳打ちしてくる。


「ああ、サイハーテ伯か」


 そして真紅の絨毯をゆっくりと歩いてくる細身の男。

 三十を前にしているはずなのに、その顔は未だ少年の様に見える。

 いや、昔より更に痩せたか?

 少し頬がこけているように見える。


「おお、センホール。久しいな」


 この男に会うのは、あの卒業式以来か。


「ご、ご無沙汰いた、いたして、おります……」


「どうした?久しぶりの学友の再会なのだ。もっと気楽にするがいい」


「い、いえ!わたくし如きが恐れ多いことでございます!!」


「ふむ、貴公がそう言うのであれば仕方ない。で、どうだ?は?自然豊かで美しいところであろう?」


「はい!多くの自然に囲まれた美しいところであります!」


「そうか、喜んでくれているようで私も一安心だ。噂によると民の数よりも猿の方が多いなどと聞くが、さすがにそのようなことはあるまい?」


「そ、そうでございますね……辛うじて、僅差で領民の方が多いのではないかとは思いますが……もしかしたら負けているやもしれません……」


「はっはっはっ!そうかそうか!それ程までに自然豊かな土地が我が国にあるということは非常に喜ばしいことである!これからも無理に発展させることなく、その自然と共存していくことを私は望むぞ」


「はい……陛下の御心のままに……」


「ところで話は変わるが――貴公のご婦人、ロリエットは元気にしておるか?」


 学園を卒業して二年後にセンホールが正式にカキツバタ家の当主となり、その翌年に婚姻を結んだ二人。

 そしてさらにその翌年、新たに最果ての開拓地であるサイハーテ領へと領地替えになったセンホール。


「妻は、その……現在寝込んでおりまして……」


「なんと!それは大事!どうした?病か?怪我か?」


「……怪我でございます。その……領主邸に入り込んできた猿と喧嘩になりまして……」


「は?猿と喧嘩とな?あのロリエットがか?」


「はい……。その、パンを盗もうとした猿から、無理やりに取り戻そうと飛び掛かって……その際に、臀部でんぶを噛まれまして……」


「……そ、そうか。そのような時に遠路はるばる来させてしまってすまなかったな」


「いえ!陛下の戴冠式ですので、どれほどの距離があろうと馳せ参じるが臣下の務めでございます!」


「馬車で二か月ほどの距離だったか……遠いのお。それならば、サイハーテ領に戻る頃には傷も癒えているやもしれんな」


 そもそもサイハーテの地がどこにあるのかも俺は把握していないのだが。


「今日は懐かしい顔を見れて嬉しかったぞ。帰路には十分に気を付けて帰るがいい」


「ははっ!ありがとうございます!」


 そう挨拶をして帰っていくセンホール。

 結局一度も俺の顔を見ることがなかったな。


 帰っていく更に細くなった後姿を見ながら考える。

 どうしてあの二人はあのような行為に及んだのだろうか?と。


 侯爵家の令嬢と子爵家の嫡男である二人が、この王家唯一の男子であり王太子だった俺に、何故あのような馬鹿げた行動を取ったのだろうかと。


 もし万が一俺に非があったのだとしても、あの場にいたのはほとんどが貴族の子息たち。

 将来のことを考えたら、あの二人の側に付くはずがないではないか。

 しかも卒業式だぞ?

 翌日からは毎日顔を合わせることもない二人と、いつかは国王になる俺のどちらかを選ばせるなんていう行動は暴挙でしかない。

 やるならせめて在学中にやれよ。

 それでもあれくらいで廃嫡なんかされねーよ。


 それに俺が何とも思っていないとしても、周囲が俺を馬鹿にした二人を放っておくはずがないじゃないか。

 案の定、子供たちから報告を受けた親たちの力で領地換えをさせられたのだからな。

 誰がその件に関わっていたのかのリストまでご丁寧に届けられてきた。

 これは自分たちの手柄ですから、今後もよろしくお願いしますって事だろうな。


 ふう……まったく……。


「おい、少し耳を貸せ」


 俺は側近の一人を傍に呼ぶ。


「城にある一番効果のある傷薬をサイハーテ領まで早馬で届けるように手配しろ」


「え?あ、はい。承知いたしました」



 ザマァと思うか?

 すっきりしただろうって?


 そんなこと思うわけないだろう。




 あの時言ったように、俺は彼女のことを心から愛しているんだからな。





―― 完 ――


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